イラスト+RT裁判 【判決文】
主 文
1 被告蓮見は、原告に対し、88万円及びこれに対する令和2年5月16日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告Aは、原告に対し、11万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 被告Bは、原告に対し、11万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
4 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、原告に生じた費用の、10分の6と被告蓮見に生じた費用との合計の20分の17を原告の、20分の3を被告蓮見の各負担とし、原告に生じた費用の、10分の2と被告Aに生じた費用との合計の、10分の9を原告の、10分の1を被告Aの各負担とし、原告に生じた費用の、10分の2と被告Bに生じた費用との合計の、10分の9を原告の、10分の1を被告Bの各負担とする。
6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告蓮見は、原告に対し、550万円及びこれに対する令和2年5月16日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告蓮見は、別紙「謝罪広告の内容」記載1及び2の謝罪広告を、同別紙記載2及び4の条件で掲載せよ。
3 被告Aは、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
4 被告Bは、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告が、ソーシャルネットワーキングサービスのツイッター(以下「ツイッター」というい。)における被告蓮見の別紙1ないし5の各投稿、被告Aの別紙6の投稿及び被告Bの別紙7の投稿が原告の名誉を毀損したなどと主張して、被告蓮見に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、550万円の損害賠償及びこれに対する令和2年5月16日(最終の不法行為の日の後の日)から支払い済みまで民法所定の名誉を回復するのに適当な処分として、別紙「謝罪広告の内容」記載1及び2の謝罪広告を掲載することを求め、被告A及び被告Bに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各1、万円の損害賠償及びこれに対する令和2年7月19日(訴状送達の日の翌日)から支払い済みまで民法所定の年3分の割合による各遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
(後略)
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記第2の1の前提事実(以下「前提事実」という。)に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。
(1) 本件各ツイート及び本件各イラストが投稿される経緯等
ア 原告は、平成29年5月29日、本件性被害に係る準強姦被疑事件が不起訴処分とされたこと(本件処分)について、検察審査会に審査を申し立てるとともに、司法記者クラブで記者会見(本件会見)を開いた。(前提事実(2)イ及びウ)
イ 被告蓮見は、平成29年6月4日、本件ツイート1を行った。(前提事実(3)ア)
ウ 原告は、平成29年、月20日、本件性被害の経験を記録した「BLACK BOX」(本件著書)を出版した。
本件著書の表紙には、原告の顔写真(全体的に暗い色調の写真)が大きく掲載され、その上から白い文字で「BLACK BOXブラックボックス」と書かれていた。(甲2)
エ 被告蓮見は、平成30年2月17日、 ツイッターで、「彼女が BBC に語ったインタビュー(英語)を聞き、友人にざっと訳してもらったが、彼女の言っていることは何一つ証拠がない。インチキ慰安婦と同じ。」と投稿した(甲50の1)
オ 被告蓮見は、平成30年2月20日、ツイッターで 柚木みちよし議員による、「ただ今予算委員会にて質問中。伊藤詩織さんを被疑者とする『準強姦罪』疑惑について質疑。当事者でしか分からないことなのに、どうして当時被疑者の逮捕直前に逮捕状の執行を止めたのかを中村格警視庁刑事局長(当時)に答えさせないのか質しています。」とのツイートを引用しつつ、「ただの枕営業失敗だろうが。そんなことより予算の話やってくれよ前髪。一々かき分けて。。お前は花輪くんか!!」と投稿した。 (甲18、50の2)
カ 被告蓮見は、平成30年2月20日、さらに、本件ツイート2を、同月23日、本件ツイート3をそれぞれ行った。(前提事実(3)イ及びウ)
キ 本件ツイート3の投稿以降、被告蓮見のツイッターの閲覧者から、多数の応答(リプライ)が投稿された。その数は、投稿された平成30年2月23日から同月末日までの数日間に、少なくとも130通以上に達し、各応答は、本件イラスト3-1の女性が原告であり、本件性被害に関する内容であることをいずれも認識した上で、多くが賛否を明確に表明したものであると認められる。その具体例は、以下の通りである。
「似てます!似てます!私は個人的に詩織さんって(残念な)美人だと思っていましたので、この出来上がりは素晴らしいですわ」(平成30年2月23日)
「伊藤詩織さんのことしか考えにくいが、これまではなぜか擁護や指示(ママ)ばかりがツイートでも目についた。(同日)
「全国の山口さんへの風評被害待ったなし。でもなぜかリプは伊藤詩織さんの話題ばかり」(平成30年2月24日)
「本当は伊藤さんが羨ましいから絡みたくなるはすみとしこさんのそんなところ、好きですよ!」(同日)
「どうしてこんな醜悪な妄想を垂れ流すのかしら。人として、女性として、ありえないほどの歪み。」(同日)(甲46)
ク 被告蓮見は、平成30年3月頃、インターネットで放送された、「日本の病巣を斬る」#33「慰安婦問題は正式に断定せよ!朝日の罪『事実認定』への壁」に出演した。
