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天空の拳 ep31~ep34 ラスト
遭遇
走って旧役所へ向かう。中には早々にバテて歩く者も出てきた。約三十分後に目的地の正面にある路地裏についた。
するとザンの弟子がひとり飛び出し、正面の門に取りついたかと思うと、するすると鉄柵で出来た門をかけあがりひょいと向こう側へ飛び降りる。
「あいつの稼業は泥棒さ」
ザンが冗談とも本気ともつかない事を言って笑う。
男は針金を取り出し南京錠を開けようとしている。
それと同時に詠
天空の拳 ep28~ep30
別れの時
フェイロンは眩しさで目を覚ました。素っ裸で起き、昨日ずぶ濡れだったふんどしを締め直すもまだ半がわきだ。そのうち体温で乾くだろうとシャツとズボンにも袖を通す。
昨日の雨も何処かへ行き、今日は爽やかに晴れ渡っている。窓を開けると、もう真夏のむんとした風ではない。初秋の風が部屋にひろがる。
与儀の姿はない。よもや昨日の事で逃げ出したかと思ったが、それはないなと否定した。
顔を洗
天空の拳 ep25~ep27
旅路
「あー痒い痒い!川がある。みんな川に入るぞ!」
フェイロン達は二頭立ての荷馬車に乗っている。荷台の半分には米俵が積んである。フェイロンは馬車のおやじさんに銅貨をあげて待っているように頼む。おやじさんは黄色い前歯を出してにかっと笑いそれを受けとると、煙草をとりだし一服し始めた。
フェイロンは皆を追い越し谷川にザブンと入る。まだ残暑も厳しい季節だ。冷たい水が心地いい。
四人とも川に
天空の拳 ep22~ep24
特訓の終結
ザンが久しぶりに皆の前に立つ。今日の参加者は八十人ほど。その全てに柳葉刀が行き渡った。時はすでに一ヶ月を切り、嫌がおうにも気分が高揚する。
「今日集まってもらったのは他でもない。この柳葉刀が苦労の末百五十本全員に行き渡らせる事が出来た祝いの日になったことと、フェイロンいわく虎形拳をほぼ全員が修得したという嬉しい知らせがとどいたからだ」
皆が拍手をする。フェイロンがうなずいた
天空の拳 ep19~ep21
論戦
「わーはっはっは。今日は気分がいい。俺の奢りだ。じゃんじゃん飲もうぜ」
ここは先ほど喧嘩をした場所からすぐの酒家で、まだ日が暮れる前からフェイロン達は酒盛りだ。
宿も予約を取り、店先の屋台のワンテーブルを五人で占拠している。
酒が運ばれてきた。五人が盃に酒を入れるとフェイロンが口を開く。
「まずは、今日一番敵を倒したダーフーに乾杯だ」
皆が盃を上げる。
「それじゃあ乾杯といこ
天空の拳 ep16~ep18
告白
フェイロン、今日は朝から機嫌がいい。シャオタオと活動写真を見に行くからである。
休みは週一度、完全に泰定酒家と重ねた。逢い引きのためだ。つんと上がった低い鼻。きれいな二重の目に、おちょぼ口。可愛らしい声。そのすべてが愛おしい。
生徒らには一日中寝て体力を回復しとけと言ってある。かなり無理をさせてあるので見えない疲労が蓄積しているためだ。
「休まなくて大丈夫なの?」
「鍛えている
天空の拳 ep13~ep15
男の正体
木の下から出てきた男は小柄でウンランと同じくらい。右手と左手を前に出し、大きな玉をもっているような構えを取る。
夏の一番暑い日になんでこんなに汗をかかなくっちやなんねーんだと思いつつ、まずは先ほど感触がよかった豹形拳の構えを取る。
周りはケンカが始まったので野次馬がどんどん増えてくる。
「ハイヤー!」
腕を振り回しながら五歩の距離を一気に縮めてくる。一発、二発と素早い拳が
天空の拳 ep10~ep12
作戦会議
稽古は夜明けから始まる。それから日の入りまで訓練が続く。
皆大きめな竹の水筒にたっぷり水をいれ、稽古に臨む。
まずは昨日の復習である。皆套路の三分の一ほどは形だけであるが覚えた。これほどの早さでここまで覚える者達はフェイロンは見たことがない。それだけ必死ということか。
昨日と同じく五班に別れて特訓の開始だ。昨日の続きから三分の二まで演武して見せる。
「今日はここまでやるぞ
天空の拳 ep7~ep9
再戦
「俺と闘え!」
フェイロンはなおも迫る。
「なぜだ」
不可解なフェイロンの申し出に、いぶかしげに訊く与儀。
「俺はあの一戦が悔しくて悔しくてしょうがねえ。あの一戦で面子を潰され、無敵の評判を失い、武館を失い、根なし草になった。完全な状態で闘わねーと諦めがつかねえ。言い訳がましいがここのところ生徒達の指導に追われ自らの鍛練がまったく出来ていなかった。その上酒を飲んでいた。これじゃあ
天空の拳 ep4~ep6
潜る
それからフェイロン達は多忙を極めた。やめてしまった生徒も多かったが、二十人ほどは同じ洪家門のソウ(曽) 老師に預けた。また二人の高弟、リー(季)とジァン(姜)はフェイロンと行動を共にすると言ってくれた。
生徒達の処遇もあらかた片付いて、米屋や酒屋等のツケを払ってまわり、最後に残るは武館の開け渡しだけとなった。
三人で地主であるマー(馬)大人の元へ向かう。
応接間に通される。マ
天空の拳 ep1~ep3
たくらみと確信と
緑色の軍用車がとある建物に横付けした。エンジンが止まる。車がゆさゆさと揺れる。
中からは身長五尺七寸 (百八十八センチメートル)もある巨駆を揺らしながら一人の男が出て来た。当時の日本人の平均身長が百五十センチくらいなので、より一層巨大に見えたに違いない。
「ふう、着いたな」
男―与儀宗光(よぎむねみつ)中尉は汗を拭いながら地面に降り立った。普通の人間が見たら驚くに