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車いすと自動販売機

私が暮らすのはよくある田舎の町。
昔からの商店街は寂れ、廃れてしまっている。
私は毎朝車で通勤しているのだが、途中に自動販売機がある。
何年も前に畳まれたタバコ屋さんの前にある。
買っている人を見ることは滅多にないのだが、コンビニも近くにないし、やはりあると便利なのだろうか。
スーパーやドラッグストアで買った方がはるかに安いのだけれど。

ある時気が付いた。その自動販売機を定期的に利用している人がいることを。
車いすの男性だ。
年は40~50代といったところか。
見かけるのは午後。
午後の何時ごろだっけ・・・。

最初は何も思わなかったけれど、よく見かけるようになって段々気になるようになった。
「いつも何してるんだろう。」
「一人で外に出て買いに来てるんだ。すごいな。」
そんなことを思ったりしていた。

歩くことに不自由していない私は好きな時に好きな場所へ行ける。
でも車いすだとそうもいかない。
当たり前だ。
別に同情しているわけではない。
どんな人かも知らないし。

ある日の午後3時過ぎだろうか。
また車いすの男性を見かけた。
彼はいつも自動販売機で買ったドリンクをその場で飲んでいる。
家に持って帰って飲めばいいのにと思ったけど、ふと思った。
ここが彼の癒しの場なのかな・・・と。

自分だけの力では自由に行動できない彼の、唯一自分で好きな時に行ける場所。誰に遠慮することもなく、そこで好きに時間を過ごせる。
そういう場所なんだ。
そう思ったとたん、その自動販売機が特別なものに思えてくる。
売っているドリンクも美味しそうに思えてくる。

こんなところで誰が買うのかと思っていた自動販売機。
この自動販売機がただの自動販売機じゃないようなそんな気がしてくる。

車を降りて買ってみようかな。
普段飲まないコーラを買って飲んだ。
それは特別ではないただのコーラだった。
私にとってはそれ以上でもそれ以下でもなかった。

ただ何となくその自動販売機が私にとっても特別な場所になっただけだった。


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