光太
1997年8月28日(木)
本当の自分になるためには〈もうひとりの自分〉を見つけなければならない。
光太は目の見えないおっかないお婆さんから教えられた。お婆さんの目はばさばさの髪で隠れて見えなかった。
光太は5歳。〈もうひとりの自分〉を見つけるべく、ふたりのともだちと夜の森へ入った。
夜の森で、光太とふたりのともだちは雷に打たれてしまった。
雷に打たれて光太とふたりのともだちはひとつになってしまった。
光太のからだの中にともだちふたりが入ってしまったのだ。
ほとんど息をしていないような光太を父が発見した。
父が抱き上げても、光太の首、腕、脚はだらりとしていた。
「光太っ! 光太っ!」
うっすら、光太の目があいた。
光太は力を感じる。
だけどいつも悲しい。
力は、光太の中で眠っている。
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