被告蓮見は、同番組において、本件イラスト3-1を提示するとともに、他の出演者の一人から、「でもこれ、枕営業大失敗じゃなくて大成功って書かなきゃ」と言われたことを受けて、「ある意味そうなんです。仰る通り。あの、実在する詩織さんという美しい女性ですねー。パヨクの皆さんのアイドルです。私、あの、彼女が枕営業なんかするはずもない。で、もししたとしても失敗するはずがない。」 、「彼女は美しいし、 あの、国会にも出ましたしね。で、これからあの、ニューヨークでしたっけ、国連にも行くって言うお話ですし」、「彼女大成功してますね。いや、彼女は嘘つくような女性じゃないです。目ぇ見ればわかります。『私の体が覚えている』って言ったんです。」などと述べた。(甲44、53の1及び2)
ケ 被告蓮見は、平成30年3月6日本件各ツイートを行ったアカウントとは別のツイッターアカウントにおいて、「やべー。。はすみとしこアカ停止くらったわw危ねえ危ねえモザイクかけとくべ。。」と投稿するとともに、本件イラスト4-2(ただし、女性の顔にはモザイクを入れてぼかした状態にしている。るを投稿した。(甲50の4)
コ 被告蓮見は、平成30年6月29日、 ツイッターで涙を流す原告の写真を掲載の上、本件性被害を取り上げたBBCのニュースのリンク先を引用するとともに、「枕営業失敗した時の詩織ちゃん?」と投稿した。(甲50の6)
サ BBCは、平成30年6月28日に本件ドキュメンタリーを放送した。被告蓮見は、同月30日、ツイッターで「Anti-British exists in the UK, Japan also has Anti-Japan. The program of Miss Shiori BBC is a documentary handshake between Anti-British and Anti-Japan.」(原告は、「イギリスには反英がいる。日本にも反日がいる。ミス詩織BBC番組は反英と反日が手を結んだドキュメンタリーだ」との趣旨と主張をしている。)と投稿するとともに、本件イラスト3-1及び原告の顔写真を並べて投稿した。
また、被告蓮見は、同日、「女はお得だよね。金に困りゃ身体を売ればいいし、思い通りにならなきゃ『被害者だ』と泣けばいい。男はこれが出来ないから可哀想だw」として、本件イラスト4-2(女性の顔部分にぼかしを入れたもの)、原告の顔写真などを併せて掲載し、ハッシュタグにBBCと付けた。(前提事実(2)カ、甲17、50の7及び8)
シ 被告蓮見は、平成30年7月2日、 ツイッターで「ヤマロサオリ三部作・完!(多分嘘w)」との文言とともに、本件イラスト4-3を投稿した。(甲50の9)
ス 被告蓮見は、平成30年7月9日、ツイッターで「祝アカウントロック解除!(中略)新シリーズ始まるのか?!『不思議の国のオシリ』推奨BGMは「意味なしアリス」です」との文言とともに、本件イラスト4-4を投稿した。(甲50の11)
セ 被告蓮見は、令和元年7月9日、ツイッターで、別件訴訟に関する朝日新聞の記事を引用するとともに、「これは友人から聞いた話ですが、本当のレイプ被害者の女性が、この伊藤詩織嬢のケースを『虚言』と見抜き、『真のレイプ被害者を貶める行為だ』と怒っていたそうです。真の被害者から見れば、あり得ないことが沢山あるようで」と投稿した。(甲50の10)
ソ 東京地方裁判所は、令和元年12月18日、別件判決をした。(前提事実(2)ク)
タ 被告蓮見は、令和元年12月19日、本件ツイート4を、同月21日、本件ツイート5をそれぞれ行った。(前提事実(3)オ及びカ)
(2) 被告 Bリツイートに関する事情
ア 被告蓮見は、令和元年12月19日、本件ツイート4を、被告Bは令和2年1月20日、被告Bリツイートをそれぞれ投稿した。(前提事実(3)オ及びキ)
イ 被告Bは、以下の各ツイートをいずれもリツイートした。
「裁判長の『伊藤さんには嘘をつく動機がない。』には驚愕しますよ。(中略)反日左翼の仲間である伊藤詩織が、保守論客の山口氏を社会的に貶めようという十分な動機があると思います。」(引用元ツイートの投稿日令和元年12月18日)
「この伊藤氏の最大の犯罪は『表現の自由』を多く奪ったこと。小川榮太郎さん、八幡和郎さん、・・・と多くの論客のFBアカウントを停止させた(中略)。しかも工作員組織を使ってヘイト報告し、FBに圧力をかけていたことがTwitterで発覚。このことも記憶遺産として永久に残すべき。」(引用元ツイートの投稿日令和2年5月19日)
「誰?その敏腕ジャーナリストとやらは。今は誰でもジャーナリストを名乗れる時代です。プロの人質も、枕営業のキャバ嬢も、みんなジャーナリストになれました。ワイドショー御用達で急ごしらえしたジャーナリストなのでは?」(引用元ツイートの投稿日令和2年2月12日)(甲57の1及び甲59、60)
ウ 被告Bは、令和2年5月25日、「伊藤詩織は実は話に為らない位告白していることが矛盾していて...薬飲まされてレイプされたと言っているが、レイプ・ホテルイン前に酒を笑顔でガバガバと飲んでいたり、(中略)メールでお礼、レイパーの服を借りて帰宅(中略)はすみさんの味方です、私は」とのツイートを同年6月10日、「1.伊藤詩織は刑事でも民事でも強姦は認定されておらず「レイプ被害者」ではありません。2.上記により、セカンドレイプは存在しません。」とのツイート及び同日付け「調べたら伊藤氏側の意見ばかり先に出てきたから逆に山口氏側の記事を乗せます。」とのツイートをそれぞれリツイートした。(甲26)
エ 原告代理人は、令和2年6月10日、被告Bに架電して本件訴訟提起や話合いの可否などについて意向確認の連絡をした。(甲27)
オ 被告Bは、令和2年6月12日、本件に関するツイート3件をリツイートした。その内容は、「そもそも「500万円」は明らかに、吹っ掛け過ぎ。」「恐ろしい思想弾圧ですね。」「これだけの材料で慰謝料請求とは、正気の沙汰とは思えませんね。」といった内容であった。
