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シェリーの思い出

今日も今日とてお酒の話です。
シェリーについての思い出を語ります。

シェリーというのはとても優れたお酒です。にもかかわらず日本における認知度は低く、飲んだこともなければ、どんな酒かも知らないという人がほとんどかと思います。
それが悲しいやら勿体無いやら…ということで応援の意味も込めてシェリーを紹介しようというわけです。

(製造法、歴史等にはあまり触れません。単純に調べ不足が理由です。
また、シェリーについて書かれた本を読んでも、疑問が疑問を呼びます。本が悪いということではなく、謎多き酒ということなのでしょう。どうかご勘弁を。)

最初の出会い

当時、ウイスキーに没頭していました。

シェリーの話で何故ウイスキーが登場するのかと疑問に思うかもしれません。しかし、ウイスキーを作る過程で最重要とも言えるのが樽熟成です。そしてこの樽にはシェリーの熟成に使用したものが転用されることがままあります。
そのため、ウイスキーの熟成過程を勉強する上で、「シェリーってどんな酒だ?」と疑問を持ち、実際に飲んでみようということになったのです。

とりあえずウェブ検索をすると、シェリーはスペインのお酒でたくさん種類がある、ということが分かりました。そこで次にスペインバルを見つけたら注文してみることにしました。

初めてシェリーを飲んだのは上野駅前のスペインバルでした。はっきり言ってあまり良い思い出ではなかったので断片的にしか覚えていません。
頼んだのは辛口白タイプのフィノというものです。
注文から間も無くグラスが運ばれてきました。愕然とします。
小さなリキュールグラスにちょびっとしか注がれていません。

「え!?シェリーって一口で飲むものなの!!??」

初めて飲むものでしたが、なんとなく白ワインのようなものだろうと考えていたので、リキュールグラスで供されるというのは本当に驚きでした。
しかし、飲み方の勝手など知る由もないので「こんなものなのかな…」と半分疑問、半分納得しつつも飲んでみます。
やっぱり白ワインに似ています。独特のクセがあり、シャルドネやカベソーといった白ワインの定番とははっきり違う味わいですが、大きく分ければ白ワイン系と言えるでしょう。

「食前食中に飲むようなものをこんな小さなグラスでせせこましく飲むなんてあり得ない!」と直感していましたが、それが間違いでなかったことに気づくのはもっと後のことです。

料理に関しては大したことない味で量もなし。価格だけは並程度というなんとも言えない店でした。記憶は朧げにしかありません。
ともかくシェリーの初体験としては中々にひどいものだったとだけは言えます。

めげずに再挑戦…!!

初体験はひどいものでした。しかしめげません。
なぜならば私が本当に飲みたかったのはオロロソとペドロヒメネスというタイプだったからです。
というのもウイスキーの熟成でよく使うのはこの二つのタイプの熟成樽であり、そのほかのタイプは稀に見ることがある程度だったからです。しかし、上述の店にはフィノしか置いてなく、とりあえず飲んでみたというわけです。

セカンドチャレンジは二の轍を踏まないように調べ上げました。
オロロソ(辛口茶)とペドロヒメネス(極甘口)を飲みに行きました。

オロロソはゴベルナドールという、エミリオ・イダルゴというボデガ(シェリーメーカーのことです。ワインで言うワイナリーのこと。)からリリースのあるものでした。
知らない人には一目、長熟のブランデーかウイスキー、はたまたラムだと思ってしまうほどに濃い茶色をしています。アンバーを通り越してマホガニーのような色合い。とてもワインとは思えませんね。

風味はと言うと、色味から受ける印象と違わず、とてもふくよかで丸みを帯びています。ナッツや茶色い枯葉、焙煎コーヒー豆、そして少し酸味を感じる香りです。
味わいはコクがあり、非常に滑らかなのですが、後味はドライです。

次に飲んだのはエルカンダドというペドロヒメネス。バルデスピノ社のもので、茶色い瓶に黄色地のラベル。そしてキャップ部分には鍵が付いています。とても特徴的な外見です。

グラスに注いだ瞬間からとても甘いものなのだということがわかります。高い粘度を帯びていて、とろりとしています。黒蜜のようです。
飲んでみても黒蜜のようだという考えは変わりませんでした。ねっとりとした舌触りでとても強い甘みがあります。乾燥レーズンをミキサーでドロドロにしたような味わいです。しかし、それだけではなくコーヒーやチョコのような香りもあります。

この体験はとても良い思い出として頭の中に残っています。
これまで全く飲んだことのない味わいを持つお酒を飲むことが出来ましたし、ウイスキーに関する知見も増えました。
これほど特徴的なお酒の熟成に使った樽であれば、使い古しの樽とは言え、ウイスキーに多大な影響をもたらすのも納得です。
なにより、ウイスキーの勉強のために飲んでおこうと思っていたお酒がこれほど美味しいとは思っていませんでした。ほかのお酒の付随品としてだけじゃなく、シェリーそのものの魅力に気付けたことが何よりの財産です。

その後も色々飲んでみる

2回目の体験が良いもので本当に何よりでした。
ここで躓いていたらシェリーを二度と飲まなかったかもしれません。
そんなこんなで色々試していくことになります。

レブヒート

シェリーは肩肘張って飲むものではないと思います。
しかし、そんなシェリーの中でも最も気軽に飲めるのがレブヒートです。
これは辛口白のシェリーをベースとしたロングカクテルで、スペインではお祭りの時に飲むものなのだそうですが、日本ではバーで置いているところも最近増えてきました。
レシピはその店によってまちまちですが、私が好きなのはセブンアップなどの柑橘系の甘味炭酸飲料でマンサニージャを割ったものです。バーではジンジャーエールとソーダを半々で割ったものが主流でしょうか。

