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「外資系企業日本法人の経営」を自身の専門分野にすることに決めた話。

こんにちは!伊藤です。現在、口腔ケア領域でサービスを提供するグローバル企業Zenyumの日本法人、Zenyum Japanの代表取締役社長を務めています。詳細なプロフィールは以下に記載しておりますので、良ければご覧ください!

突然ですが、みなさんには自信を持って「これが専門分野だ!!」と言えるものはありますか?ぼくはこれがないなーーー、とずっと悩んでいました。

自分には専門分野が作れないのでは、という不安

「デジタルマーケの専門家です」「知財に特化している弁護士です」「ファクトリーオートメーション一筋20年です」「矯正のことならなんでも分かる歯科医です」「中小企業の方々をメインでサポートしている公認会計士です」という方々とお話すると、「すごいなー、かっこいいなー」と思うと同時に、「あれ、自分はいったい何ができるのだろう」という、チクッとする劣等感を刺激されていたのです。

コンサルティングや経営戦略/実行、企業経営という文脈でキャリアを積んできていますし、プロとしての矜持を持って仕事をしては来ましたが、「じゃああなたは何の専門家なんですか?」と正面切って問われると、モゴモゴしてしまいがちでした。

今までも漠然と「なにかの専門分野が欲しいな」と思ったことはあります。そのたびに資格を取ったり、その業界におけるコンサルティングプロジェクトに志願したり、今後伸びそうな業界に思い切って飛び込んでみたりしました。ただ、そのたびに「なんかちがうんだよな」と思ってしまっていました。

あるとき、ひとつ仮説が浮かびました。それは、「"特定の業界もしくは職能を専門分野にする"というのは、自分には不可能なのではないか」というものです。

ぼくが仕事をしていて喜びを感じるのは、「社会に貢献するプロダクトやサービスを世に届け、結果として事業が成長したとき」です。マーケだけがうまくいく、セールスだけが上手くいく、バックオフィスがしっかりと回る、世のニーズにビシッとはまったプロダクトやソリューションをつくる、それはもちろんうれしいですが、単一の領域でそれがとどまってしまうと、どうしても不完全燃焼感がでてきてしまうのです。

それをなんとなくわかっていたからこそ、大規模プロジェクトが多かったアクセンチュアから、より小規模で手触り感を持ってコンサルティングができるフロストに移り、さらにアドバイザーではなく当事者として事業を推進できるOYOに移り、さらにさらにゼロからのビジネス立ち上げ&拡大を主導できるZenyumに移った、ということかな、と自分では思っています。

「経営」 x 「外資」を掛け合わせてみる

とすると、自分の専門分野は「経営」なのだろうか?

この質問に対しても、ぼくは自信を持ってYesと答えられませんでした。なぜなら、あまりにも「経営」というワードは広すぎるからです。

東証一部上場の日系企業の60代社長も経営者ですし、大学在学時にWebサービス企業を起業して現在24歳の社長も経営者です。明治時代から続く老舗のお菓子メーカーの4代目社長も経営者ですし、マーケターとして独立して仲間と一緒にマーケティングファームを運営している人も経営者です。パーソナリティも違えば、必要となるスキル、今までのキャリアも何もかもが違いますよね。「経営が専門分野です」というのは、あまりにもほわっと広すぎて、第三者から見るとなんなのかよくわからなすぎるのです!

「特定の業界や職能の専門家でもなく、かといって"経営"という自分が魅力を感じている領域を専門にしようとすると広すぎる…どうしよう。」

これが、ぼくが抱えていたぼんやりした不安の正体だったように思います。ただ、ここでまた少し自分の経歴やスキルを考えてみると、経営に加えて「外資」「海外」というワードがあることに気が付きました。

もともとぼくは海外に興味があったわけではありません。父親が航空会社勤務だったため、ラッキーなことに子どものころから海外旅行には行っていましたが、「できれば日本にいたかったなあ」と思っていたような覚えがあります。笑

高校時代には、アメリカに1ヶ月強留学するプログラムもあったのですが、「卓球の大会があるから」という理由で行くのを取りやめたこともあります。「絶対いい経験になるから行きな!」とかなり強く両親から勧められたのですが、それでも断りました。もちろん卓球の大会があるというのは嘘ではなかったですが、「1ヶ月も海外に行く」というのが怖い&面倒だった、というのが真の理由だったように思います。

大学でも友達に誘われて留学生とゴリゴリに英語でコミュニケーションする授業にも一度だけ出ましたが、英語がわからなすぎてずっと冷や汗をかきどおしでした。そこで懲りてそれ以降は出席しませんでした。

そんな感じで「海外」「英語」から逃げ続けてきた人生だったのですが、アクセンチュアに入社して3年目のとき、唐突に「シンガポール行ける?」という話をいただきました。今まで英語から逃げ続けていたのに、いきなりガチで向き合わなければならない状況になったのです。

最初のころは会議に出ても何もわからず、議事録もまともにかけず、大学の授業の数十倍の冷や汗をかきながら仕事をしていました。しかし、諦めずに食らいついているとなんとかかんとかついていけるようになり、後半はとても楽しく仕事ができました。シンガポールだけでなく、フィリピン、タイ、イギリスなどに行かせていただき、とても貴重な経験&海外の友人がたくさんできました。

