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武田砂鉄さんにUp-dateのススメ (後編)

<2017.12.23付の記事(後編)>

多くの人が、あちこちでこの事案についての記事を読んでいるはずなので『またか』との印象を与えるかもしれないが、加害者やその支援者は、この件を皆が忘れてくれるのを何より待望している。ならば、繰り返し言及するしかない」

 武田砂鉄氏が述べるとおり、多くの人が、この事案についての記事を読んでいる。『またか』というように。武田氏を筆頭に名立たる書き手のペンが山口氏をこれでもかと糾弾した。かくして山口敬之氏=薬物暴力レイプ犯という風説は激流のごとく流布されていった。今、武田氏の言葉は巨大なブーメランとなって自分たちに襲いかかろうとしている。

この人たちは、人の痛みが分からないのだろうか。分からないのかもしれない。

 人の痛みが分からないのは山口支援者だろうか。根も葉もない作り話が実しやかに吹聴されて全世界が敵にまわる。もし間違っていたら大変なことになる・・・そんな水際の節度が維持できず、人を叩く快感に酔う者たちがそれに拍車をかけた。「真実」が「数」で押しつぶされる蟻地獄のような恐怖を、武田氏は一度でも想像したことがおありか。

 私たちはずっと前から知っていた。伊藤詩織氏の主張の核を成す「盗撮」「薬物」「怪我」は単に「そうかな?と思った」だけだった。このことは控訴審で決定的に判明している。否。「疑った事実」さえも実際は本当ではなく、これらの表現は山口氏を変質者として描くための意図的な装飾だ。これが何を意味するかはもうお分かりだろう。畢竟、朝5時の暴力レイプ描写は作り話だったということだ。

そして何よりこの原稿で放置できないのが、被害者・伊藤詩織の手記に対する“意図的な誤読”を重ね、そして糾弾をいくつも盛り込んでいる事だ。

 盗撮疑惑ではパソコンにカメラ機能はなく、タクシー運転手の「何もしないから」証言も存在しない。パンツを土産に~や薬局でピルを買う~の発言などなど、随所に散りばめられた作為は枚挙にいとまない。この悪質性を見よ!

 なぜこれらの装飾が必要だったか、貴方が物書きならお分かりだろう。高級ヴィンテージマンションに住まい、ピアノバーのコネでVISA目当ての”就職相談”、遅刻して「シャワーを浴びて来た」と言い、薬物もないのに手酌で勝手に酔っ払い、高級寿司バーで裸足で歩きまわり、ゲロ吐いてホテルについて行き、”上司になる予定の人”に掃除させ、あげく失態を挽回するために避妊具なしを承知で性行為を仕掛けたというのなら、そのような女性に、日本のみならず世界の誰が同情を示すというのか。

山口は、伊藤が「朝まで意識がなかった」と主張している、とする事で、記憶がなかったはずの女が今さら告発してきて迷惑している、との構図を作ろうとしているのだろうが・・・

 山口氏の主張は「意識はあった」である。記憶がなかったはずの女が今さら告発してきて迷惑なのではなく、「意識がなかった」が事実ではないということ。「意識」と「記憶」の混同は従来より問題になってきたが、ここに来てやっと明確になった。

武田砂鉄さんの主張
そもそも伊藤は、手記に「朝まで意識を失っていた」などとは記していない。

本人陳述
「事件当時、私は酩酊状態で意識、記憶がないまま性行為をされたため、私自身が被害の証明をすることはできません。」

 <求釈明に対する伊藤弁護団の回答
被控訴人が意識を失っていた時間帯は、平成27年4月3日の寿司屋で2回目のトイレに入った後から平成27年4月4日午前5時頃までの間である。

