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弁護団によるメールの解釈

山口弁護団はメールやりとりでの伊藤氏の心理をどのように分析したか。以下はメール本文と、対応する控訴理由書からの引用です。

*引用文中で控訴人→山口氏に、被控訴人→伊藤氏にそれぞれ変更しています。

🔴お疲れ様です。
この前はどうしたらいいのかわからなくて、普通にメールしたりしてしまいましたがやっぱり頭から離れなくて。
この前気づいたらホテルにいたし、気づいたらあんなことになっていてショック過ぎて山口さんに罵声を浴びせてしまいましたが、あの時言ってた君は合格だよって、いうのはどういう意味なんでしょうか?
山口さんのこととても信頼していたので・・・連絡いただけますか?
忙しいのにすいません。 2015-04-14 17:20 (←著書では全文省略

山口弁護団)本件行為が自らの意思に沿わないものであったかのようにほのめかしつつ、「あの時言ってた君は合格だよって、いうのはどういう意味なんでしょうか?」などと自己の就職希望に関する4月4日の本件行為直後の山口氏の発言の趣旨を確認するメールを送信している。このことは、伊藤氏が就職に関する自己の希望の実現を、本件行為が性被害として公にならずに処理されることの見返りとして暗に要求する態度で山口氏と交渉しようとの意図を持つに至っていたことを強く示唆するものである。

🔵罵声浴びた記憶はないけどな。今ニューヨークのTBSインターナショナル本社と、あなたを雇用するにはどういうパターンがありうるか検討しています。最初からプロデューサーとして雇うには、支局のスタッフを増やす事になるので新たに予算をつけることになります。インターンとして仕事を始めてもらうなら、ハードルは下がります。VISAについては、プロデューサーとしてVISA取得を支援するには、一旦こちらに来て正式な面接を受けてもらう事になります。実質的にはそのまま合格なんですが、その後一旦東京に戻ってアメリカ大使館でパスポートにVISAを貼付してもらわなければなりません。インターンの場合は、面接は不要だそうです。これも給料を払うか払わないかを基準にしたアメリカの法律の違いだそうです。
いずれにしても、現在ニューヨークの新しい社長と交渉中です。今しばらくお待ちください。 2015-4-14 19:18 (伊藤詩織『Black Box』78頁)

  山口弁護団)この山口氏の説明によれば、TBSワシントン支局での有給のプロデューサー採用とそのためのTBSによるビザ取得の支援については、TBSインターナショナル本社の決裁が必要であり、山口氏の裁量で決定できるフリーランス契約や無給のインターン採用と比較すると、厳格なTBSの社内手続き、更には面接やビザ取得のための求職者自身の日米間の往復を必要とするなど、求職者側にとっては相当の待機期間と費用、労力等の負担を強いられるものであったと認められる。

 伊藤氏の最優先の希望は、TBSワシントン支局での新規プロデューサー採用であり、そのためのTBSによるビザ取得支援が伊藤氏の主要な関心事であった(甲1の1ないし5)。また、伊藤氏が会食時に新規プロデューサーの採用手続等について上記4月14日の山口氏のメール内容と同様の説明をしても、酔った上での自己PRに終始しており、的確に理解していなかった可能性が高い。(乙4・8、9頁。伊藤氏も本件串焼き店や本件寿司店では具体的なビザの話が出なかったと述べており(甲37・5、6頁)、山口氏の説明への理解が不十分であったことがうかがわれる。)

 これらの事情を前提とすると、伊藤氏が、上記山口氏からの返信メールを読んで、初めて正確に新規プロデューサー採用やTBSによるビザ取得の支援に関するハードルの高さを正確に理解するに至り、会食時の酩酊による失態を本件行為時に性交に及んだことで挽回し、自己の雇用について山口氏から確約を得たとの内心の期待が裏切られたとの心理を抱いたであろうことは、容易に推察されるところである。

 上記山口氏の返信メール(4月14日午後7時18分)に対して、山口氏から2回にわたる意向確認のメール(同月16日午前11時13分、同月17日午前2時)を受けて約3日後にようやく返信するまで(同日午後7時50分)伊藤氏からのメールによる反応が途絶えていたことも(甲1の18ないし20)、山口氏の上記4月14日の返信メールでの説明を読んだ伊藤が上記のとおり強い不満を抱いたことを推認させる。