辛口白というとフィノとマンサニージャの2種類がありますが、フィノは酵母由来の香りが強いため、あくまで個人的にですが、フィノよりソフトな風味のマンサニージャが最適かと思います。

柑橘系のキレと甘みにマンサニージャのミネラリーというかなんというか…そんな感じのフレッシュな味わいが、独特の清涼感を生み出します。(言葉にするのが難しい…)
真夏の夜に熱った体を癒すには最適です。

フィノロック

辛口白のフィノに氷を入れて飲みます。これもあっついあっつい夏におすすめです。独特の酵母の香りが蒸し暑い夏場ではクドく感じられてしまう時がありました。その時に試しにやってみたら思いのほか美味しかったという次第です。サトウキビシロップを入れても良いでしょう。

アモンティリャード

アモンティリャードは辛口茶のタイプですが、オロロソほど濃厚ではありません。酵母膜の下で熟成するフィノと、空気に曝されながら熟成するオロロソの中間のような作りをしています。

ナッツにハーブ、そして少し酵母的な香りと酸味があります。
紹興酒的な味わいだと感じる人が多く、私も似ているとは思いますが、アモンティリャードの方が口当たりが優しく滑らかです。

また、食中酒としてはかなり上位に位置するお酒です。
味わい故か中華料理との相性は抜群です。そのほか、揚げ物との相性が良いように思います。舌に残った余分な油分を洗い流してくれるからです。
兎にも角にも自宅の酒棚に常駐させても損はしないでしょう。

モスカテル

モスカテルという言葉を口にしてみてください。何かに似た語感をしていませんか?
そうです。マスカットです。マスカット種の葡萄を原料としています。

ペドロヒメネスと同じ極甘口に分類されますが、蜂蜜やレモンのような風味があります。以前、宅飲みに持ち込んだのですが、女性陣からのウケが半端ではありませんでした。ただ、甘みがとても強いので好みは分かれるはずです。

おすすめはバルデスピノ社のプロメサというものです。
ペドロヒメネスとモスカテルは、葡萄の遅摘みと天日干しによって強い甘みを作り出します。果実内の水分を蒸発させ、糖度を高めるというわけです。
しかし、プロメサは天日干しの工程を敢えて省略することで、他のモスカテルに比べてサラリとした口当たりに仕上げています。
ドロドロの甘い黒蜜のような舌触りが苦手であるなら、プロメサは幾分飲みやすいのでぜひ飲んでみてほしい一本です。

おすすめしたい理由

ここまでは私が飲んできたシェリーを紹介してきました。
内容は風味に関することが中心です。
しかし、その他にもおすすめする理由があるので、ここでまとめて紹介します。

高品質低価格

シェリーは他の人気酒類に比べ安く買えます。
1000〜2000円が基本ラインで、高くても5000〜7000くらいです。(例外も当然あります。)
しかも、安いものであっても不味くて飲めないということは基本ありません。(劣化してない、シェリーが嫌いという場合を除き。)

安かろう悪かろうということもなく、基本的には誰でも買える価格というのがシェリーの魅力です。ウイスキーなんかは高くて手が出しづらい状況ですが、シェリーはお酒の中でも趣味にしやすい酒類と言えます。

保存が効く

シェリーはワインの一種です。こう言うと、抜栓後なるべく早く飲まないとダメなのかと思うかもしれません。
しかし、シェリーは保存がとても効きます。
辛口白のタイプでさえ、冷蔵保存なら1ヶ月以上は持つはずです。もちろん、味わいの変化はありますが、ネガティブなものではなく、あくまで楽しめる範囲内の変化です。
また、茶色をしたものなら常温保存(冷暗所が好ましいですが)で2、3ヶ月持ちます。
専門家ではないので詳しくは分かりませんが、実際にはもっと保存できるかもしれません。
これはスティルワインではあり得ないことです。

周囲の第一人者になれる!!…かも

シェリーはまだまだ知名度が高いとは言えません。
今のうちにたくさん飲んで勉強すれば、自分のコミュニティーの中でシェリーに一番詳しい人になれるかもしれません。

もっとも、酒の場で蘊蓄を垂れるというのは煙たがられますし、大半の人はお酒の知識や歴史に興味がありません。
正直この項は無理くり捻り出しました…。

でも何かに詳しいって良いことですよね!!ね!!!

残念な部分

ほんの少しだけ残念な部分も紹介です。

まず、置いてあるお店が少ないのが一番の難点でしょう。
これは飲食店、酒販店問わずです。
また、飲食店の場合は置いてあったとしても提供の仕方を勘違いしている場合があります。良いお店ならわかってくれていることかと思いますが、なんてことないチェーンのスペインバルでは注文しない方がいいです。私の初体験みたいなことになります。普通はワイングラスに90〜120ccほど注がれているはずですが、何故かリキュールグラスで供されると言うことがままあります。その上、ボトルの回転率が非常に悪いのか、劣化したものが来る可能性が高いのです。

興味を持ってシェリーを飲みたいと言う人は、シェリー専門のバーで色々教えてもらいましょう。
近所にシェリーバーがない人は大型酒販店に行けば、お店の奥の方に置いてあります。

まとめ

気付けば4000字を超えてしまいました。まとめに入ります。
シェリーというのはとても良いお酒です。
ピンキリのピン(最低値)が非常に高い上に、価格は安定しています。定番品のキリ(最高値)のものでも特に高くはありません。
お酒を趣味にしようという人にとってこれほど適したお酒があるでしょうか。
私はまだまだシェリーのシの字も知りませんが、これからも深い深いシェリーの魅力に長く付き合っていこうと思います。

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