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CENTRAL DOGMA『last』を元ドラマーが今更ながら全楽曲解説してみた。

 『last』をデジタルリリースして早一年。正確には昨日でちょうど一年みたいです。

 当たり前だけれど、殆どの人たちがそんなことは気にも留めることなく、そもそもそんなことを一切知る由もなく、それぞれの一年が過ぎたことでしょう。
 嬉しいこと、哀しいこと、いろいろな日々の感情に飲まれて、それぞれがそれぞれに過ごしたことでしょう。
 なんてことない一年、はたまた、激動の一年。

 とても有難いことに、僕らの身の回りの人たちは進んでか勧められてか(この際どっちでも頭が上がらないけれど)このアルバムを聴いてくださいました。
 たくさん聴いていただき、たくさんお褒めの言葉をいただいたそうです(訳あって僕はその声が直接届く場所にはいませんでした、すみません)。
 それでも、一週間一カ月と経てばすぐに忘れ去られて、それぞれがそれぞれの日常に戻るのが世の常です。
 それを哀しいことだとか、忘れないでほしいだとか、そんなワガママで理不尽なことを言いたいわけじゃなくて、だいたいそんな感じなんですよね。わかります、めちゃくちゃ同感です。
 かくいう僕もそうでして、ここ最近半年ぐらいはずっとこのアルバムを聴いていませんでした。
 このアルバムの存在も、高校生のころは日々バンド活動に明け暮れていたということすらも忘れ、ただ目の前の仕事を覚えることに必死でした。……今もそうなんですけどね。
 正直にいうと、辛いときにこのアルバムを聴いて何度も励まされただとか、のちの美談になりそうな涙ちょちょ切れハートフルストーリーなんてないんですよね、哀しいかな。
 本当に辛いときって、好きな音楽ですらうるさく感じるものです。まぢぴえんなのです。
 こんな僕が改めて音楽を語るのもおこがましい限りですが、僕にとって音楽は、肉体的/精神的健康を害してまでするものではないものだと思っています。
 だから、最近また聴くようになってきたということは、それだけ健康が戻ってきて余裕が生まれたということで、とても喜ばしいことなのです。……そんなのこじつけで、単にノスタルジィによるものなのでしょうけど。

 CENTRAL DOGMAの活動は有難いことに僕が脱退してからも続いておりますが、そもそも僕が在籍しているころも居るのか居ないのかグレーな期間が長く、それ故に『last』というアルバムに僕が参加していたことを話すと驚かれることが多いです。
 サポートのけいた、現体制のにいや君の間、実は数か月だけ僕は復活してたのです。
 やったライブも確か一本だけだったような? そのあと長い長い製作期間に入りました。
 だから、こんな無名バンドのカルトクイズみたいなもん誰が知ってんだって話ですが、一応あのアルバムでは僕がドラムを叩いています。なので、お褒めの言葉でもクレームでもなんでもかまいませんが、億が一のお問い合わせ先はこちらまでお願いいたします。

 そんなアルバム『last』……一年経ったこの節目にこそ、いま一度あの頃を思い返すため、ちょっとした楽曲解説を書いてみようと思い立ちました。
 一般的には、あまり詳細に解説するのは作品としての余白をなくしてしまうためよろしくないとされています。ですが、本作品は世界の数ある名盤と比べたら考察の対象ともされていないでしょうし(とはいえ作品に対してのプライドは人一倍あると自負していますが)、この記事を読むなんて相当アレな人だし、それよりも製作側が酒でも片手に実はね~と誰も聞いていないことをつらつら語る自己完結的な楽しさのほうが勝ってしまっているので、今こうやって深夜テンションでふと書こうと決めたのです。

 ちなみに、歌詞の解釈や意味などに関しては作詞担当のもし君に任せるとして、僕はあくまでドラマーなので製作段階やレコーディング時の裏話的なものをまとめようと思っております。どちらかといえば、解説というより回顧録に近いかな、と。

 小一時間でまとめる予定ですが、もしかしたら長くなるかもしれません。
 興味のある方だけ読んでいただければ幸いです(言われなくても興味ない人が読まないのは当たり前ですが)。



【parasite#n】

 イントロのドラムソロ、アルバムの初っ端を飾れるぐらい派手なやつにしたろと思って無理をしました。
 速い6連符の中にバスドラのダブルが入っているので、ちゃんと綺麗に叩けているのは10回に1回とかです。
 あの頃はタムなしセッティングを想定してフレーズを組み立てる、という遅めの反抗期を迎えていました。それに加えて6連の例のフレーズを多用しているので、完全にDALLJUB STEP CLUBのGOTOさんからモロに影響を受けています。捻りもなにもないので僕はダサいです。でも、フレーズはめちゃくちゃかっこいいです。

