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SEALDs裁判を振り返り検証する(最終・第3回)

前回掲載した対象ツイート(①~㉝)の地裁判決に対して、地裁で棄却され、高裁で逆転した該当ツイートをピックアップした上、地裁と高裁の判断を対比させました。■高裁審理の概略 と ■全体を通した所感 を追加しました。

*お急ぎの方は、■高裁で逆転したツイート群⑧、⑬、⑮、⑳、㉕、㉛、㉜へとお進みください。

■高裁審理の概略

高裁では地裁の判断を全面的に是認・踏襲した上に、さらに一審棄却のツイート7点で違反が加算された。その結果、被告の99万円(地裁)の賠償額が2倍を超える242万円(高裁)へと跳ね上がった。被告の反訴も一審同様に棄却におわる。

被告の反訴の概要は「情報開示請求は福田1名の名において成されていたにもかかわらず、提訴の段で橋本に共有されたのはプロバイダー責任制限法違反である」との由。これについて高裁では以下の一審判決を踏襲した。

1.争点1(原告橋本による本件訴えの提起が不適法か)について
 被告は、原告福田が得た被告の発信者情報を利用して提起した原告橋本による本件訴えがプロバイダー責任制限法の趣旨を逸脱し、信義則違反または権利濫用に あたり、不適法として却下されるべきであると主張する。 そこで検討するに、同法4条1項の定める発信者情報開示請求権の行使によって発信者情報の開示を受けた者は、同条3項に基づき、当該情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない義務を負う。
 そうすると、当該開示を受けた者がこの義務に違反し、そのため当該発信者に損害が生じたときは、当該開示を受けた者において、当該発信者に対し、不法行為に基づき損害賠償義務を負うことは考えられる(後記5参照)。
 しかしながら、当該開示を受けた者からの情報提供を受けた第三者が、当該発信者に対し、同発信者がした投稿等により当該第三者の名誉等を既存されたとして不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起することが、自ら発信者情報開示請求権を行使した者でないことをもって、直ちに信義則に違反するとか、権利の濫用に当たるということはできない

地裁判決文P12より

ネットで話題に上がりがちな、いわゆる個人情報の横流しトピックである。裁判所の判断を平易に意訳すると「通常はみだりに流用しちゃいかんってことになっていて、それはその通りなんだけど、その人が悪いことをしたので訴えるなんて場合には一概にいけないとは言えないよね」というもの。

控訴審で原告は複数の控訴理由を挙げているが、被告の地裁判決後の言動もその一貫を成しており、全て地裁で棄却された件であるにもかかわらず、判決を無視するかの如き傲岸不遜な発信を続けた側面を控訴原告は深刻に捉えていた。

一審被告は、本件訴訟提起後も一審原告らに対する攻撃を継続し、最近では、自身のブログに、「弱者の個人情報を違法にばらまき、集団リンチするソロスネットワーク」(甲38 2月15日)、「SEALDs福田和香子がスラップ訴訟で陳述書や認証尋問で嘘をついた事実」(甲39 2月23日)などの記事を投稿している。よって、この点も慰謝料の算定には考慮すべきであった。

一審原告・控訴理由書より

高裁の判決文も違反ツイートが追加された他は、全文が地裁判決どおりであり、加筆された部分は以下のとおり。地裁よりも更に被告の悪質性が強調されている。

「第一審被告は、政治家や非政府組織、政治団体等による税金の詐取が是正されてほしいという思いから、説明責任を問うために本件各投稿をしたのであり、本件を一般女性がSEALDsという社会権力に対する批判の声を上げた事案とみるべきであるから、真実性・真実相当性がなくとも、説明責任を果たさない社会権力の名誉よりも弱者の表現の自由が優先されるべきであると主張するが、その意図はともかく、投稿の態様からして説明責任を問うという姿勢にはほど遠く、また、真実相当性すらも備えない表現を直ちに適法であるということはできないから、第一審被告の主張は採用できない。」

高裁判決文より

高裁判決は原告側が会見で「ほぼ満額回答」と満悦していたほどに原告側の主張が認められ、被告の控訴は次のとおりにべもなく棄却されている。「第一審原告らの控訴は一部理由があり、第一審被告の控訴は理由がない(判決文「第4 結論」より)」。

被告は個人情報の取り扱いに関する「反訴」を最高裁まで持ち込んだもののこれも棄却。かくして令和元年8月8日に提起された一連の裁判は、約3年の年月を経て令和4年12月14日の最高裁棄却を以って完全に終結した。

■高裁で逆転したツイート群(⑧、⑬、⑮、⑳、㉕、㉛、㉜)


