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眠りにつかないゴールドベルク変奏曲#グレン・グールド

32歳で彼は表舞台から姿を消した
一時的な休業かと思われたが皆の期待を裏切り二度とコンサートを開くことはなかった…1964年の事である
そして「ひきこもり」となる

まだレコードが貴重な昔の話である
音楽家として自分の演奏をただただ記録に残すことにすべてをかけた
天才ピアニストと称された彼はなぜ彼の演奏を心待ちにする観客の前から姿を消したのか

人間嫌いで変わり者と言われた彼の演奏を映像で見たことがある。
独特な演奏とピアノを弾くことが心から楽しそうな顔。
ピアノがまるで自身の親友のように…

音楽に対する真摯な姿勢が度を越して観衆へ嫌悪感となったのだろうか
コンサートでは、一般受けのない難解な曲を選んでいたり、舞台の椅子を調整しはじめてオーケストラや観客を数十分待たせたりしたとある
非常識と思われそうだが私はそれをとても愉快に思う
芸術家は、人に迎合する必要はないのではないか
存在し表現することで皆が感じ取ることが大事なのだから


遺作となったゴールドベルク変奏曲は二度録音されており聴き比べると全く違うものだ。
1度目は20代のアナログ録音、若くルックスの良さもプラスして脚光を浴びた頃だ。2度目が50歳の亡くなる直前のデジタル録音である
まったく別の解釈で演奏をしているのを理解する
音楽家としての生涯の起承転結のように凝縮している
死期を予感していたのかと感じるほど…

バッハのゴールドベルク変奏曲は眠りを誘う為に作曲された
しかし私は眠りにつく際によくBGMに流すけれど
毎回約50分の演奏を最後まで耳を澄ませて聞き入ることとなる
グールドのピアノは子守歌にはならない

デジタル録音を終え50歳で短い生涯を終える。
亡くなった際、いつも使っているベッドの枕元に愛読書の夏目漱石の草枕が置いてあったという
グールドはそれを何度も読み返していた

智に働けば角かどが立つ。情に棹さおさせば流される。意地を通とおせば窮屈だ。とかくにひとの世は難しい。

夏目漱石 「草枕」

世の不条理をこんなにも一言で表現する冒頭文に彼が共感した気持ちが良くわかる。そしてこの心地よい日本語のリズムすらも音楽のように彼が感じていたのだと思いたい

夏目漱石を思う

「草枕」は夏目漱石の芸術論が散りばめられていて
つかみどころのない哲学的な部分がグールドを癒したのかもしれない

孤独なピアニストと呼ばれる彼は本当に孤独だったのか
少なくても1981年に録音されたこの音は永遠に人々の耳に癒しと感動を与えてくれるのだ…

1982年10月急逝したグールドは、やっと人の世を離れ思い存分ピアノを楽しんでいるだろう
鼻歌を口ずさみながら…


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