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デッドオアライト 25

久代の言葉に二人は黙り込んでしまった。
テーブルの上のチョコレートパフェがゆっくりと溶けていくのを久代はじっと見つめている。
店内には流行りのJ-POPが流れていて、斜向かいに座っているカップルがその曲が起用されているドラマの話をしている。
それに対していい歳をした男三人が雁首揃えて無言で考え込んでいる様は、どこから見ても異様だった。
三島哲也は溶けてしまったチョコレートパフェをスプーンですくったが、口に運ばずぐちゃぐちゃとかき混ぜながら弄んでいる。
まるでそのパフェの中に、何か希望を探すかのように。

それから数分経過して口火を切ったのは、腕を組んで考え込んでいた白木だった。

「久代さんは、週刊誌の記者ですよね?」

久代は「何を今更」と言った様子で顔を上げた。
久代と白木が最初に会ったのは、白木の所属事務所で「しらたき」の取材の時だった。
久代が週刊誌の記者でないなら2人は出会うことはなかっただろう。
久代は軽く頷いて話の続きを促した。

「久代さんが権力者達の悪事を暴けばいいんじゃないですか?その一般人に危害を及ぼしてるっていう話を記事にして失墜させるっていうのはどうですか?」
「いや、それは・・・」

白木の意見を否定しようとした久代だったが、顎に手を当ててそれについて考え出した。
三島哲也もスプーンをパフェの中に放り込んで言った。

「それはアリかもしれない・・・権力者が失墜すれば、奴らも制裁を下すことがなくなるかもしれない・・・あくまで、可能性ですが」

三島哲也と白木は久代の方を見遣る。
どんな決断をするのか、それは彼に委ねられている。
全ての事実を知っているのは彼だけなのだから。
久代はふっと笑って答えた。

「僕はうだつの上がらない記者ですよ?そんな僕に何ができるんでしょう・・・」
「少なくとも僕と三島さんはあなたに救われました。あなたにはそれだけの力があります」

「それに」と白木は付け加えて言った。

「僕と三島さんが協力すれば、きっと記者として出世できますよ。ね、三島さん?」

三島哲也は顔を歪めて笑みを浮かべながら頷いた。

「命の恩人ですから・・・久代さんの為ならなんだってしましょう」
「だから、久代さん・・・今回の件、諦めないでください。僕らが諦めたら終わりですよ。正義の味方じゃなくたっていいじゃないですか。僕らにできることを精一杯やる。それでいいじゃないですか」
「お2人とも・・・」

白木と三島哲也の温かい言葉に久代は顔を綻ばせた。
自分にできることは多くはない。
動いた挙句、誰かを傷つけるかもしれない。
それでも白木の言うようにやれるだけのことはやって胸を張って生きた方が楽しいに決まっている。
久代は今回の件に一生を掛けて立ち向かっていく決心をした。
今度は一人じゃなく、三人で。

「それじゃあ、まず、お2人の記事を書かせてください。きっと素敵な記事にしてみせます」

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