また、被告Bは 翌13日、被告蓮見や第三者のツイートをリツイートした。被告蓮見のツイートの内容は、「伊藤詩織さんと山口敬之さんの細かい経緯とか知らなかったが、自分が被告(仮)になるからには、ちゃんと「予習」しないとね!いやぁ、勉強になるなぁ。。。」といったものであった(なお、この当時、本件訴訟は提起されていたが、被告B及び被告蓮見のいずれにも訴状は送達されていなかった。)。上記第三者のツイート内容は「これですかね。」として、「伊藤詩織は、昨年2月に虚偽告訴と名誉毀損で告訴され」で始まる文章が添付されているものである。(甲28の1及び2)
カ 被告Bは、その後も、原告に関連するツイート(原告に批判的な内容)を複数回リツイートしている。(甲31、33、42の1ないし3の2、甲43の4の1及び2、甲54の1ないし14、甲59、60)
2 争点(1)ア(本件各ツイートにおける事実の摘示及びこれによる原告の社会的評価の低下の有無並びに原告の名誉感情の侵害の有無)について
(1) 本件ツイート1 について
ア 事実の摘示について
被告蓮見は、本件ツイート1において、原告と被告蓮見の瞳の形状が近いことを述べたに過ぎないと主張する。
しかし、被告蓮見は、自らが元医療関係者(元看護師)であったこと及び精神疾患(双極性障害)にり患していることをプロフィール(ツイッターアカウントのトップに表示される。)に記載し(前提事実1(1)イ)、これらの事実が前提となっている状態で、本件ツイート1を投稿している。本件ツイート1は、医療関係者または患者が、瞳を見れば精神疾患患者を識別できる旨を記載し、原告及び被告蓮見の瞳の形状が分かるようなアップの写真を並べて添付して、「それにしても、詩織嬢の瞳には親近感がわく。」と記載していることからすれば(前提事実(3)ア、別紙1、甲8)、本件ツイート1は、原告が精神疾患を患っているという事実を摘示するものと認められる。
イ 社会的評価の低下の有無
(ア) 名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものであるというべきところ、ある表現による事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈し判断すべきである (最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
(イ) そこで検討するに、精神疾患を患っているという事実のみで、当該人物の社会的評価が直ちに低下するとは言えない。また、被告蓮見は、元看護師であるものの、精神科の医師ではないから、本件ツイート1が原告について精神疾患を患うものと摘示していても、それが信頼に足りる診断であると受け止められるともいえない。
したがって、前記アの摘示事実は、原告の社会的評価を低下させるものとは認められない。
(2)本件ツイート2について
ア 名誉毀損の有無
(ア)事実の摘心について
a 原告は、本件ツイート2は、ジャーナリストを志望していた原告が、山口に対して枕営業を行ったものの、期待に反して職を得られなかったことから、合意のもとで行われた性交渉について、山口との性交渉から2年後にこれをレイプであると主張して山口を訴えたとの事実を摘示すると主張する。
これに対して被告蓮見は、本件ツイート2は、山口の言い分を投稿したにすぎず、「と理解」と記載しているとおり、被告が推測し考えたことを内容とする論評であると主張する。
事実の摘示による名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なることから、本件ツイート2がいずれであるのかを判断する必要があり、まず、この点について検討する。
b 問題とされている表現が事実の摘示であるか、意見ないし論評の表明であるかを区別するに当たっては、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり、当該表現が、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的または黙示的に主張するものと理解される時は、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、他方、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属すると言うべきである(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁、最高裁平成15年(受)第1793号、同年(受)第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。
c そこで、本件ツイート2全体を見ても、記載されている事実関係が山口の見解であることを示した部分はない。そうすると、本件ツイート2の末尾に「と理解」として、被告蓮見の理解であることを示したとしても、本件ツイート2の内容としては、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、ジャーナリストになることを志す原告が、山口に対して就職をあっせんしてもらうために枕営業を行ったものの、山口から就職をあっせんしてもらえなかったことを理由に、枕営業から2年後、同枕営業を山口によるレイプだったと主張しているという事実を摘示するものと認められる。
(イ)社会的評価の低下の有無
前記(ア)cの適時事実は、原告が、山口から就職をあっせんしてもらうために山口と性的関係を持った人物であること及び合意の上での性交渉の後にレイプであったなどと虚偽の内容を述べる人物であるとの印象を一般の読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させるものと言うべきである。
イ 名誉感情の侵害の有無
(ア)名誉感情は、人が自身の人格的価値について有する主観的な評価であり、表現により名誉感情を侵害する行為は、問題とされる表現が社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為等であるときに、法的保護に値する人格的利益ないし人格権を侵害したものとして不法行為を構成するものと解するのが相当である。