    (2日間の空白)
🔵メール届いた?読んだ?
我々の仕事では、業務に関する連絡は即座にきちんと反応する事がとても大切です。詩織ちゃんを雇用するためにかなりいろいろな工夫をしているだよ(原文ママ)。反応がないともうやる気がなくなっちゃったのかとも思います。やる気がなくなったらそれはそれで連絡するのがマナーだよね。
2015-4-16 11:13 (伊藤詩織『Black Box』80頁)
🔵伊藤さん、
あなたの雇用について少し進展がありました。
まだやる気があるかどうかだけでも返信を下さい。
2015-4-17 2:00 (伊藤詩織『Black Box』81頁)

山口弁護団)さらに、4月17日のメールのやり取りで、山口氏が「あなたの雇用について少し進展がありました。」と述べたところ、「進展とはどういうことでしょうか?」との伊藤氏の質問に対して「進展とは、大統領選に向けて支局スタッフを一名増員する事が認められる方向だという事です。」と述べる一方で「どのような人材をどう取るかはこれから検討されます。」と→

🔴ここ数日入院していたので連絡できませんでした。進展とはどういうことでしょうか? 2015-4-17 19:50  (伊藤詩織『Black Box』81頁) 
🔵入院していたとの事、大丈夫ですか? 進展とは、大統領選に向けて支局スタッフを一名増員する事が認められる方向だという事です。
どのような人材をどう取るかはこれから検討されます。2015-4-17 19:50  (伊藤詩織『Black Box』82頁)

→ 伊藤氏の新規プロデューサー採用やフリーランス契約等の有給ないし有償の採用について確約までは与えないという慎重な内容の返信をしたことも、本件行為直後に「君は合格だよ」と発言しておきながら伊藤氏の雇用について明確な保証を与えようとしない山口氏の煮え切らない態度に対する伊藤氏の不満や不信感に拍車をかけるものであったと理解することができる。

  (ここから伊藤氏のトーンが変調)
🔴今回山口さんと帰国した際にお会いしたのは新規プロデューサーとして採用、ないしフリーとして契約をしたいので残りの問題のVISAの話をしようとお誘いいただいたからですよね。
なのに意識の無い私をホテルに連れ込み、避妊もせず行為に及んだあげく、
その後なにもなかったかように電話でビザの手続きをするといってきたり、
この度(原文ママ)に及んでそのようなあやふやなご返答をされるのは何故ですか?
この状況を考えると、まるで山口さんが仕事の話を持ち出してこのような機会を伺(ママ)っていたように思えてしまいます。
既に家族に山口さんの話をし今回の雇用のお話を告げていたので、
その後の進展を聞かれるたびに何と答えたらいいのか返答に困っています。

(あれ以来心身ともに傷つき、病院に通ったり、検査費等インターンの私にはそういった費用さえもがものすごい負担です。)

今まで言った言葉が本当であるなら誠意のある対応をしてください。
また前回のメールでもショックだったと伝えたのに謝罪の言葉がないのはどうかと思います。
そして医療費も負担してください。
2015-4-18 20:36 (伊藤詩織『Black Box』83頁)  *括弧内はBBで中略部分

山口弁護団)山口氏の上記返信に対する伊藤氏の「この度に及んでそのようなあやふやな返答をされるのは何故ですか?」、「まるで山口さんが仕事の話を持ち出してこのような機会を伺っていたように思えてしまいます。」、「既に家族にも山口さんの話をし今回の雇用のお話を告げていたので、その後の進展を聞かれるたびに何と答えたらいいのか返答に困ってしまいます。」、「今まで言った言葉が本当であるなら誠意のある対応をしてください。」との同月18日の返信の内容から(甲1の22)、上記のような伊藤氏の雇用に関する、伊藤氏の切迫した心境からすれば不明瞭ともとれる山口氏の態度に対する伊藤氏の強い不満、不信感を抱いた心理状態が見て取れる。


*山口弁護団の見解を要約すると、要するに説明は聞いておらず、勝手に思い込みでぬか喜びし、勝手に裏切られたと思って逆恨みしたということになろうか。ともあれ、友人に相談し、警察に届け出た時点では、まだ「就職」への色気は確実に残っていたということだ。

原判決は以下のとおり↓

<原審> 原判決は、被控訴人が本件行為と近接した時期に、本件行為につき合意に基づかずに行われた性交渉であると周囲に訴え、捜査機関に申告していた点は、本件行為が被控訴人の意思に反して行われたものであることを裏付けるものといえる旨認定した(原判決22ないし23頁)