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アングラの王子様 38

「唐沢・・・マリン・・・?」

今井君がスマートフォンの画面を見て驚いている。

「実は以前から彼女が怪しいと思っていて、尻尾を掴んでいたのですが、あなたに伝えるのはどうしても憚られていました」
「どうして・・・」
「唐沢マリンが演劇サークルに現れた目的はあなたと芝居をするためでした。それを断ったことを彼女は根に持っていたようです。唐沢マリンが犯人だとあなたに伝えると、あなたはきっと必要以上に自分を責めることになるでしょう」
「それは・・・」

言いかけてぐっと飲み込んだ。
きっと谷垣さんの言う通り、自分に非があると思っているのだろう。

「そうなると、お芝居にも余計な力が入って、うまくいかなくなる。それどころか、あなたは1人で解決しようとして、唐沢マリンに接触するかもしれない」

今井君はそれについてしばらく考えたあと、答えた。

「確かに、彼女を説得していたでしょうね。それのどこが悪いんですか?」
「直接会って彼女を説得するのは危険です。刺激すると何をしてくるかわかりません。それに、私達を人質にとって、あなたに不利な条件を飲ませるかもしれない」

2人が話しているうちに、お芝居は佳境を迎えた。
アングラがついに爆破する、というシーンだ。

「2人とも、言い争ってる場合じゃないよ。これ、見て!」

国枝さんがスマホの画面を指差して、皆の視線がそちらに集中する。

「じゃあ、そろそろ爆破ボタンを押しま〜す」

唐沢マリンの手元にクイズの回答ボタンのような、真っ赤なボタンが用意されている。

『爆破しちゃえ!』
『本当に爆破したらこいつらビビるだろうな』
『ビビる間のなく木っ端微塵よ』
『カレン様に歯向かう奴はこうなる運命なんだよ』

そして、スマホの画面の中の唐沢マリンがカウントダウンを始める。

「10・・・9・・・8ーーーーー」

「このままだとアングラが爆破されますよ!」

今井君が谷垣さんに詰め寄る。
谷垣さんは平然とスマホの画面を見つめている。

「7・・・6・・・5・・・4」

「何とも思わないんですか?」
「もう遅いですよ、今から何かしようとしても」
「そんな・・・」


「3・・・2・・・1。どーーん!」

唐沢マリンが真っ赤なボタンを押した。
その数秒後、アングラの方からドン!と音がした。
机の上に置かれたパソコンの画面では、何事もなかったかのようにお芝居が続けられている。
スマホの画面の方は爆破ボタンを押して高揚している唐沢マリンが映し出されている。
まだ、ライブ配信が続いていることに気がついていないようだ。

「くそっ・・・」

今井君が声を漏らした。

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