(イ) 本件ツイート2のうち「枕営業」という表現は、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であると認められる。
また、前記ア(ア)cの摘示事実を踏まえれば、本件ツイート2の「レイプ被害者」との表現は、合意の下の性交渉(枕営業)をレイプであったかのように装ったということを意味するから、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であるというべきである。
したがって、本件ツイート2は、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
(3)本件ツイート3について
ア 名誉毀損の有無
(ア)同定可能性について
被告蓮見は、本件イラスト3-1の女性は、ディズニーのキャラクターをモデルにした架空の女性であり、原告とは異なる特徴を有していると主張する。
しかし、本件イラスト3-1の女性は、「山口」という本件性被害に関連する名前を胸につけ(被告蓮見は、「やまろ」と呼んでいるが、不自然な読み方であり、本件性被害に関係する山口を示唆していることは明らかである。)、 Tシャツ(原告が本件性被害に遭った翌日に山口のTシャツを着ていたとの話がある(甲1参照)。)を着て、本件性被害の内容に関連するやり取りをしている携帯電話を持ち、容姿も原告に類似しており、原告を意識していることが認められる。また、多数の閲覧者が、本件イラスト3-1の女性を原告と認識していたことが認められるほか(前記1の認定事実(以下「認定事実」と言う。)(1)キ)、被告蓮見は、本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であることを示唆する発言をし(認定事実(1)ク)、平成30年6月30日、ツイッターで、本件ドキュメンタリーに関する投稿をするとともに、本件イラスト3-1と原告の顔写真を並べて投稿している(認定事実(1)サ)。さらに、被告蓮見は、令和3年1月22日付け準備書面(1)の10、11頁(第2の5(2)(イ)(か)及び(3))において、本件イラスト3-1に記載された表現は山口のインタビュー等から着想を得たものである、本件ツイート3の文章の内容から読み取れるのは、被告蓮見が山口の主張を風刺し、原告と山口のいずれの主張が正しいのか問題提起をしていることである等と主張しており、同イラストの題材が本件性被害であることが認められる。
そうすると、 本件イラスト3-1の女性は、原告に類似しているのみならず、第三者の一般人である閲覧者からも原告と受け止められ、被告蓮見自身も原告であることを ほぼ自認するような発言もしているのであるから、原告と同定することが容易に可能であると言うべきである。
(イ) 事実の摘示について
一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件イラスト3-1を含む本件ツイート3は、ジャーナリストになることを志す原告が、大物記者である山口に対して就職をあっせんしてもらうために枕営業を行ったものの、同人から就職をあっせんしてもらえなかったことを理由に、枕営業から2年後、山口との同意の下での性交渉を山口によるレイプだったと主張しているという事実を摘示するものと認められる。
被告蓮見は、本件イラスト3-1が風刺漫画であることから意見ないし論評であると主張するものの、前記(2)の判断基準によれば、風刺漫画であることのみをもって当該表現が意見ないし論評であるとは言えないのであって、被告蓮見の上記主張は、本件ツイート3さんが事実の適時をするものであるとの上記判断を左右するものではない(本件ツイート4及び5についても同様である。)
(ウ)社会的評価の低下の有無
前記の摘示事実は、本件ツイート2による摘示事実と同様であるから(前記(2)ア(ア)c)、前記前記(2)ア(ア)cで認定・説示したのと同様に、原告の社会的評価を低下させると言うべきである。
イ 名誉感情の侵害の有無
本件ツイート3のうち「枕営業」という表現は、前記(2)イ(イ)で認定・説示したのと同様に、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
(4) 本件ツイート4について
ア 本件イラスト4-1について
本件イラスト4-1は、本件イラスト3-1と同じであるから、前記(3)で認定・説示したのと同様に、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
イ 本件イラスト4-2について
(ア) 名誉棄損の有無
a 同定可能性について
被告蓮見は、令和3年1月22日付け準備書面(1)の15頁及び17頁(第2の6(4)(イ)及び(5)(イ))において、本件イラスト4-1ないし4-4の各女性が、本件イラスト3-1の女性と同一人物であることを認めていることも踏まえれば、前記(3)ア(ア)で認定・説示したとおり、本件イラスト4-2の女性を原告と同定することが可能であると言うべきである。
b 事実の適示について
一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件イラスト4-2は、 原告が主張する本件性被害等について記載された本件著書(本件イラスト4-2の女性(原告)が手に持っていること及び本件著書と類似の表紙であること(認定事実(1)ウ参照)から、同イラスト内の本は、タイトルが「CLAP BOX」であっても本件著書を指していると認められる。)の内容が虚偽であって、実際は本件性被害が枕営業に過ぎないものであった事実を摘示するものと認められる。
c 社会的評価の低下の有無
前記bの摘示事実は、原告が、真実は山口と合意の上で性交渉をしたにもかかわらず、合意のない性交渉をされたとの虚偽の内容を述べ、性犯罪の被害者を装っているとの印象を一般の読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させるというべきである。
