無機化学演習-大学院入試問題を中心に-2 章解説


例題2・1

各原子が何個電子を持っているかは学部時代の受験でもやったので知っていると思います。参考までですがある原子のもつ最外殻電子の数はその原子が属する族番号の 1 の位です。例えば教科書にあるように 15 族の原子の災害各電子の数は 5 個となります。

このこととオクテット則を知っていればこの問題で問われている。ルイス構造は簡単に書くことができます。ルイス式、ルイス構造の定義は自身でしっかりと確認しておいてください。

オクテット則についてですがある原子の周りの電子数が 8 になるようにします。例えば p25 の NO₂⁻ を例に挙げますが左の酸素に着目すると 2 つの非共有電子対で計 4 個、二重結合は電子が 4 つで成り立っていますから酸素の周りには電子が 8 個あってオクテット則が成立しています。同様に中心の窒素原子についても考えていくと二重結合で 4 個、非共有電子対で 2 個、単結合で 2 個の計 8 個の電子が窒素の周囲にありこちらもオクテット則が成り立っています。そして最後に右側の酸素についてですが非共有電子対が 3 つで 6 個の電子、単結合由来の電子が 2 つで計 8 個の電子が右側の酸素の周囲にありオクテット則が成り立っています。

最外殻電子の数とオクテット則を考えてこの問題を解きましょう。

例題2・2

解説をよく読みこんで VSEPR 則の定義を書けるようになっておきましょう。定義が分かっていれば VSEPR 則に従った構造を書けるようになるはずです。
VSEPR 則の定義は占有度と構造の関係、および電子対間の反発の大小により分子の立体構造が決まる。という考え方です。

p 27 にある占有度の定義を覚えましょう。占有度により表 2・1 にあるように構造が決まります。構造はこの 5 つだけです。

その構造に非共有電子対もしくは原子を割り振っていくわけですがここでもルールがあります。例として (2) の占有度が 6 の XeF₄を考えてみます。教科書 p27 の表2・1 から占有度が 6 であれば八面体形となっていますね。答えを見るとヨウ素原子の下に非共有電子対を配置しています。この非共有電子対がアキシアル方向(上、下)にある場合は正解となりますがエクアトリアル方向(横)にある場合は不正解です。実は占有度により構造が決定されたら非共有電子対と原子を適当に振り分ければいいというわけではありません。その配置をするときに電子対間の反発の大小を考慮するのです。このルールは教科書で理解できると思いますので省略します。

VSEPR 則の定義は占有度と構造の関係、および電子対間の反発の大小により分子の立体構造が決まる。というものでした。占有度により決まる構造をまずは覚えること、その後ここでは省略しましたが教科書に記載されている電子対反発のルールを覚えれば VSEPR 構造を書けるようになります。

例題2・3

(1)フントの規則とパウリの排他原理に従って電子を書き入れましょう。

(2)教科書 p37 の表2・2 の節面というところを見てください。原子軌道には正の位相を持つものと負の位相を持つものが存在しています。同じ位相同士が軌道を作ると結合性軌道に、異なる位相を持つ者同士が分子軌道を作ると反結合性軌道が形成されます。半結合性軌道は節面があることが教科書の図を見てもわかります。(教科書では節面は|または━で表されている。)問題の図ア~カを見ると節面が描かれていたり軌道のローブの数からこれは p 軌道が相互作用しているなどのことが分かります。このようにして解いていくと解答の通りになります。

表2・2 の軌道の相互作用の形はしっかりと覚えておきましょう。どの軌道がどの形であるかを把握することはとても重要です。

(3)まずは結合次数の定義をおさえましょう。教科書 p36 にあるように結合次数とは結合性分子起動中の電子数から半結合性分子起動中の電子数を 2 で割ったものになります。

次に各軌道について考えたいのですが p 37 の表 2・2 を見てください。 σ₁ 軌道は各原子の 2s 軌道による結合性軌道、σ₂ 軌道は各原子の 2s 軌道による反結合性軌道、π₁ 軌道は 2p 軌道による結合性軌道というように軌道の相互作用がこの表には示されています。この軌道の相互作用は下から順に覚えておくことをお勧めします。