⑧ 投稿年月日 平成28年4月10日頃
舛添要一と福田和香子がやっていることは同じである。福田は税金で豪遊しているか証拠はないが、この団体#SEALDsが「普通の学生による自発的な護憲反戦団体」と大嘘(実際と真逆)として現れて、国民に詐欺を働いたことに変わりない。日本はこのように反逆した者を祭り立てる世の中にされた。(ケ)

地裁判決:本件記述ケのうち、「この団体#SEALDsが「普通の学生による自発的な護憲反戦団体」と大嘘(実際と真逆)として現れて、国民に詐欺を働いたことに変わりない。」との部分は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、SEALDsが普通の学生による自発的な護憲反戦団体ではないにもかかわらず、その実態を偽り、国民を欺いたとの事実を摘示するものと認められるが、その直前にある「福田は税金で豪遊しているか証拠はないが」との部分とのつながりが認められないから、原告の言動についての記述と認めることはできない
 したがって、本件記述ケについて、SEALDsが「普通の学生による自発的な護憲反戦団体」ではないにもかかわらず、原告がそのような大嘘を述べ、国民に詐欺を働いたとの事実を摘示するものとは認められない。
 本件記述ケのうち、「福田は税金で豪遊しているか証拠はないが」との部分は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、原告福田がSEALDsの一員としてデモ活動等に参加することで報酬を得ていたとする証拠はないと読み取れるから、そのとおり報酬を得ていた疑いがあるとの留保が付けられているものと認められる。
 したがって、本件記述ケは、原告福田がSEALDsの活動で対価を得ていたとの疑いがあるとの事実を摘示するにとどまり、原告の主張は理由がない

高裁判決:「この団体#SEALDsが「普通の学生による自発的な護憲反戦団体」と大嘘(実際と真逆)として現れて、国民に詐欺を働いたことに変わりない。」との部分は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、SEALDsが普通の学生による自発的な護憲反戦団体ではないにもかかわらず、その実態を偽り、国民を欺いたとの事実を摘示するものと認められる。そして、本件記述ケが、「舛添要一と福田和香子がやっていることは同じである。」という記述に続くものであることからすると、「福田は税金で豪遊しているか証拠はないが」との部分を含めた本件記述ケは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、第一審原告福田が税金で豪遊している証拠はないけれども、同人が所属する団体であるSEALDsが実態を偽り、国民を欺いていることからすると、公金の不正使用を指摘されて東京都知事を辞任した舛添要一氏(当裁判所に顕著である。)と同じく、公的な活動によって私利を得ており、国民を欺いているとの事実を指摘したものと認められるから、第一審原告福田の社会的評価を低下させるものと認められる。」


⑬ 投稿年月日 平成30年5月12日頃
このSEALDs福田氏もジョージソロスの仕込んだWomen’sMarchや#METOOやってます。(セ)最近ソロス人工芝の法曹を使って言論弾圧キャンペーンを猛スピードでやってますね。懲戒請求されたら逆に訴え、メディアや弁護士ドットコムでも宣伝する。ソロス金か税金で司法を腐敗させているのかというような。#NWO(ソ)

地裁判決:本件記述セは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、原告が、資産家ジョージ・ソロスが仕込んだWomen’s Marchや#MeTooの活動に参加しているとの事実を摘示するものと認められる。しかしながら、原告が参加した活動に特定の資産家が関与していたとしても、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、その事実をもって参加者に過ぎない原告の活動姿勢が問われるとか、正義感から参加している旨表明していたことが否定されるという関係にはならないから、上記摘示事実が、原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。

高裁判決:本件記述セは、資産家ジョージ・ソロスが仕込んだWomen’s Marchや#MeTooに第一審原告福田が参加しているとの事実を摘示するものであるところ、資産家であるジョージ・ソロス氏がWomen’s Marchや#MeTooという社会的活動を「仕込んだ」という部分は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、上記活動は特定の資産家が主導して行われたものであるとの事実を摘示するものと認められる。
 そうすると、第一審原告福田が上記活動に参加しているとの事実を指摘することにより、同人が特定の資産家の影響下で活動をしているとの印象を与え、その活動姿勢に疑問が投げかけられるといえるから、第一審原告福田の社会的評価を猊下させるものと認められる。

⑮ 投稿年月日 平成30年7月17日頃
パヨクがCIAでないなら、なぜピースボートの提携組織はソロス資金のNGOなのか?なぜソロス財団土井香苗とCIAアエラがMETOOを電通を使って促進して、ヒューマンライツナウで詩織と福田和香子が「ハニトラなんて馬鹿だ」とスッペチするのか?なぜ福田は長島・大野・恒松法律事務所を使う金があるのか(チ)

