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読書日記

最近読んだ本⑪
石井睦美『愛しいひとにさよならを言う』

 こちらの本はタイトルに惹かれたのと、以前noteの記事で見かけて気になっていたこともあり、手に取ってみました。

(↓⚠以下はネタバレを含みます。)

 この本は文章全体は柔らかく優しいイメージなのですが、展開は予想以上にヘビーに感じました。
🍀
主人公は女の子のいつかで、19歳で大学生になったいつかが過去を回想しながら語る物語になっています。
いつかは母子家庭に産まれ、母親は経済的に貧しく、仕事に家事に育児にといっぱいいっぱいになりそうでした。そんかなか、同じアパートのユキさんに出会い、ユキさんの精神的・経済的なサポートにより、母の仕事も軌道に乗るようになりました。
また娘のいつかも孤独を感じることなく、母や
ユキさんの愛情をたっぷり受けて幸せな暮らしを
するようになります。
しかしそんな幸せも束の間で、ユキさんは家族の
介護のため実家に帰ることになり、いつかはユキさんと別れることになります。

代わりに母と絶縁状態の祖母がやってきて、生活は一変します。祖母は元々教員を務めていたこともあり、いつかを可愛い孫のように見るのではなく、
出来の悪い生徒のように捉え、ダメ出しや嫌味ばかり言うようになり、これによっていつかは心を病んでしまいます。
その後、いつかは1ヶ月ほど母の友人の穣さん(通称チチ)にお世話になり、心を取り戻して日常を送れるようになりますが、チチとの急な別れにより再び心を病んでしまうのです。それでも少しずつ心を取り戻し、大学ではチチの教えてくれた建築を学びたいと思うようになります。
🍀
 この物語の柔らかい作風から、母と祖母の確執は解消されるのかと思っていたし、また祖母のきつい性格も可愛らしい孫を見て和らぐのかと思っていたのですが、そうならない所に現実の苦しさを感じます。別れ際に祖母がいつかに言った言葉は祖母ならでの愛情だったのかもしれませんが、祖母がいつかを苦しめた張本人のため「どの口が言う」的な
気持ちになってしまいます。

そして苦しんでいたいつかに深くは聞かず、いつかの言葉や心に向き合うチチは、穏やかで素敵な人物なのですが、結局このチチも亡くなってしまう…
というのがキツかったです。
ただ、その悲しみも受け入れて、チチの伝えようとしてくれたことを自分の目で見て学びたいと進み始めたいつかの心にはチチが生きているのだと思います。
また、母とチチは言葉にしなくても心の声で通じ合っていたという描写も素敵だなと思います。

🍀🍀
 『愛しいひとにさよならを言う』というタイトルですが、自分は別れのときに「さよなら」を言ったことってあまり無かったように思います。
本当に言うタイミングが無かったという事もあるし、言えなかったという事もあります。
なんだか照れくさいし、「さよなら」を言ってしまうと確実に終わりを感じてしまうのが辛いというのもあるかもしれません。
でも例えお別れしてしまっても、自分の中にその人の存在は生きていると思います。
悲しいけれどその人がいなくても普通に日常生活は送れてしまう(その人がいなくても大丈夫になってしまう)し、
時間は人が悲しさや寂しさを乗り越えるのを待ってくれず淡々と日常の暮らしを運んできます。
それでもその人がいなかった事にはならないし、
自分が相手を想っているという事は、相手も自分を想ってくれているかもしれません。
このように考えるとお別れってそんなに悲しいことじゃないのかもしれないと思ったりしています。




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