よって結合次数の定義とある分子軌道が結合性軌道なのか反結合性軌道なのかという知識より各分子の結合次数を求めることができます。

注:分子軌道図に 1s 軌道の相互作用が載っていませんが省略されているだけです。電子の数を数えるとつじつまが合っていることが分かります。

(4)結合次数が 0 の化合物は安定に存在できません。この理由で Be₂ 以外にも He₂は安定に存在できません。

(5)解説参照

(6)解説参照

(7)解説参照

(8)N₂⁺ イオンは N₂から電子が 1 個とれたものです。電子は最もエネルギー準位が高く不安定な軌道から抜けていくことを思い出すと、N₂の結合性軌道である σ₃ 軌道から電子が取れます。そうすると結合次数の定義より結合次数が低下することが分かると思います。

(9) (8)同様に考える。

注:p 35 に記載されている 2σ 軌道と 1π 軌道のエネルギー準位の逆転は非常に重要なので N 原子と O 原子のところでエネルギー準位が逆転することだけでなくその理由もしっかりと覚えておくようにしましょう。

例題2・4

難問です。考えて解ける人はかなり少ないでしょう。HF の分子軌道の問題になります。解説に書いてあることを理解できるのであれば理由とともに分子軌道と電子配置を覚えましょう。理解できなければ分子軌道と電子配置を丸暗記でいいと思います。F の原子軌道はいずれも H の 1s 軌道よりもエネルギー順位が低くなっていますがこれは F の電気陰性度が H よりも大きく安定なためです。(2・23 参照)

解説に出てくる非結合性軌道はこの後の章でも出てくる重要なキーワードですので定義を確認しましょう。非結合性軌道とは電子による占有が、関与する原子間の結合次数を増加も減少もさせない分子軌道のことです。この問題では結合性相互作用と反結合性相互作用の 2 つが働いて 2σ 軌道がほぼ非結合性軌道となっています。

例題2・5

(1)解説参照。両端の小さい黒丸が H 原子で中心の A 原子は省略されています。

(2)解説参照。 Φ₂s とΦa のエネルギー順位の大きさを足し合わせた線を考えるとグラフの左から右に行くにつれエネルギー準位が減少している下に凸の曲線が考えられます。その曲線におけるエネルギー順位の最小値はグラフの右端、つまり分子が直線形の時です。

(3)解説参照。Φ₂px 軌道は直線です。横軸の角度が変化してもエネルギー順位に変化はありません。つまり解説にあるように角度依存性がないのです。角度依存性のない軌道に電子がいくつ入っていても分子全体の角度に影響はありません。その他の軌道に入っている電子の数が同じなので H₂O とNH₂ の結合角の値は近くなります。

2・1

解説参照。既出。原子の最外殻電子の数はその原子の属する族番号の 1 の位です。このこととオクテット則を組み合わせてください。詳しい解説は例題2・1 へ

2・2

解説参照。この問題も前問と同じようにオクテット則を満たすように共鳴構造を書きましょう。

2・3

解説参照

2・4

解説参照。結合性軌道とは同じ位相の原子軌道同士が相互作用してできた分子軌道です。この問題自体は院試に出ることはほぼないと思われますが、例題にあった HF などの化合物の分子軌道図を考えるのに役立つために描けるようにしておきましょう

2・5

解説参照。こちらも 2・4 と同様にいつでも描けるように覚えておいてください。


2・6

解説参照。半結合性軌道とは異なる位相の原子軌道同士が相互作用してできた分子軌道です。2・4、 2・5 と同様に暗記しておいてください。

2・7

最も単純な分子軌道エネルギー図を描く問題です。2 つの 1s 軌道同士の相互作用で結合性の σ 軌道と σ* 軌道ができます。アスタリスク(*)は分子軌道が反結合性軌道であることをあらわしています。

2・8

教科書の p 36 を参照してください。F₂の分子軌道図が描かれています。さらに p37 の表 2・2 に結合軸を z 軸として考えたときの分子軌道の相互作用の図と原子軌道の組が記載されています。F₂の HOMO は π₂ 軌道、LUMO はσ₄ 軌道です。よってπ₂ 軌道 と σ₄ 軌道の分子軌道図を描けば答えになります。

2・4 で解説したように分子軌道図と軌道の相互作用図はセットで覚えましょう。等核二原子分子の場合はマストで暗記しましょう。

注: HOMO と LUMO の定義は絶対に暗記してください。HOMO は電子の入っている分子軌道のうちエネルギー準位の最も高い分子軌道のこと、 LUMO は電子の入っていない分子軌道のうちエネルギー準位の最も低い分子軌道のことです。

2・9

極限構造式とは共鳴構造と同意です。
共鳴構造における結合次数の定義ですが解説にあるように(各極限構造式における着目する結合の結合次数の和/極限構造の数)で求められます。