この点、被告蓮見は、一般の読者は、受け取る情報の全てを鵜呑みにせず自分で精査しなければならないこと及び真偽不明のかわいそうな話で同情を誘い、それをビジネスにするという手法に注意する必要があると受け取ると主張する。
しかし、上記のとおり、本件イラスト4-2の女性が原告であること、その原告が持つ本が本件著書に似せた表紙の本であること、原告の横に「そうだデッチあげよう」と大きく記載されていること、原告の横に立つ男性(吉田)が、虚偽の事実を記載した著書を出した者であること、読者に対して注意を促す文言は見当たらないことなどに照らせば、 被告蓮見主張のビジネスに注意すべきと受け取るのではなく、原告について論じていると受け取るのが通常であり、被告蓮見の上記主張は採用できない。
(イ)名誉感情の侵害の有無
本件イラスト4-2のうち、原告が手に持つ本の帯にある「枕の極意ここにあり」という表現は、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であると認められる。
また、本件イラスト4-2のうち「デッチあげよう」という表現は、前記(ア)bの摘示事実を意味するといえるから、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であると認められる。
したがって、本件イラスト4-2は、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
ウ 本件イラスト4-3について
(ア) 名誉毀損の有無
a 同定可能性について
前記イ(ア)aの事情を踏まえれば、前記(3)ア(ア)で認定・説示したとおり、本件イラスト4-3の女性を原告と同定することが可能であるというべきである。
b 事実の摘示について
BBC が、本件性被害等を内容とする本件ドキュメンタリーを放送したことを踏まえると、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件イラスト4-3は、原告が主張する本件性被害は存在せず、証拠も存在しないにも関わらず、原告は、山口に対して枕営業を行ってから2年後に、自分の体が覚えていることを証拠として本件性被害が存在するかのように主張し、テレビ局による取材でも同様の内容を述べたという事実を摘示していると認められる。
c 社会的評価の低下の有無
本件イラスト4-3は、原告が本件性被害がなかったにもかかわらず、それがあるかのように装い、テレビ局による取材でも同様の内容を述べた人物であるとの印象を一般の読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させると言うべきである。
この点、 被告蓮見は、一般の読者は、同イラストを、何事においても被害を受けたのであれば、その場その時期に然るべき手段で告発または被害届等の訴えを行えばよいのに、従軍慰安婦の問題も#Metoo運動も、何年も経ってから被害を言い出すのは不審であるし、卑怯であると主張するものと受け止めると主張する。しかし、上記の通り、同イラストの女性が原告と認められること、原告がBBCの本件ドキュメンタリーに出ていたこと、読者に対して一般的な見解を示す文書は見当たらないことなどに照らせば、一般の読者は、原告についてのイラストと見るのが自然であり、被告蓮見の主張は採用できない。
(イ)名誉感情の侵害の有無
本件イラスト 4-3のうち「枕売って泣くボロい商売」、「エビデンスなんかないけれど・・・そうだアイゴー」という各表現は、原告が真実は枕営業をしたにもかかわらず、本件性被害を主張していることを意味するから、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であると認められる。
したがって、本件イラスト4-3は、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
エ イラスト4-4 について
(ア) 名誉毀損の有無
a 同定可能性について
前記イ(ア)aの事情を踏まえれば、前記(3)アアで認定・説示したとおり、本件イラスト4-4の女性を原告と同定することが可能であるというべきである。
b 事実の適示について
本件イラスト4-4の右側に記載された原告の本件ドキュメンタリーでの供述に関連する項目を含む文が全体として、意味の通じないものであることに加え、その文字のフォントや大きさが統一されておらず、不必要な箇所に句点が打たれていること、同イラストの「Sex Slave Story」との表現などを考慮すると、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件イラスト4-4は、本件性被害等を内容とする本件ドキュメンタリーにおける原告の供述内容が、原告の妄想によるものであるという事実を摘示するものと認められる。
c 社会的評価の低下の有無
本件イラスト4-4は、原告が妄想によって支離滅裂な発言をする人物であるとの印象を一般の読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させるというべきである。
(イ) 名誉感情の侵害の有無
本件イラスト4-4が前記(ア)bの事実を摘示するものであることを踏まえると、同イラストは、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であり、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
(5)本件ツイート5について
ア 名誉毀損の有無
(ア)同定可能性について
前記(4)イ(ア)aの事情に加えて、本件イラスト5-1の女性が本件イラスト3-1及び本件イラスト4-1ないし4-4の女性と同一であるかについて、被告蓮見が争っていないこと (弁論の全趣旨)を考慮すれば、前記(3)ア(ア)で認定・説示したとおり、本件イラスト5-1の女性を原告と同定することが可能であるというべきである。
(イ)事実の摘示について
