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二重の橋

1997年10月19日(日)
黒い雲が覆った空。わたしと母はどこかへ向かって歩いていた。重たい色の海は風で逆巻いていた。砂は黒くしっとり水を含んでいた。

海へと延びた橋を渡るのだが、その橋は二重─二階建てで、上の橋は壁と屋根があり、下の橋は欄干がとても低い上に、途中欄干さえない。しかも欄干が無いところは橋の幅が極端に狭い。少しでも迷ったら終わりだろう。
だけどわたしは下の橋を渡ってみたかった。

海は人間をさらってのみこもうとしているように見えた。海が迫ってくるのが目に浮かんだ。襲いかかってくる白波、目が回る渦。
恐ろしいけど、もう降参だ!と思って自分を放してしまわない限り、海がわたしをのみこんでしまうことはできないとわかっている。
海には吸いこむ力があるように見えるけど、吸いこまれていくのは、自分がそれを許すからだ。

下の橋をわたしは行く。
「出口で会おう。出口は二つあるけど、どっちにする?」と上の橋から母の声が。
どちらでも、結局会えるからどうでもいいように思ったが、決めて、返事をした。



2023年11月21日(火) 二重の橋の出口──会えた。


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