2・10

VSEPR 構造の書き方は例題 2・2 の解説を参照してください。点群の解説は難しくかなり長くなるので省略します。どちらかというと出題の珍しい分野でもあります。大学受験でいう化学の高分子、物理の原子核などの範囲のようなものです。

点群についてのおすすめの参考書はコットンガウスウィルキンソン無機化学です。Youtube には点群を知らない人が簡単に理解できる動画はなかった気がします。気になる人は大学図書館でコットンガウスウィルキンソン無機化学を読んでみてください。

2・11

解説参照。丸暗記してください。また分子軌道図を描けという問題もよく出るので各自かけるようにしておいてください。

2・12

(1)解説の通りです。混成軌道について理解しているかがポイントになります。
sp³ 混成:メタンの中心炭素は 2s 軌道に 2 つ、2p 軌道に 2 つの電子を持ちます。よって 2 種類の C-H 結合をすると考えるかもしれませんが実際にはすべての C-H 結合は等価です。これは 1 つの S 軌道と 3 つの P 軌道が混成して一つの原子軌道、SP³ 混成軌道を作っているからでした。図で理解し他方が分かりやすいと思いますので各自図を検索してください。著作権の関係で乗せられません。

sp² 混成:次はエチレンの構造を考えます。2s 軌道と 3 つある 2p 軌道のうち 2 つだけを組み合わせます。この組み合わせからは sp² 混成軌道と呼ばれる 3 つの混成軌道が生じ、2p 軌道の 1つは使われずに残ります。 2 つの sp² 混成軌道を持つ炭素が近づいたとき σ結合とそれだけでなく先ほど使われずに残った p 軌道同士が重なった π結合ができます。全体的に分子を見ると二重結合を持つ化合物となります。

sp 混成:次は炭素の p 軌道の 1 つだけを 2s 軌道と混成させます。その結果この場合には 3 つある 2p 軌道のうち 2 つが使われずに残ります。そして sp 混成同士の炭素を近づけると σ 結合が形成され、残った 2 つの p 軌道が 2 つのπ結合を形成します。すると分子全体は三重結合を持つことになります。

(2)解説参照。 d 軌道も混成を行うことがポイントです。初見で解くのは難しいでしょうから繰り返し解くことで暗記しましょう。

2・13

(1)解説参照。オクテット則を満たすように書いてください。もう一度オクテット則についてですがこの問題の回答が記載されているページを見てください。左上の図を用いて解説すると N は 2 つの単結合と 1 つの二重結合を持っています。単結合は電子 2 個、二重結合は電子が 4 個で構成されているので N の周りには電子が 8 個ありオクテット則を満たしています。他の元素についても同様です。

(2)解説参照。

(3)解説参照。

(4)解説参照。 (1), (2) と同様の問題です。

2・14

問題文の”孤立電子対も含めて”という”部分を見て VSEPR だとわかるようにしてください。詳しい解説は例題 2・2まで。ここでは定義だけ書いておきます。VSEPR 則の定義は占有度と構造の関係、および電子対間の反発の大小により分子の立体構造が決まる。という考え方です。

2・15

オクテット則に従いルイス構造を書いたのち VSEPR 構造を書きます。
(1) は答えが抜けていますが直線系です。 (2), (3) は解説参照。 VSEPR は占有度によるとる構造が決まっています。それを覚えていない人は例題の解説を読み込んで覚えてください。



2・16

1) は直線系で180 度、2) は正三角形で 120 度、3) は折れ線型で 104.5 度、4)は三角錐型で 107.3 度です。この数字は覚えておいたほうがいいかもしれません。

2・17

解説参照。暗記しましょう。

2・18

(1)分子軌道図の書き方は例題 2・3 を参照してください。p35 の 2 段落目にあるように酸素原子とフッ素原子は軌道の大きさが大きいため 2s 軌道と 2p 軌道の相互作用が無視できます。よって分子軌道の数を下から数えていくと1, 1, 2, 1, 2, 1となります。軌道の相互作用が無視できない窒素以前の原子は 1, 1, 1, 2, 2, 1 でした。

(2) O₂⁺ は O₂ から電子が一つとれたもの、O₂⁻ は電子が一つ多いもの、O₂²⁻は電子が 2 つ多いものです。それぞれ分子軌道図に 1 つ電子を加える。分子軌道図から電子を 1 つとる、2 つ取る。の操作を行うと各々の分子軌道図となります。

