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魔法使いの約束が好きな人にウィキッドを、ウィキッドが好きな人に魔法使いの約束を勧めたい

 スマホゲーム「魔法使いの約束」が好きで好きでたまらないオタクが「オズの魔法使い」の前日譚としてつくられたミュージカル「ウィキッド」を見てきました。「ウィキッド」のファンは「魔法使いの約束」を、「魔法使いの約束(以下、まほやく)」のファンは「ウィキッド」を必ず好きになると思ったのでそのことをプレゼンします!

 「まほやく」の方が触れてきた期間が長いこと、そして「ウィキッド」はなるべくネタバレをしたくないこと、「まほやく」は多少設定の説明をしてもまあ重大なネタバレにはならないだろうと思っていることなどからかなり情報量に偏りがあるかと思います。ご容赦の上読み進めていただけると嬉しいです。

お互いを唯一無二だと思うふたりがそれでもすれ違う

 「ウィキッド」の主人公はのちの「北の良い魔女」のグリンダと「西の悪い魔女」のエルファバ。「オズの魔法使い」でドロシーに東の悪い魔女が履いていた靴をくれて、エメラルドシティへの道を教えてくれるあの魔女がグリンダ。オズ大王に願い事をしに行ったら「その前に悪い魔女を倒してこい」と言われドロシーたちが倒しに向かうのがエルファバです。

 この2人は学生時代、唯一無二の親友でした。エルファバの夢を叶えるため、エメラルドシティへ2人でワクワク出発したはずなのに……なぜこうなったのか。というのが「ウィキッド」のあらすじです。

 これだけ語れば「まほやく」が好きな人は大いにそそられるのではないでしょうか。なぜなら「まほやく」は、さまざまな形で愛し合う魔法使いたちがすれちがうもどうにかまた絆を繋ぎ直そうとする様子が描かれる群像劇だからです。「ウィキッド」も「まほやく」も、こんな世界じゃなければもっと苦労せずお互いを慈しむことができたかもしれない2人が、この世界で生きていくための決心をする物語です。

 ここではわたしがまほやくの中で特に好きな「すれ違うもお互いへの気持ちを手放せない」2人組を紹介します。ヒースクリフという大貴族の息子の魔法使いとシノという孤児の魔法使いです。2人は幼なじみでしたが、物語開始時はヒースクリフが21人の「賢者の魔法使い」のうちの1人として選ばれ、戦いの場にいました。

 「まほやく」の世界には東西南北中央の5つの国があります。2人は、5カ国の中でももっとも魔法使いへの偏見が強い東の国生まれです。そんな東の国の有力な地方の領主の息子として生まれたヒースクリフは、やさしい両親に心から愛されているものの、自分が魔法使いに生まれたばっかりに東の国で両親が後ろ指をさされることに心を痛め、自己主張ができなくなってしまった青年です。

 一方シノは、ヒースクリフの実家に雇われてはじめて屋根のある寝床やあたたかくておいしいレモンパイの味、人のあたたかさを知ります。魔法使いへの偏見が強い国で、ヒースクリフに友達や師を見つけてあげたいと一生懸命だったヒースクリフの母親が、シノが魔法使いだと知って本来主人一家と話せる立場ではない小間使いのシノのところにやってきて、「ヒースクリフと仲良くしてあげてね」と声をかけてくれたことがシノの人生を大きく変えたのです。さらに、幼いシノがヒースクリフに悪戯をして泣かせてしまったことがあるのにも関わらず、権力者である両親に言い付けてシノを追い出したりしなかった出来事から、ヒースクリフの人間性を尊敬しています。

シノ(cv:岡本信彦、舞台版:田村升吾)
ヒースクリフ(cv:河本啓佑、舞台版:加藤大悟)

 シノにとってやさしさやあたたかさと出逢わせてくれたヒースクリフ一家、とくにヒースクリフは何にも代え難い宝物である一方、ヒースクリフはいつも自信がなさそうにしていることがもどかしくて仕方ありません。

 しかもその2人の関係をさらにややこしくさせるつらい"約束"がふたりにはありました。「まほやく」の世界では、魔法使いは心で魔法を使うため、約束を破る(=心に背く)と魔力を失ってしまいます。そのため、滅多に約束をしないのですが、2人はとある理由から不本意に約束をさせられてしまうのです。

 この2人が、世界を救う任務を持つ魔法使いとして選ばれ、同じ戦場に身を投じることになって関係を変化させていく様子が描かれます。

 21人の魔法使いが世界を守るための戦いに身を投じるストーリー。形はさまざまですが、お互いなによりも大切に思っているのにすれ違う2人組が10組ほど出てくる群像劇です。

元ネタ探しの宝庫

 両作ともアメリカの童話「オズの魔法使い」から大変大きな影響を受けています。ウィキッドは言わずもがな「オズ〜」に登場する魔女たちの過去を描いていますが、「まほやく」はさまざまな童話の要素がちりばめられ、ブレンドされていると言ったらいいでしょうか。キャラクターの名前から地名、ストーリーのあらすじが古今東西の童話や文学作品などを思い起こさせるのです。

 なかでもとくに元ネタが思いつきやすいであろうキャラクターの名前を挙げると
・オズ
・アーサー
・ファウスト
・ヒースクリフ
・シャイロック
・ルチルとミチルの兄弟
といった感じです。

 アーサーと宝剣をめぐるエピソード、心臓を抑えて蹲るシャイロック、などなど。古今東西の名作を知っているとニヤリとしてしまう設定、ネタが挟まれ、考察やモチーフ探しが楽しめます。