BBCが、本件性被害等を内容とする本件ドキュメンタリーを放映したこと及び別件判決の内容を踏まえると、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件イラスト5-1は、原告は、本件性被害が存在しないにもかかわらず、テレビ局の取材に対して本件性被害の存在を涙を流して演技しながら主張し、その内容を証拠として提出し、裁判官の同情を買い、原告勝訴の判決を得たという事実を摘示するものと認められる。
(ウ)社会的評価の低下の有無
本件イラスト5-1は、原告がテレビ局の取材に対して虚偽の事実を述べた上、その内容を用いて勝訴判決を得た人物であるとの印象を一般の読者に与えるものであるから、 原告の社会的評価を低下させるというべきである。
被告蓮見は、一般の読者は、裁判官は世間の意見や個人的な感想を判決に反映させるべきではなく、法と証拠に基づいた公平な判断をすべきと主張するものと受け止めるにすぎないと主張する。
しかし、上記のとおり、本件イラスト5-1は、原告が本件性被害の存在を涙を流して演技しながら主張し、勝訴判決を得たという事実を摘示するものと認められるのであるから、被告蓮見が主張するような一般的な内容として受け止められるものであるとはいえない。
イ 名誉感情の侵害
本件イラスト5-1が前記ア(イ)の事実を摘示するものであることを踏まえると、同イラストは、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であり、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
3 争点(1)イ (本件各ツイートに係る違法性阻却事由の有無)について
(1) 本件ツイート2及び3について
ア 公共性及び公益目的について
原告は、テレビやラジオに出演し、国際連合の本部で記者会見をし、米国のニュース雑誌である「タイム」の「世界で最も影響力のある100人」にも選出されていること(争いがない事実)からすれば、原告に関する事情は、一般社会において一定程度の関心のある事柄であると言える。
また、本件ツイート2及び3が摘示する事実は、前記2(2)及び(3)のとおり、いずれも本件性被害に関する事実であるところ、かかる事実の存否を巡っては、本件処分や本件議決がなされたり、別件判決がなされるなどしており、一般社会における正当な関心事といえる。
以上の事情に鑑みれば、同各ツイートが摘示する事実は、公共の利害に関する事実に係るものと認められ、その目的が専ら 公益目的にあったと認められる。
イ 真実相当性について
(ア)被告蓮見は、本件処分や本件議決の内容、別件訴訟において、山口が反訴を提起し、合意のない性行為であったことを否定していること、本件著書の内容と客観的状況や別件訴訟での原告の態度との間に齟齬があることなどを踏まえると、被告蓮見が、山口の主張を真実であると信じるにつき正当な理由があると主張する。
(イ)まず、本件処分及び本件議決は、本件ツイート2及び3が投稿される前に行われたものであるが、その理由が明確にされたものではないことを踏まえると、これらはいずれも本件性被害の不存在を認めるに足りる事実とまでは言えないと言うべきである。また、原告及び山口は、いずれも原告と山口の性交渉が原告による枕営業であったと主張していないものであるし(甲1)、被告蓮見は、上記性交渉が原告による枕営業であったと 推認させる事実を何等具体的に主張立証していない(被告蓮見が何らかの調査ないし取材をしたものとも認められない。)。
以上の事情に鑑みれば、被告蓮見が、同各ツイートの摘示する事実を真実であると信じるにつき相当の理由があったと認めることはできない。
ウ 小括
以上より、被告蓮見が本件ツイート2及び3を投稿した行為が違法性を欠くものと認めることはできない。
(2) 本件ツイート4及び5について
ア 公共性及び公益目的について
本件ツイート4および5が摘示する事実は、前記2(4)及び(5)のとおり、いずれも本件性被害に関する事実であるから、前記(1)アで認定・説示したのと同様に、同各ツイートが摘示する事実は、公共の利害に関する事実に係るものと認められ、その目的が専ら公益目的にあったと認められる。
イ 真実相当性について
前記(1)イ(イ)で認定・説示したことに加え、本件ツイート4及び5が投稿された当時、原告の主張内容を認めた別件判決が既に出ていたことも考慮すれば、被告蓮見が、°同各ツイートの適示する事実を真実であると信じるにつき相当の理由があったと認めることはできない。
ウ 以上より、被告蓮見が本件ツイート4及び5を投稿した行為が違法性を欠くものと認めることはできない。
(3)小括
以上より、本件ツイート2ないし5は、いずれも原告の名誉を毀損するとともに、原告の名誉感情を侵害するから、不法行為を構成するというべきである。
4 争点(1)ウ(損害額)について
(1) 本件ツイート2ないし5が摘示する事実は、その大半が同様のものであり、また、 同各ツイートによる原告の社会的評価の低下及び名誉感情の侵害の各内容もその大半が同様のものであることからすれば、慰謝料の額については、本件ツイート2ないし5を通じて、名誉毀損と名誉感情侵害とを全体的に見て判断するのが相当である。
(2) そして、被告蓮見は、約10箇月にわたって本件ツイート2ないし5を投稿し、その間に、本件ツイート3および4とは別の機会に本件イラスト3-1及び本件イラスト4-1ないし4-4をツイッター上に投稿していること、本件ツイート2ないし5は、原告が主張する本件性被害が虚偽の主張であることなどを摘示するものであって、原告の社会的評価に与える影響が決して小さいものではないこと、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告が被った精神的苦痛にかかる損害額は、80万円と認めるのが相当である。
また、 原告は、本件訴訟を追行するために弁護士に委任しているところ、被告蓮見による不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は、8万円と認めるのが相当である。
5 争点(1)エ (謝罪広告掲載請求の当否)について
