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アングラの王子様 35

そして、稽古や宣伝活動など、バタバタとしているうちに、定期公演の当日となった。
19時の開演時間に合わせて私達は、動画サークルの部室にいた。
演劇サークルの部室と違って、部屋の中は綺麗で、まだ新築の匂いがする気がした。
動画撮影用のビデオカメラや三脚、音響機器が整然と並べられている。

「いやぁ~、恩に着ますよ。部室まで使わせてもらって」

谷垣さんが動画サークルの人に御礼を言う。

「できる限りのことはさせてもらったからな。後は好きにしてくれ。俺たちはこれ以上関わらないからな」

そう言って、動画サークルの人達は部室から出ていった。
谷垣さんがどういう条件で動画サークルの人達を動かしたのかはわからないが、なんだか早く解放されたい、といった様子が見えた。
動画サークルの部室に取り残された私達、演劇サークルの4人は、パソコンのモニターを囲む形で見つめていた。

「思いのほか、閲覧人数が伸びていますね」

開演まであと5分というところで、視聴者数が2000人を超えている。
これは唐沢マリンのライブ配信の視聴者数の比ではない。
どんなマジックが起きたのだろうか。

「例のSNSの炎上騒ぎと爆破予告が注目を集めているんでしょうね。きっとまだまだ増えますよ」

谷垣さんの言う通り、ものの数分で3000人を突破した。

「さあ、開演まで残り2分です」

谷垣さんが満を持して、といった面持ちで言い放ったが、私たちはパソコンのモニターの前から動かない。
これが、谷垣さんの言うところの「秘策」である。

「なんだかんだ言って、本当に爆破されてしまっては、私達も危険ですからね」

「秘策」とは、ライブ配信を装った、事前収録の配信のことだ。
つまり、アングラの講堂で事前にお芝居をしたものを撮影し、それをあたかも生放送であるかのように見せかける、ということだ。
万が一、配信中に爆破されたとしても、私たちは新サークル棟にいるので、安全が確保されている、という寸法だ。
これから自分の演技が3000人もの人達に向けて、配信されると考えただけで、手の中に汗が滲む。

「どう?初めてのお芝居は?・・・緊張した?」
「緊張しましたよ!撮影だからってミスは許されませんし・・・今から配信されるって考えただけでまた緊張してきました」
「そうよね。私も初めて舞台に立ったときはそんな感じだったなぁ」

国枝さんは、初舞台に緊張している私に対して、懐かしそうに目を細める。

「さあ、お二人とも、お喋りはそれぐらいにしましょう。開演しますよ」

谷垣さんのその言葉を待っていたかのように、モニターに映し出された講堂の幕が開いた。

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