地裁判決:原告は、本件記述チについて、原告が、CIA又はソロス財団の資金により長島・大野・恒松法律事務所を使ったとの事実を摘示すると主張するが、本件記述チは、「パヨクが」から「スッペチするのか?」までの各文の意味を取ることがかなり困難であり、「なぜ福田は長島・大野・恒松法律事務所を使う金があるのか」の部分について、それ以前の文に表れたCIAやソロス資金と結びつけたものとは読み取れないから、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として、本件記述チが、原告の上記主張のとおりの事実を摘示したものとは認めることができない

高裁判決:本件記述チについて、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、「パヨクがCIAでないなら、なぜピースボートの提携組織はソロス資金のNGOなのか?なぜソロス財団土井香苗とCIAアエラがMETOOを電通を使って促進して、ヒューマンライツナウで詩織と福田和香子が「ハニトラなんて馬鹿だ」とスッペチするのか?」との部分は、ソロス財団やCIAから資金援助を受けている左翼系団体等と第一審原告福田が密接に関係していることを反語的・間接的に表現したものと理解することができ、また、「なぜ福田は長島・大野・恒松法律事務所を使う金があるのか。」という部分は、第一審原告福田が規模の大きな弁護士事務所に依頼できる程度の資金を有しているということを反語的に表現したものであると理解することができる。そうすると、本件記述チ全体では、第一審原告福田がCIAやソロス資金といった外部団体から多額の資金援助を受けているとの事実を摘示したものと認めることができるから、第一審原告福田の社会的評価を低下させるものと認められる。

⑳ 投稿年月日 平成28年1月27日頃
パスタチンコこと橋本紅子の腕時計、去年7月と12月。12月の方すごいいいな。時計のこと全然知らないんだけど、高いのかな?
同じsealdsの和香子が随分羽振りが良さそうなので、気になった。
(ノ)

地裁判決:本件記述ノは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、投稿者において、原告の腕時計の価値が気になったという感想を記述したものに過ぎないので、間接的ないしえん曲に原告が報酬を得るためにデモに参加していたとの事実を摘示したものとする原告の主張は理由がない

高裁判決:本件記述ノは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、「パスタチンコこと橋本紅子の腕時計、去年7月と12月。12月の方すごいいいな。時計のこと全然知らないんだけど、高いのかな?」という部分と「同じsealdsの和香子が随分羽振りが良さそうなので、気になった。」という部分を併せて読むと、第一審原告福田に多額の収入があり、同じくSEALDsのメンバーである第一審原告橋本も高額な腕時計を所持できるほどの収入があるとの事実を摘示したものと認めることができる。
 そして、本件記述ノの投稿時期に近接して第一審原告福田がデモに参加して報酬を得ていた事実を摘示した投稿(投稿番号①)がされていることも併せ考慮すると本件記述ノも、同じくSEALDsのメンバーである第一審原告橋本がデモに参加して報酬を得ていたとの事実を間接的ないし婉曲に摘示したものということができるから、本件記述ノは、第一審原告橋本の社会的評価を低下させるものと認められる。

㉕ 投稿年月日 平成28年5月7日頃
Catさんがsealds界隈に言論封殺されたことを述べられていたが、まつエク芸能人投稿ばかりしているパスタちんこ紅子は「弁護士行き確定」という暴力を使う奴だからな。現にこの界隈の弁護士がslapp訴訟を起こすなど社会問題では?(ホ)

地裁判決:原告は、本件記述ホは、原告が脅迫や暴力などをしたとの事実を摘示するものであると主張する。しかし、本件記述ホについて、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告が、原告に向けた投稿に対し、「弁護士行き確定」とのメッセージを発信したことをもって「弁護士行確定」という暴力を使うと表現したとしても、これをもって犯罪行為である脅迫に当たるとする事実を摘示したものとみることは困難であり、せいぜい暴力的な言動であると論評したにとどまるものと認められる。
 したがって、原告の上記主張は理由がない

高裁判決:本件記述ホは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、「まつエク芸能人投稿ばかりしているパスタちんこ紅子は「弁護士行き確定」という暴力を使う奴だからな。」との部分は、これに続いて「現にこの界隈の弁護士がslapp訴訟を起こすなど社会問題では?」という記述をしていること、直前には「Catさんがsealds界隈に言論封殺されたことを述べられていた」との記述があること、本件記述ホに先立つ投稿(投稿番号㉔)において第一審原告橋本がネットの発言に関する民事裁判を多数行っていることを「脅し」と表現していることを考慮すると、第一審原告橋本が弁護士の存在を示して他人の言論を封殺するような脅迫をしたとの事実を摘示したものと認めることができる。

㉛ 投稿年月日 平成28年5月15日頃
何が 笑 だ。
スポンサーを聞かれると逃げる香山リカと福島に行ってきた橋本紅子(交通費誰が出した?)。
今災害で急を要するのは熊本なんだけど。「差別は金になる」と同様、放射能は金になるんですか?おまえの下手な歌など誰も聞きたくない!