 「ウィキッド」にも、西の悪い魔女と北の良い魔女以外の「オズの魔法使い」のキャラクターがたくさん登場します。彼らはどうして「オズの魔法使い」の作中でああいう姿だったのか。ああいう行動をとったのか。種明かしのように物語が進んでいくため、ウィキッドファンは初めて見る人を劇場に連れて行く前に口を揃えて「ネタバレは一切踏まないでアマプラで『オズの魔法使』の映画を見てきて!」と言います。

被差別民としての魔法使い

 前出の東の国生まれの幼なじみ2人のエピソードで少しお話ししたように、「魔法使いの約束」の世界における魔法使いは、いわゆるマイノリティのように描かれます。魔法使いと共存しようとする人間、魔法使いを恐れ敬う人間、魔法使いに近づいたら災いが起こると思っている人間などなど、魔法使いにさまざまな視線を向ける人間が登場して魔法使いたちを悩ませます。

 中央の国の王子という立場でありながら魔法使いであるアーサーというキャラクターがいます。人間と魔法使いが共存する世界を作ることが自分の使命だと考える人物です。しかし、人間はアーサーに対して「どうせ魔法使い贔屓なんだろう」と考え、魔法使いは「人間の味方をするんだろう」と考えています。アーサーはそのことを自覚しながら日々公務を頑張る健気な王子様として描かれます。物事の違う側面を見ている2つの勢力の板挟みになっているのです。

アーサー(cv:田丸篤志、舞台版:北川尚弥)

 「ウィキッド」にも王子様キャラがいます。フィエロは、チャラくてイケメンな王子様として登場します。学園の女王様キャラのグリンダから猛烈なアプローチを受けますが、あることをきっかけに他の学生とは違った視点を持つエルファバに惹かれ、心を入れ替えていきます。やがてグリンダとエルファバが偏った視点から「良い魔女」と「悪い魔女」として祭り上げられていく渦中でその状況に抵抗しようとするのです。

 人間の中にいる、ちょっと変わったマイノリティが勝手に恐ろしいものやありがたいものとして偶像化される様子は2作品の最も大きな共通点と言ってもいいでしょう。

おとぎ話の世界の住人の口から飛び出す、自分のための言葉のような言葉

 「ウィキッド」は2003年のアメリカで初演された作品です。湾岸戦争時、アメリカでは極悪人とされたイラクのサダム・フセイン大統領がイスラム諸国では英雄とされていることをうけて描かれました。あなたが「悪」だと思っているそれは本当に「悪」なのか?と問いかけてくるのです。

 湾岸戦争から構想を得た善悪の反転に限らず、ウィキッド本編中にはさまざまな社会風刺が散りばめられています。マイノリティが働く場所を失うやるせなさ、真実の姿とはまるでちがうイメージが広がっていく恐怖などなど。第一幕はさながらアメリカの高校を舞台にした海外ドラマで見たようなシーンが散りばめられています。そういったストーリーの中で、おとぎ話の中の登場人物のセリフなのに、まるで自分が感じていることのように迫って聞こえるセリフがいくつも語られます。

 おとぎ話の登場人物の言葉なのに、まるで現実を生きる自分が置かれている状況とつながり、ヒントや薬をくれるかのように聞こえる言葉。まほやくファンは、まさに「まほやく」のシナリオを読み進める中で何度も味わった記憶があるのではないでしょうか。

「他人に一歩も譲らずに押し合って、すれ違う人を睨みつけても、道が広くなるわけじゃない…。」

「お前が知らない世界を、悪いものだと決めつけないでくれ。おまえの世界で、おまえが絶望することがあった時に、どこにもいけなくなってしまうだろう。」

「信頼ってのは価値だ。てめえだけが生み出せるものだ。苦い顔して、申し訳無さそうに、仕事を与えるな。」

 これらの言葉のように、丁寧に並べられた都志見文太さんをはじめとする「魔法使いの約束」ライター陣の言葉を読むのが好きな「まほやく」ファンにとって、ウィキッドのセリフひとつひとつもまた、自分が見てきた景色の引き出しが開かれるきっかけとなって涙が流れてくること間違いなしです。

「まほやく」メインストーリー無料解放中!「ウィキッド」大阪公演は来年夏開幕、チケット発売はこれから!


 アプリ「魔法使いの約束」は今、リリース4周年を記念して、11月30日までメインストーリーの1部と1.5部、2周年と3周年のストーリーを解放中です。ゲームシステム自体はかなり作業色が強いのですが、今ならとりあえずストーリーからハマることができます。あと10日でとりあえず1部、1.5部、できれば2周年ストーリーまで読んでいただけると「魔法使いの約束」の魅力がわかっていただけるかと思います。

 「ウィキッド」東京公演は完売御礼……!四季の会会員先行で(ぴあ以外の)全ての座席が売り切れる人気ぶりを博し、リセールにもなかなか出てこないのですが、大阪公演のチケット発売はこれからです。大阪公演の期間がどのくらいになるかによりますが、「まほステ」チケット戦争を勝ち抜いたことがあるかたなら、四季の会にさえ入ってしまえば劇団四季のチケットは難しくないと個人的には思います……!四季の会は年会費2000円〜、会員はS席が1000円引きで買えます。ウィキッドともう1公演何か気になる公演をS席で見にいくかお友達を1人誘っていけばあっという間に元が取れてしまいます!

というわけで、まほやくファンにはウィキッドを、ウィキッドファンにはまほやくを、ぜひ楽しんでいただきたいです!

 お読みいただきありがとうございました。

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