(1) 原告は、原告に生じた名誉毀損の被害が深刻であり、その回復の必要性が極めて高いこと、被告蓮見は、本訴提起後も原告を揶揄するツイートを発していたり、本件各ツイート以外にも原告を誹謗、中傷するツイートを投稿しては削除することを繰り返していることから、本件各ツイートを削除しても、なお同種の行為を繰り返す可能性が高いことなどの事情を考慮すると、原告の名誉を回復するためには謝罪広告を掲載させることが必要かつ相当であると主張する。
(2) しかし、本判決は、本件ツイート2ないし5が、いずれも原告の主張のとおりに、原告の名誉を毀損し、原告の名誉感情を侵害する違法なものであるものと認め、被告蓮見に対して損害賠償を命ずるものであるから、原告の被った損害は、これにより相当程度回復されるというべきである。
また、原告は、ラジオやテレビに出演したり、本件著書を出版したり、本件ドキュメンタリーに係る取材に応じているほか、「伊藤詩織さんの民事裁判を支える会」というホームページが存在することなどに照らすと、原告は、自身の主張を広く社会一般に発信できると言うべきである。
さらに、被告蓮見が本件ツイート2ないし5を投稿したアカウントは現在凍結されており(前提事実(4)イ)、本件ツイート2ないし5が閲覧できない状態であることなどを考慮すれば、原告の名誉を回復するための措置として、金銭による損害賠償に加え、被告蓮見に対して上記ホームページに謝罪広告を掲載するよう命ずる必要があるとまでは認められない。
従って、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。
6 争点(2)ア (被告Aリツイートにおける事実の摘示及びこれによる原告の社会的評価の低下の有無並びに原告の名誉感情の侵害の有無)について
(1) 前記2(3)で認定・説示したとおり、本件ツイート3は、原告の名誉を毀損し、原告の名誉感情を侵害するものであると認められる。
(2) リツイートによる名誉毀損の成否
ア ツイッター において、投稿者がリツイート(他者のツイッター上の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿すること)の形式で投稿する場合、当該投稿者が、他者の元ツイートの内容を批判する目的等でリツイートするのであれば、何らのコメントも付加しないことは考え難く、当該投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。
そうすると、ツイッターが、140文字という字数制限があり、その利用者において、簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定されるSNSであること(弁論の全趣旨)を考慮しても、コメントの付されていないリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツィートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者において、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当であると言うべきである。
イ 被告Aは、コメントを付すことなく、被告Aリツイートを投稿し(前提事実(3)エ)、被告Aリツイートの前後のツイートに、被告Aが本件ツイート3を引用した意図が読み取れるようなものはうかがわれないから(むしろ、被告Aは、被告蓮見を勇気ある表現活動をする者として賞賛している (後記(3)ア)。)、同リツイートで引用された本件ツイート3の内容は、被告Aによる、本件ツイート3の内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告A自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告A は同リツイートの行為主体として、その内容について責任を負うと言うべきである。
(3) ア 被告Aは、被告Aリツイートをした時点で、別件訴訟の存在を知らず、また、原告の経歴も把握していなかったことから、本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であると認識できておらず、同女性がアニメ作品の峰不二子を連想させるので、保存目的でリツイートしたと主張する。そして、被告Aは「偽装難民」を取り上げて国内外で賛否両論の声が上がった書籍「そうだ難民しよう!」(甲4)の著者として被告蓮見を知り、被告蓮見について、難民支援が人道的という意見が大半である社会風潮の中で批判や中傷を恐れずに勇気ある表現活動をする者として称賛していたが、本件ツイート3を偶然見て、本件イラスト3-1を気に入ったことからリツイートしたと陳述する (乙ロ4)。
イ しかし、本件ツイート3の投稿以降、被告蓮見のアカウントに本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であり、本件性被害に関する内容であることをいずれも認識した閲覧者による多数の応答(リプライ)が投稿されており、賛否の対立が顕著であること(認定事実(1)キ)が認められ、被告Aは、リツイートするに際して、これらのリプライの状況及びその内容を認識していたものと推認することができる。また、被告蓮見は、本件ツイートを投稿した後、本件イラスト3-1と原告の写真等とを並べたツイートを投稿しているほか(認定事実(1)サ)、本件ツイート3を投稿した直後には、インターネット番組において、本件イラスト3-1の女性のモデルが原告であることをうかがわせる発言をしているところ(認定事実(1)ク)、これらの各発言はいずれも、被告Aリツイートより前である。
以上のとおり、被告Aは、被告蓮見の表現活動を称賛していたことも踏まえると、応答(リプライ)や被告蓮見による上記各発言等に基づき、本件イラスト3-1が原告の主張する本件性被害のことであると認識していたというべきである。 被告Aの前記アの主張は、採用することができない。
(4) 小括