地裁判決:原告は、本件記述ユは、原告が報酬を得るためにデモに参加していたとの事実を摘示する旨主張する。
 しかし、上記記述は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、原告が香山リカと福島に行った際の交通費の出所について疑問を呈しているにとどまるところ、本件記述エと異なり、被告がSEALDsにおける原告の活動とその対価に関する記述であることを認めていないから、「交通費誰が出した?」という記載から、間接的ないしえん曲に、原告がSEALDsの一員としてデモ活動等に参加することで報酬を得ていたとの事実を摘示するものとみることは困難である。したがって原告の主張は理由がない

高裁判決:本件記述ユは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、これに続いて「「差別は金になる」と同様、放射能は金になるんですか?」という記述がされていることや、福島に同行した香山リカ氏についてスポンサーを答えないという態度が記述されていることを踏まえると、第一審原告橋本の福島に行った際の交通費の出所についてのみならず、活動費自体も疑問であり、むしろ反対運動等をすることで収入を得ているとの事実を間接的ないしえん曲に摘示したものと認めることができるから、本件記述ユは、第一審原告橋本の社会的評価を低下させるものと認められる(なお、第一審被告は「「差別は金になる」と同様、放射能は金になるんですか?」という記述を名誉毀損表現として追加するのは時機に遅れた攻撃防御方法として却下すべきである旨主張するが、上記記述を名誉毀損表現それ自体として追加するものではないから、失当である。)

㉜ 投稿年月日 平成28年5月17日頃
「反差別運動」という名のデモ妨害運動(国会議員も関与)は、「ほぼ無料」だそうだ。ほぼって何?では、福島にぱすたちんこ橋本紅子と行った新幹線は誰が払ったのだろう。自腹で行くような人たちでは決してないと思う。清廉潔白ならやくざを使って脅すはずはない。なぜ脅迫罪を問われないか?(ヨ)

地裁判決:原告は、本件記述ヨのうち、「福島にぱすたちんこ橋本紅子と行った新幹線は誰が払ったのだろう。自腹で行くような人たちでは決してないと思う。という部分は、原告が報酬を得るためにデモに参加していたとの事実を摘示する旨主張する。
 しかし、上記記述は、前後の文脈も踏まえ、かつ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、「原告が福島に赴いた際の原告の新幹線代を負担した第三者」が実際は自腹ではなかったという事実を摘示するにとどまり、原告に向けた事実の摘示であったとは認められない。また、上記記述中の「人たち」に原告が含まれるとしても、原告が自分の費用で交通費を賄うような人物ではないと思うとの意見・論評の範囲にとどまるものと認められる。したがって原告の上記主張は、理由がない

高裁判決:本件記述ヨは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、「自腹で行く人たちでは決してない」という記述からも、複数の人物を念頭に置いたものであると認めることができ、福島に橋本と言った第三者のみを対象とする記述ではなく、第一審原告橋本をも対象とする記述であると認められる。そして、「反差別運動」という名のデモ妨害運動(国会議員も関与)は、「ほぼ無料」だそうだ。「ほぼ」って何?」という記述に続けて記載されたものであることからすると、第一審原告橋本(を含む複数の者)が新幹線代を提供されて社会活動しているとの事実及び「ヤクザを使って脅す」ことをしたとの事実を反語的に表現したものであるということができる。
 そうすると、本件記述ヨは、第一審原告橋本が正義感からではなく資金提供を受ける目的で社会活動をしており、かつ、卑劣な手段で相手の言動を封殺する人物であるとの印象を与えるから、第一審原告橋本の社会的評価を低下させるものと認められる。

■全体を通した所感

地裁から最高裁まで、一連の裁判では「疑い」の表明が違反にあたるかどうかが1つのポイントだったといえるだろう。本件はたとえ文法上は疑念を表明したツイートであってもアウトとなる判例となった。原告が執拗さと悪質性を強く訴えたことと高裁で「投稿の態様からして~、~という姿勢にはほど遠く」と加筆されたように各表現の「態様」が重視されたのだと思われる。長期間に亘って繰り返された口汚い悪罵には、被告の思い込み以外の根拠はなかった。

