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控訴人準備書面(7)の要約

伊藤-山口の控訴審につき、山口弁護団が提出した準備書面(7)はPTSDに特化したものであり、全文が閲覧制限下にあります。そのため第三者が読むことは出来ませんが、同文書の要約書面が出ているので内容を窺い知ることはできます。

山口弁護団は、伊藤詩織氏によるPTSD申告に対して、認定の不備、根拠の乏しさ、長井医師の不適格性の3面から反論しているもよう。

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【準備書面(7) 要約書面】

令和3年5月25日

1 PTSDの診断基準(2~7頁)
(1) ICD-1(WHO・疾病及び関連保険問題の国際統計分類第10版)
「破局的な性質をもった、ストレス性の出来事」

(2) DSM-5(米国精神医学会・精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)
基準A(心的外傷的出来事)、B(侵入症状)、C(回避)、D(認知・気分の陰性変化)、E(過覚醒・反応異常)、F(障害持続1か月以上)、G(苦痛・機能障害)、H(物質・他疾患の生理学的作用の除外)

2 PTSDの認定に関する問題点
(1) 心的外傷的出来事の体験(DSM-5の基準A)は、「破局的出来事」に限定される。基準B以下の3大症状(侵入、回避、過覚醒等)から推測して『外傷的出来事が基準Aを満たすほどのものであっただろう』との考え方(症候群証拠)をとるべきではない。(7~8頁)

(2) 臨床場面におけるPTSD診断≒法的判断におけるPTSD認定、ではない。損害算定におけるPTSDの法的認定ではPTSDの診断基準を厳格に適用すべき。(8~9頁)

(3) 心理テスト(SCT等)を過大視すべきではない。(9~10頁)

(4) 診断者と鑑定人を同一人が兼ねるべきではない。(10~11頁)

(5) 裁判例も主要な4要件(強烈な外傷体験、再体験〔侵入〕、回避、覚醒亢進)を厳格に判定すべきとの立場。(11頁)

3 被控訴人にPTSDが発症したとは認められないこと
(1) 被控訴人がPTSDの発症根拠とする証拠構造(11~12頁)
診療経過(まちどりクリニック、にれの木クリニック等)と私的鑑定(長井医師)

(2) 被控訴人が依拠する証拠では、破局的出来事又は基準Aに該当する心的外傷的出来事を認定する根拠たり得ない。(12~16頁)

・主として患者(被控訴人)本人の申告による情報しか聴取されていない(CAPS検査者の「基準Aに関する内容については患者自身の主張に基づいている」とのコメント)。

・まちどりクリニックの診療録(*「5°頃行為に及んだが〔か?〕記憶がない」「驚くほど事件のことが書かれていない」等)~記憶の欠落部分を事後的に推論したことによる追体験に曝露された、というだけでは破局的出来事(基準A)に該当しない

(3)長井医師の鑑定意見はPTSDの法的認定の根拠としての客観的中立性・公正性がない(主治医〔にれの木クリニック〕と鑑定人の役割の二重性)。(16頁)

(4)心理テストの結果は被験者・検査者バイアスの影響を受けており、信頼性に重きを置けない。(16~17頁)

(5)被控訴人の症状はPTSD特有とは認められず、被控訴人の態度(本件各公表行為、原判決後の控訴人記者会見への出席)からは回避症状が認められない。(17~19頁)

4 結語(19頁)
基準A非該当。基準B以下では他の疾患と鑑別不可。基準C(回避症状)非該当。