 もうこの曲はイントロで力尽きてしまうというか、あとはもうえいや~って感じです。
 でも他のパートは全然そんなことなくて、今までやってきた爽やか青春シリーズ(透明とか明白とか?)を総括するような、ある意味それまでの集大成的ナンバーです。
 後半にかけてかなりの盛り上がりをみせます。たぶんアナタが思っているよりは盛り上がります。

 もうとっくに終わってしまったのだけれど、依然として青春に未練たらたらな主人公の曲です。
 このバンドの曲ではそんな感じの主人公が多く、なにか青春にコンプレックスでもあるのか、夏に親でも殺されたのか、とお思いでしょうけれど、それはボーカルのもし君に訊いてください(※ちなみにもし君のご両親はどちらもご健在です)。
 にしても、もし君が決めたこのタイトルめちゃ良いですよね。『#n』というところが秀逸。



【見慣れた】

 確か、「見慣れた」のあとになんの単語続けようかみたいに迷ってて、その仮タイトルがそのまま正式タイトルになっちゃった感じ、でしたよね(誰に訊いているの?)。
 でも「見慣れた……なんだよ!」っていうさまぁ~ず三村風ツッコミせざるを得ないので、なかなかセンセーショナルなタイトルだなと今では思っています。

 曲調はストレートなギターロックで、僕もシンプルにずっと速いエイトビート叩いてます。
 この曲がアルバムの中で一番人気みたいです、といっても団栗の背比べみたいなものですが。確かにキャッチ―で聴きやすく、小田原はこういうリフつくるの上手いなと改めて感じさせられますね。
 僕はもうちょっと変なことしたかったのですが、手数で攻めるフィルをプリプロで試したところ技術的に叩けなかったので、クゲさん(行きつけのスタジオの店長)に「叩けないならやめといたほうがいいよ」と言われたので辞めました、バンドを。(嘘です)

 こんな感じの激しくてストレートな曲、実は昔にもやってたんですよね。
 確か、ソトみたいな名前の……すみません、いまちょっと横浜DeNAベイスターズの外国人選手しか頭に浮かんでこないんですけど、メンバーに言ってもたぶん誰も思い出せないと思うので、そのソトみたいな名前の曲をアップデートしたのがこの曲のイメージです。
 だから、安心してソトのことは忘れてください。



【iminaze】

 iminaze……イミネーズ……いみねーぜ……意味ねえぜ……
 特に意味のないことに意味を見出していく曲、って感じでしょうか。

 2番頭のCメロ?のカンナさんのベースが8bitゲームみたいなチープさでワクワクします。
 それの裏(むしろ表?)であっちきたりこっちきたりと喧しいステレオノイズが聴こえますが、あれは僕がもしのエフェクタのツマミいじって演奏してます。
 発案したのは確か、たりおさんだったと思います。音源に合わせて適当にツマミいじってたら割と展開に合ったしっくりくるテイクが録れちゃって、今でもとても気に入っています。
 そこがレコーディングの中で、ピークぐらいに楽しかった思い出かもしれない。

 この曲は特に展開が特殊ですね。一曲全体でクレッシェンドな感じ。
 最後にはサビの先に大サビがあり、それを思いつくのにもし君が苦労してた記憶があるなあ……お疲れさまです。
 断片的なものが組み合わさった感じなので、結果的にいろいろな展開がある曲になりました。いつもなら断片的なものは断片的なものとして形にならず葬り去られることが多いのですが、これはなんとしても完成させなきゃという全員の熱量が感じられました。

 ドラムは相変わらず馬鹿なので、1番の終わりから2番サビ前までずっと16分で刻まなくてはならず、そもそものBPMがめちゃくちゃ速いので、変に力とか入れると腕が死にます。
 ライブとかだともっと速くなるだろうから、お猿が太鼓叩くおもちゃみたいにどんどんヒートアップしてくの想像したら恐いですね。めっちゃ他人事。



【ドラマの外へ】

 僕がこのアルバムの中で一番気に入っている曲です、他のメンバーも恐らくそうじゃないでしょうかね。
 今までで一番なかったテイストの曲です。
  もし君がこの曲のデモを持ってきたとき「あー、もしも大人になったなあ」とめちゃくちゃ偉そうな感想を抱きました。
 いままでもそうだったのですが、この曲は特に抜きん出て“もし君の弾き語りデモで曲が完結してしまっている感”が強かったため、小田原が吐きそうになるぐらい悩んでて、悩みすぎて鬱になるんじゃないかと思いながら静観していました。