結合次数は教科書 p36 にあるように結合次数とは結合性分子起動中の電子数から半結合性分子起動中の電子数を 2 で割ったものになります。どれが結合性軌道でどれが反結合性軌道なのかは教科書 p37 の表を見てください。

不対電子の数は分子軌道図からわかります。そして不対電子を持つものが磁性を持つ化合物です。

2・19

分子軌道図を書く良い練習になる問題です。この問題では等核二原子分子の基本的な知識が網羅されています。N と O で原子軌道の相互作用による分子軌道の逆転が起こることは問題文にも記載してあります。

(1)解説参照。

(2)分子軌道図よりわかります。

(3)結合次数は教科書 p36 にあるように結合次数とは結合性分子起動中の電子数から半結合性分子起動中の電子数を 2 で割ったものになります。どれが結合性軌道でどれが反結合性軌道なのかは教科書 p37 の表を見てください。

(4)イオン化エネルギーはイオンを取り去るのに必要なエネルギーでした。エネルギー準位が高く不安定な軌道から電子を取り去るのに必要なエネルギーは小さくなります。

(5)解説参照。結合次数が大きいと結合距離が短い。結合次数が小さいと結合次数が長い。結合次数が 0 ならばその化合物は不安定となります。

2・20

(1)解説参照。解説を読めば理解できると思います。分子軌道図の書き方が分からない人は例題2・3 と2・19 を復習してください。それがわかっていれば問題文の①と②はわかります。③は分子軌道図の右側に書いてある図のことです。位相が同じ s 軌道同士の重なりと位相が異なる s 軌道同士が重なっている図を書いてください。

(2) He の 1s 軌道と He* の 1s 軌道が相互作用して結合性軌道の 1σ 軌道が、He の 1s 軌道と He* の 1s 軌道が相互作用による反結合性と、He の 1s 軌道と He* の 2s 軌道が相互作用による結合性が合わさって 2σ 軌道ができます。3σ はHe の 1s 軌道と He* の 2s 軌道が相互作用してできた反結合性軌道です。いずれも s 軌道同士が相互作用しているので分子軌道は σ 軌道でエネルギー低い順に 1, 2, 3 と番号を振っています。

2・21

酸素原子のほうが炭素原子よりも電気陰性度が大きいです。よってエネルギー的に安定なため(2・23 を参照)酸素原子の 2s 軌道のほうが炭素原子のそれよりもエネルギー的に安定なところにあります。CO の場合には 2s 軌道と 2p 軌道の相互作用を無視することができず第 2 周期の窒素原子以前の等核二原子分子の分子軌道図のパターンとなっています。

2・22

先ほどの CO とは違って NOの場合は 2s 軌道と 2p 軌道の相互作用を無視することができるようです。問題文にあるように O₂ と F₂ の分子軌道図のパターンと同じです。この問題が分からなかった人は 2・19 を解きなおしてください。

2・23

解説参照。暗記してください。

2・24

NF の場合は 2s 軌道と 2p 軌道の相互作用は無視できないようです。正直どの化合物が 2s 軌道と 2p 軌道の相互作用を無視していいのかわかりません、私はパターンが少ないため化合物によって無視できる、できないと暗記していました。

(2)省略

(3)分子軌道図を見ると不対電子の数が分かります。以下に大切な式を示すので暗記するか教科書に書き込んでください。
スピン多重度 = 2S + 1
S=不対電子の数 ÷ 2     です。
スピン多重度 = 3 となったら三重項状態です。
この式は 6 章でも使います。

 

2・25

(1)それぞれの軌道のエネルギーが与えられています。それに従って分子軌道を書きましょう。非結合性軌道があることに注意してください。

https://www.youtube.com/watch?v=z9kVOV5BXIE

https://www.molecularscience.jp/lecture/BasicInorg_14.pdf

分かりやすい分子軌道図の書き方の動画を載せておきます。

(2)解説参照。

2・26

(1) 点群は省略します。各自コットンガウスウィルキンソン無機化学を参照してください。

(2)基準振動のモードはシュライバーアトキンス無機化学を参照してください。点群と同じように省略します。

(3)解説参照。この教科書と有機化学の教科書では反対方向に双極子モーメントが描かれています。私では解説できません。申し訳ありません。

(4) (2)と似た分野です。省略します。

(5)三原子分子の分子軌道図の書き方はジボランも含めて覚えてください。

(6)わかりません。すいません。分かる人いたら教えてください。

(7), (8) 解説参照。例題 2・5 でも似たようなことをやっています。




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