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アングラの王子様 23

私はユミから聞いた唐沢マリンの情報を谷垣さんに伝えた。
唐沢マリンの噂、気に入らない人がいたら彼女の周りにいる男達にお願いして処分してもらぅているという話だ。
谷垣さんは顎に手を当てて考えるような仕草をしてから意見を言った。

「そうなると、事態は余計ややこしくなりますね。実行犯と主犯格が別にいるわけですから、爆破予告した人物を捕まえたとしてもまた何かしらの手段を講じて我々に危害を加えるでしょうね」
「主犯格の唐沢マリンをどうにかするしかないってことでしょうか」
「そうできれば一番いいんですけどね。唐沢マリンが主犯であるという証拠がないわけですから、どうにもしようがないですね」

ーーーーー証拠。
確かにそんなものは存在しない。
唐沢マリンが怪しいってことも私達の憶測に過ぎない。
全く関係ない、第三者の仕業ということだってあるんだ。

「まあ、でも。白石さんの情報のおかげで、唐沢マリンの疑惑は深まりました。ありがとうございます」

谷垣さんはそう言って頭を下げるが、私は困惑していた。
疑惑が深まって、感謝されるのってあんまり気持ち良いものではない。
谷垣さんが頭を上げて、再びパソコンの画面を見て、何かに気がついた様子だ。

「おや?」
「どうしたんですか?」
「これを」

谷垣さんはノートパソコンの画面をこちらに向けてきた。
唐沢マリンがたった今投稿したらしい。
『いきなりだけど、5分後にライブ配信しま〜す!』
間伸びした文字がいかにも唐沢マリンらしい。

「これはチャンスかもしれませんね」
「え?」
「とりあえず、参加しましょう」

数分後にライブ配信が開始されて、私達は谷垣さんの持っている裏アカで参加した。
画面に唐沢マリンがアップで映し出される。
甘ったるい声を出しながら、アイス食べたいとか授業めんどくさいとか、他愛もない話をしている。
こんな配信誰が見るんだろうと思っていたが、5分もすれば20人近くの視聴者がついていた。
ライブ配信のことはよくわからないが、素人の大学生がいきなり配信を始めたにしては多い方なのかもしれない。

私の横でつまらなそうに配信を眺めていた谷垣さんがあることに気がついた。

「これ、投げ銭機能ありますね」
「投げ銭?」
「ほら、たまにコメントに色がついているでしょう?その下に¥200と表示されています。これは視聴者から唐沢マリンへお金を渡していることになるんです」

配信でお金のやり取りが発生していることを私は知らなかった。
今までSNSなんかに興味がなかったため、少し感心してしまう。

「投げ銭、してみましょう」
「へ?」
「まずは1,000円から。これで何か情報が掴めるかもしれません」

そんなことで上手くいくんだろうか。
爆破予告の主犯格と疑っている相手にお金を渡すのって、敵に塩を送るようなもので何だかおかしい気がした。

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