 この曲だけではないのですが、<最後>というフレーズが頻繁に登場しているので、『last』というアルバムタイトルになりました(『last』には<続く>という意味もあるので、後づけだけど「ええやん」となりました)。
 僕らのバンドはタイトルが一番最後に決まることが多いので、他の曲のタイトルでもその法則で決まっているものがあったりします、探してみると面白いですね。
 我らながらAIみたいなタイトルの決め方だなと感じます。

 あ、でもこの曲のタイトルは早速その法則には当てはまりませんね。
 これももし君が候補を持ってきて、一同「ええやん」となったやつです。

 この曲はシンプルなので、ドラムの音の良さが際立ってとても気持ちいいです。
 イントロは僕だけが音を鳴らしているので、よくわかります。
 メトロノームに引っ張られてるので相変わらず覚束ないドラムですが、音は最高なので音にだけ集中して聴いてみてください。
 たりおさんの企業秘密なのであまり多くは言えませんが、すごい機材とすごい技を使っていました。
 
 あと、思い出といえば、ノイズ楽しかったpart.2。
 アウトロの爆音ノイズで再び僕のノイズミュージシャンとしての一面が垣間見えます。
 
 アウトロといえば、もともとは特に展開もないのにめちゃくちゃに長くて、全部足すと7分半ぐらいの曲でした。
 でも、たりおさんがマスタリングしてくださった初回の音源を聴いたところアウトロをバッサリと切られて5分くらいになっていたので、ああ確かにこれが正解ですね、となりました。
 ノイズが楽しかったばかりに、何か大切なものを見失っていました。



【ドッペルゲンガー】

 本作で唯一、アルバム発表前にライブで披露していた曲ですね。
 なので製作は「この曲が入るアルバム」という構想で始まりました。
 構想といっても大層なものではありませんが、アルバムとしての統一感がないのは狙ってやっていたようなもので、この曲が発端となってまとまっているのには違いありませんでした。

 スクールズアウトの決勝にて、審査員の方からいただいた評価の中に「曲にもうちょっと展開があるといいかな」と言われたのをとても根に持っており(もしかしたら僕だけ?)、いざ新曲を作るぞともしがドッペルゲンガーのデモを持ってきてくれたときに、「2番はBPMが2倍になったような展開にしよう」と提案しました。
 現代邦楽シーンでは充分ありきたりでありふれた展開ではありましたが、それでも今までの僕らでは使ったことのない手法で、ワクワクしたのを覚えています。
 それをきっかけに、大袈裟なフルモデルチェンジは行いませんでしたが「いままでやってこなかったことをちょっとずつやってみよう」という精神でこのアルバムが出来上がっていきました。ライブでやったことがない曲が多く収録されているのも、そのためです。

 youtubeにUpしたティザー映像の概要欄には以下のように書かれています。


 バンドとして初となる、5曲入りEP.作品。うち4曲はライブでも未発表の完全新曲であり、様々な展開が楽しい一枚に仕上がっている。 

 なんか「展開が楽しい」って幼児用知育玩具みたいなキャッチコピーですが、まさしく僕らが一番重点を置いて作ったのはそこでした。だからとにかく楽しくて、製作段階からレコーディングまで常にワクワクしていました。

 これをキッカケにこのバンドの何かが確実に変わった、転換点の曲であります。
 アルバムを通して聴くと、(時系列的に一番古いからか)とても落ち着いた印象を受けるのですが、これがエンドロールっぽくていいなあと感じる今日この頃です。


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 曲に沿っての解説は以上となりますが、まだまだ書こうと思えば無限に書けます。

 例えば、レコーディングって大体2テイクぐらい録るんですけど、カンナさんのベースを録ったテイクが1回目と2回目で波形までピッタリ揃っててたりおさんがめちゃくちゃビビってた話とか、面白い話は言っていないだけで思い出そうとすれば限りなくあるのです。
 ですが、小一時間といっていたものが朝になってしまったため、このあたりで切り上げようと思います。

 多くの人が知る由もないアルバムでも、製作側にはこれだけの思い出が詰まっており、また膨大な時間が注ぎ込まれています。
 サブスクリプションで次から次へといろいろな音楽が聴けるようになりましたが、今何気なく片手間に聴き流した音楽にも無数のドラマが込められているということを頭の片隅に置いておきながら音楽を聴くと、とても豊かな気持ちになります。
 
 このアルバムでなくてもいいので……いや、出来ればこのアルバムがいいなあ。
 僕はサブスクの仕組みを詳しくは知りませんが、聴いていただくことで彼らに数円でも届くと思うので、是非ともよろしくお願いいたします。

 以上、長文失礼いたしました。寝ます。

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