こゝろ

夏目漱石が明治の終わりに書いたものでとても有名な作品です。
私が初めてこゝろを読んだ時は高校3年の時でした。その時の印象はリアルすぎるでした。
派手な演出や脚色されたものというよりは実話を読んでいるかのような感覚でした。
というのも私自身が従兄弟を亡くしてから1日に十数回は従兄弟のことを考えるようになったからです。
従兄弟がまだ生きていた頃は話に出てきたり何かきっかけのようなものがなければひと月に一度何してるかなと思うくらいだったのですが、亡くしたことをきっかけに他の事をしていても常にと言って良いほど意識しています。
私自身の実体験もありより一層実話なのではという気持ちが大きくなりました。こゝろが創作された話だと知ってからは人間の心をこんなにも多角的に表現されているなんてすごいと思いました。
そして初めて読んでから2年の時が経ちまた読んでみると創作されたものだとわかっていることもあり以前とは少し違った感想を持ちました。
まず、上巻で主人公の私が感じている仲良くなった気がしてもどこか距離を感じるという場面で、何か過去がある事を匂わせているのだと思いました。
歳の差があるから仲良くなりきれないのではなく、意図的に何かを隠しているかのように感じました。
また、先生の習慣で墓参りに行く場面ではこの墓は先生にとって大きな意味があり、人には話したくない事そして友人の墓であることがわかります。
ここで先生が距離を取る理由が友人を亡くした事によるトラウマで新たな友人を作る事への罪悪感や新たな友人をまた亡くしてしまうかもしれないという恐怖があるのではないかと思いました。
また遺産について先生が感情的というか普段とは違う一面を見せた事で先生自身が遺産問題で苦労した事が読み取れました。
中巻では先生の突然の自殺により先生が愛国心の強い人物であることで明治時代という時代背景が強く出ている場面だと思いました。
下巻で先生の過去が綴られた手紙を読んだ私
その手紙が上中巻での先生がいかにして形成されたのかのヒントになる出来事がありました。
親戚に遺産を誤魔化され、裏切られます。
この事で他者を信用しなくなり、心を閉ざしてしまいます。ところが新しい下宿先の奥さんとお嬢さんはとても優しく、先生が閉した心をだんだんと開いて行きます。そんな時先生の友人であるKが家族と不和だという話を聞いた先生はKに下宿先に来る事を勧めました。この提案から先生からお嬢さんへの気持ちが動き出します。今まではなんとも思っていないと思っていたがKとお嬢さんが仲良くしていると嫉妬心を抱き始めます。そしてお嬢さんを愛してると自覚した頃Kからお嬢さんに恋心を抱いていると打ち明けられます。先生はこの時迷った末にKを出し抜き奥さん経由でお嬢さんと婚約してしまいます。
その後Kが先生の隣の部屋で自殺してしまい、先生は罪悪感を抱えることとなります。
そしてその罪悪感から結婚後お嬢さんを遠ざけてしまい、お嬢さんも自分が何かしてしまったのではと苦しんでしまいます。
この罪悪感は2つのことからきているとおもいました。まず当然ながら友人を死に追いやってしまったこと。そして親戚からの裏切りによって苦しんだ経験があるにもかかわらず、友人を裏切ってしまったことだと思いました。
全編を通して葛藤や後悔など人間味溢れる表現で透明感がありそれでいて複雑な感情が描かれていると思いました。
また自分のした事を自分だけは知っていて自分だけは誤魔化せないのだと改めて思いました。
また数年後に読んでみてまた違った感想を持つのが楽しみです。

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