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スペインの城

1997年8月21日(木)
この城にはそのむかし、ふたりの女主人の時代があった。ふたりとも権力をふるったが、はじめの方がより強かった。ふたりの石像があるが、はじめの女の像は本当に巨大だ。ふたりとも豪奢な衣装と装飾品で身を飾っているが、古い方のそれは、次のとは比較にならない。首など、苦しくないかと思うような首飾りで隙間がない。
像のふたりは気味悪く笑っている。目は笑っていない。像には瞳がない。悪を感じる。

現在の城は死者のためにあるようなもの。連日死者のために贅沢な晩餐が供される。料理を載せた大きなテーブル。当代の女主人に今夜のメニューが書かれた薄紙が渡された。彼女はその薄い紙を千切ると素焼きの皿に置き、火を焚いた。文字は煙に乗って死者へ届く。
おもしろい。
女と女の夫と大勢の客人がテーブルを埋めているように見えるが、女と夫以外は死者なのだ。

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