一審判決で、「被告は「あくまでSEALDsが政治資金規正法に違反していない」などと言える立場ではないと批評したに過ぎない」などと主張しているが、原告Hにつき「政治資金規正法に違反しています。」と断定的に記述していることからして、被告の主張は理由がない。」と指摘されている。
見紛いようのない断言を裁判になると「~と批評したに過ぎない」などと詭弁を弄する被告の厚顔無恥には、(仮に他にどのような弁明の余地もなかったのだとしても)呆れ果てるほかない。

加えて、個人情報の取り扱いにかんする判断も、我々ネット民にとっては注目に値しそうだ。そういう面では被告が最高裁まで争ってくれたお陰で確定的な司法判断が得られたので結果的には公益に資したといって良いのではないか。

地裁判断と高裁判断の差異については、一審では棄却の根拠が不明確だったため筆者は全面的に高裁判断を支持する。

訴えられた被告のツイートは、殆どがSEALDsに対する資金投下に関するものだったが、当時この団体への資金投下を疑った者は少なくなかったと記憶している。それでも2名の女性だけを長期間、特定の態様を以って、執拗に攻撃した者が被告だったということだろう。それにしても「ポールダンススタジオ」、「まつエク」、「時計いいな」・・・等々、リーダーの奥田愛基氏ではなく、なぜ福田、橋本という2名の女性がターゲットにされたのか、必然性が何処にあったのかは全裁判を通じても判然としなかった。

前々稿(第1回)で述べたとおり、本裁判での被告は筆者が、憶測に基づく誹謗中傷行為を受け続けたことで提訴した相手と同一である。

一審の原告訴状で述べられた「被告が原告福田に対して中傷行為を続けたいという意欲は非常に高く、賠償額が低額に留まった場合、その程度で済むならば構わないとして、なお中傷行為が続く危険が高い(訴状P15)」は、的を射た洞察だったといえそうだ。

SEALDs裁判につき個人的な論評を加えるとするなら、まずは証拠といえる証拠がなかったことに愕然としたが、ツイートの「憲法変えられると国民困るんです。やめて下さい」にも驚いた。一時はSEALDsに参加して「安倍◯ね」と叫んでいた人物ではあるが、造反直後から元仲間を罵りつつ、安倍元首相との親交厚かった山口敬之氏の裁判支援者(その多くが改憲支持者である)に加わって一定期間でも活動を共にできたことに驚きを禁じえない。今現在は安倍氏の暗殺を巡る考察にご執心の模様だ。

思うに、この人物の誹謗中傷の根本動機は政治性でも主張内容でもなく、原告が端的に述べたとおり「中傷行為を続けたいという意欲」に起因するものだろう。

おわりに、筆者の政治的立ち位置をあらためて確認しておきたい。筆者は改憲を主張する保守主義者であるから、当時の安保法案については(まずは憲法を改正するべきという立場ではあったものの)当時も今もSEALDsの主張にシンパシーは一切感じていない。ただし相手が誰であれ、「憶測」に基づく執拗な誹謗中傷は”道徳的”にも”法的”にも許されるべきではないし、また、もしも彼らの政治的主張に批判的であるのなら反論で対抗するべきであって、根拠のない誹謗中傷行為はむしろ相手方を”政治的”に利する愚行中の愚行と考える。現に左傾媒体がまるで小躍りするかのように判決を報道しているではないか。下記は一例。

◆メディアによる報道

赤旗:「福田さんに膨大な誹謗中傷が向けられた中、特にツイッターで執拗に名誉を傷つける書き込みをした加害者を特定し~」と紹介。

朝日新聞:「何をして金をもらっているのでしょう」、「享楽をするための報酬のためにデモしただけじゃん、噓つき」を引用。

弁護士ドットコム:「舛添要一と福田和香子がやっていることは同じである。福田は税金で豪遊しているか証拠はないが、この団体♯SEALDSが『普通の学生による自発的な護憲反戦団体』と大嘘(実際と真逆)として現れて、国民に詐欺を働いたことに変わりない」を引用。

週刊金曜日:「福田和香子は何の仕事をして金をもらっているのでしょう?パリに在住して狂ったように買い物して、明日はないかのように贅沢そうな暮らしをしている」「姉弟で人工芝」を引用。”被告女性は判決後もツイッターで「つっこんだ人に当たるだけで100万もGETできる」と投稿するなど、判決への批判や福田さんへの言及を続けている。”とも紹介。

Buzzfeed:「売春婦と自称している」「報酬をもらっている」「ソロス財団の操り人形」「科研費を私的流用した」等と紹介。