■原審判決後の動画

 民亊一審判決直後の2019年12月24にも武田砂鉄氏は動画で発言しておられる。

 この動画にもUp-date箇所は多々ある(というより見立てがまるで逆なのだから、ほぼ全て)。

酩酊状態なら普通は救急車を呼ぶ
 →タクシー車内で(英語も交えて?)ハイテンションで喋っていた(週刊新潮取材より)
ホテルに連れ込んで
 →「俺、先に帰っていいかな」(「喜一」聴取書より)
MAPは(性行為が)予期しないものと立証
 →そうとは限らず無分別な性行為をする女性は存在する。しかもcoitus2-3時と申告!(カルテより)
「私はなんでここに居るんでしょうか」
 →覚醒の証。入室の記憶は性行為の同意とは別だ。
朝のスタスタ動画+お疲れ様メール
 →膝がズレた人の歩き、「殺されそうになった人」の歩行ではないということ。メールもVISAを要求するもの。二人の関係性には固定した上下関係はなく正常化行動の動機がない。
性犯罪に対する(日本人の)意識の低さ
 →虚偽告訴にナイーブで性犯罪の検証に対するご当人の意識の低さ。世界の目はもっと厳しく、一方の告発を鵜呑みにはしない。
被害の告発に時間がかかること
 →『レイプ神話』というステレオタイプ。
(山口氏は)核心部分で不合理に変遷
 →控訴審は入念に準書面を交わしつつの「請求原因レベルからの見直し」だ。「不合理に変遷」は伊藤氏の方が量的にも質的にも悪質性が高い。
判決後の(山口氏の)会見では「伊藤氏は嘘ばっかり言っている」と
 →そのとおり。法廷では虚言の詳細が一つ一つ丁寧に論破されている。
(山口氏からの)具体的な反証はない
 →労をいとわず裁判所に行け。一審からこと細かに指摘しており再審中。
「ほんとうの性被害者は笑わない」は許せない
 →性被害者も笑うだろう。だが、”自身の性被害を語る時に、”こんな風に”笑うか?ほんとうの性被害者は怒っている。繰り返すが、自身の性被害を語る時に、だ。

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江川紹子さんの会見での質問
 →江川さんの事件記事は、武田砂鉄さん以上に答えが決まっており、話にならない。
ゲロ吐いた人を強姦しようと思わないという花田編集長のその横には、強姦した人が座っている
 →強姦してない人が座っている。
囲み取材で小川榮太郎氏は下着の話を公開するなと叱責された
 →下着は初期にはフォトが書証に入っていた(今は閲覧制限下)。囲みで小川さんが問うたのはカルテの内容を公表しても良いかどうか。プライバシーへの配慮からだ。それには明確に返答せず返す刀で下着を攻めたシーン。この話はとんでもない詐術だ。
 →(勝負)下着の重要性は、当日遅刻して「シャワーを浴びて来た」と言った事実にも符合する。
 → 下着がダメなら「精子の活動が~」も出版物で公開されたくない。
 → 下着の件は伊藤氏の居所と同じで、事実を述べたに留まる。誰も伊藤氏が西岡進氏の「愛人」だとは断定はしておらず、単に当時のマンションは分不相応で所有者は反社会的勢力と繋がりがあり、かつて有名女優を愛人にしたと噂された人物で、伊藤氏は賃貸契約書のコピーも提出できなかった。その事実を述べたもの。
伊藤さんは洗濯したのでどの下着だったか覚えていない
 →3枚提出だけでも愕然とする。被害時の下着がどれかわからない?!?!
 →週刊新潮の取材では「捨ててしまった」と勘違いしており、話すそばから矛盾に気が付き「あれ、捨ててなかったんだ」。
性行為への同意に関する2017年のアンケート(二人きりで飲酒、露出の多い服装・・・etc.)
 → アンケートの内容はそれはそれで問題だが、本件とは無関係。
フラワーデモ、「何を着ていても」
 → 額面上はその通り。同時に女性は何をしても、どれほど挑発しても良いということではない。
杉田発言「女としても落ち度があったのではないか」
 → 課題も読まずに”就職面接”に出向き、遅刻して開口一番「シャワーを浴びてきた」、手酌で酔っぱらい、高級寿司バーで裸足で歩き、他の客のカバンを誤って持ち帰り、ゲロ吐いて”上司になる予定の人”に掃除させ・・・。落ち度ないですか?
・中村格と北村滋
 → (前編)のとおり。

■まとめ

 こうしてあらためて読むと、武田氏の指摘内容は伊藤詩織を擁護するネット民の口吻とほとんど同じ。テンプレ化したのだろうか。動画で武田氏は、「この件については、いろんなところで書いてきた」と語っている。いろんな人がいろんな所で武田氏の弁に影響され、真似たに違いない。

 いったい何人の読者が武田砂鉄氏のインフルエンシヴな筆に説得され、意を強くして山口氏バッシングに拍車をかけたことだろう。2021年6月の今となってさえ記事をRTする者は後を絶たない。一方で、山口敬之氏は一般人を含めて「名誉棄損」の提訴に着手した。

 荻上チキ氏のリサーチによれば、この件に言及したツイートは約70万件。その数は自動的に山口氏にも当てはまる。その内約20万強が伊藤詩織さんを非難するものと言われていたが、山口氏についてはこれより遥かに多いと予測される。山口敬之氏は彼らにどのような処置をとるのだろうか。それは山口氏が決めることで第三者の私には何とも言えない。

 ただ、武田砂鉄さんが繰り返し言われた、「この件を皆が忘れてくれるのを何より待望している。ならば、繰り返し言及するしかない」--御意だ。この言葉を私としては肝に銘じたい。