以上より、被告Aは、被告Aリツイートをしたことにつき、原告に対する不法行為責任を負うというべきである。
7 争点(2)イ (損害額)について
被告Aリツイートの元ツイートである本件ツイート3は、原告が主張する本件性被害が虚偽の主張であることなどを摘示するものであって、原告の社会的評価に与える影響が決して小さいものではないこと、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、被告Aリツイートにより原告が被った精神的苦痛に係る損害額は、10万円と認めるのが相当である。
また、 被告Aの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は、1万円と認めるのが相当である。
8 争点(3)ア (被告Bリツイートにおける事実の摘示及びこれによる原告の社会的評価の低下の有無並びに原告の名誉感情の侵害の有無)について
(1) 被告Bは前記第2の3(3)ア(被告Bの主張)のとおり、本件イラスト4-1ないし4-4の女性と原告との同定可能性がないこと及び本件ツイート4が原告の社会的評価を低下させないことをるる主張するが、前記2(4)で認定・説示したとおり、本件ツイート4は、原告の名誉を毀損し、原告の名誉感情を侵害すると認められる。
被告Bの上記主張は、前記判断を左右するものではなく、採用することができない。
(2) そして、被告Bは、何らのコメントを付すことなく、被告Bリツイートを投稿し(前提事実U3)キ)、被告Bリツイートの前後において、原告が山口と合意の下で性交渉をしたことなどを内容とする投稿をリツイートしていることも併せて考慮すれば(認定事実(2)イ及びウ)、被告Bリツイートで引用された本件ツイート4の内容は、被告Bによる、本件ツイート4の内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告B自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告Bは、同リツイートの行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。
(3) 被告Bは、本件処分、本件議決及び別件訴訟において、原告及び山口の双方の主張が対立していたという状況の下では、原告の主張内容のみならず、山口の主張内容も公共的・公益的に極めて重要な意味を持つところ、被告Bリツイートは、山口の主張内容を被告Bのフォロワーに提供するという意味を持つものであって、本件ツイート4とは全く異なる別個の表現行為であるから、原告の名誉を毀損しないと主張する。
しかし、 被告Bリツイートが引用する本件ツイート4は、その投稿者である被告蓮見も山口の主張の提供であると位置づけておらず、そのような表示もなく、山口の主張を的確に反映したものであるとも認められない(本件イラスト4-1は「枕営業大失敗」とするものであるが、山口が原告による枕営業の事実を主張するものでないことは、前記3(1)イにおいて認定・説示したとおりである。)
したがって、 被告Bの上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
(4) また、 被告Bは、同人のフォロワーは、歴史や漫画などのネタに興味を有する者であり、被告Bは思想的に中立的な立場から、原告に対して関心を持たないフォロワーに対し、漫画ネタの一つとしてリツイートしたに過ぎないと主張する。
しかし被告Bは、本件性被害ないし原告についてのツイートを何度もリツイートしている(認定事実(2)イ及びウ)。さらには、原告代理人から、本件訴訟提起の連絡を受けてからも原告に批判的なツイートを複数回リツイートしている(認定事実(2)エ、オ及びカ)。 そうすると、被告Bリツイートは、その前後の投稿を見ても、漫画ネタの一つとしてしたものとはいえず、本件ツイート4の内容に賛同する表現行為としてなされたと認められる。
被告Bの上記主張は、上記判断を左右するものではない。
9 争点(3)イ (被告Bリツイートに係る違法性阻却事由の有無)について
(1) 被告Bは、名誉毀損については、表現行為が公共の利害に関する事実に関するものであり、 その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるときは、違法性が阻却されて不法行為が成立しないと言うべきであるところ、被告Bリツイートは公共的・公益的議論に資する情報を提供するものであるから、不法行為は成立しないと主張する。
しかし、被告Bは、被告Bリツイートに係る違法性阻却事由につき、上記主張以上に具体的な主張及び立証をしておらず、被告Bリツイートが違法性を欠くと認めることはできない。
(2) 以上より、被告Bは被告Bリツイートをしたことにつき、原告に対する不法行為責任を負うと言うべきである。
10 争点(3)ウ (損害額)について
被告Bリツイートの元ツイートである本件ツイート4は、原告が主張する本件性被害が虚偽の主張であることなどを摘示するものであって、原告の社会的評価に与える影響が決して小さいものではないこと、その他本件にあらわれ一切の事情を考慮すると、 被告Bリツイートにより原告が被った精神的苦痛に係る損害額は、10万円と認めるのが相当である。
また、被告Bの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は、1万円と認めるのが相当である。
第4 結論
よって原告の被告蓮見に対する請求は、88万円及びこれに対する令和2年5月16日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、原告の被告Aに対する請求は、11万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、原告の被告Bに対する請求は、11万円及びこれに対する令和2年7月19日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第12部
裁判長裁判官 小田 正二
裁判官 松下 絵美
裁判官 町田 翼