ここで「英語で仕事をするって楽しいな!」と思えたことが、自分のキャリアの転機だったように思います。アクセンチュアを転職し、フロスト&サリバンで働いていたときも、海外のコンサルタントと協働する仕事が8割以上でした。日本オフィスにも、英語でのコミュニケーションオンリーのコンサルタントやインターン生もいて、日常的に英語を使うことができました。

OYOでもインド人中心に海外メンバーと関わることは多かったですし、そのころにIELTSやGREでアカデミックな英語を苦心して身に着けることもできました。

もちろん帰国子女の方々とは超えられない壁があるとは思いますが、「英語で仕事をすることができる」というのは、自身の強みと言っていいのではないかなと思っています。もともと英語は苦手だったからこそ、英語力のみならず、「どうすれば伝わりやすいか」「どんなデータをもとに話せば、国籍が違っても納得してもらえるのか」という点を常に突き詰めて考えるクセもでき、それが今の仕事にも大きく繋がっています。

長くなりましたが、広い視点で事業戦略を練り、実行し、社会に意味のある貢献をしつつ利益を上げていく経営という領域、およびひょんなことから磨き続ける機会を頂いた「英語」および「外資」という領域。この二つを掛け合わせたところにある「経営」x「外資」というのが、いい感じに絞れている自分の専門領域なのではないか?というのが今のところの結論です。

需要は十分にあるか&供給が多すぎないか?

そもそも、なぜ自分は専門分野を作りたかったのか?というところに立ち戻ってみます。正直な答えは、「長期的にごはんが食べられるのか」になります。おそらく、ぼくと同じように専門分野を探して彷徨っている方々も、基本的には同じ回答になるのではないかと思います。

「自分の腕と才覚で新たに事業を起こし、ガンガン稼いでやる!!」となった場合は、専門分野がどうとか考える必要もなく、どんどんやっていけばいいと思いますが、そんな人は一握りです。多くの人は、誰かに自分の価値を認めてもらい、それを購入してもらう必要があります。

若いうちはお給料もそんなに高くないですし、「若くて元気で素直」というだけでかなりの価値があります。しかし、30を超え、40を超え・・・となってくるにつれて、それだけでは頭打ちになります。「自分の専門はこれです」「これならだれにも負けません」と明確に言えるものがあって初めて、高値で買っていただけるようになるわけです。

ただ、それだけでは足りません。いくら専門分野を決め、それを深く掘っていったとしても、誰もそれを求めていなければ買っていただくことはできません。需要がなければモノに値段はつかないのです。もしくは、その専門性を有する人が多すぎる場合もいまひとつです。「別にこの人じゃなくても他にもたくさんいるしな」となると、どうしても価値が下がってしまいます。

この需要と供給の視点は、ビジネスではもちろん大事ですし、ビジネスパーソンとしての生き方を考える上でも非常に重要です。こんなことをぐちゃぐちゃ考えず、とりあえず好きにやるんだ!!というのも一つの価値観で尊重されるべきですが、それだとやはり将来に対する漠然とした不安はぬぐえないのではないように思います。

では、「外資系企業の日本法人経営」という専門分野において、需要(外資系企業日本法人経営者のポスト)と供給(外資系企業日本法人経営者になりたい&なれる人の数)はどのようになっているのでしょうか。

外資系企業の日本法人経営者の需要 = ポストの数

まずは需要側について考えてみます。

ググってみたところ、こんな記事がありました。

経済産業省が公表した「外資系企業動向調査」によると、日本の外資系企業の2019年3月末の集計企業数は3287社で、前年度比0.6%増となったことが明らかとなった。母国籍別にみると、欧州系企業は43.2%(前年度比0.1%増)、アジア系企業は27.4%(前年度同)、米国系企業は23. 1%(前年度同)となり、ここ数年構成比には大きな変化はない。

(中略)

日本で事業展開する上でのビジネス環境の魅力は、前年調査に引き続き「所得水準が高く、製品・サービスの顧客ボリュームが大きい」が最多で62.4%に上った。 次いで「インフラ(交通、エネルギー、情報通信等)が充実している」(46.7%)、「製品・サービスの付加価値や流行に敏感であり、新製品・新サービスに対する競争力が検証できる」(46.0%)が続いた。

日本で事業展開する上での阻害要因は、「ビジネスコストの高さ」が例年通り最多の回答(71.9%)を得ているものの、回答割合は年々減少傾向にある。一方、次点となった「人材確保の難しさ」の回答割合(57.6%)が、年々増加傾向にある。

若干古いデータではありますが、日本には外資系企業が約3,300社程度あるとのこと。つまり、3,300人の「外資系企業の日本法人経営者」がいると想定できます。

さらにこんな記事もありました。

米国の内部昇進CEOの平均就任年齢は46.8歳と若い一方、日本の大企業のCEO就任年齢は57.5歳であり、米国に比べて就任時期は10年以上遅い。在任期間は(現時点で)米国平均の13.4年に対し、日本の平均は5.1年と米国の半分以下である。CEOのキャリアイメージを比較すると、米国は45歳程度でCEOになって60歳まで(うまくいけば)務めるが、日本は米国CEOがおよそ引退する年齢でCEOに就任し5年程度で交代していることになる。

外資系企業の日本法人に限っていないのでデータとしては片手落ちですが、日本においてのCEO在任期間は約5年とのことです。外資系企業の日本法人においても妥当なところな気がします。先ほどのデータと掛け合わせて考えてみると、3,300社 x 1/5 = 660名の外資系企業の日本法人経営者需要が生まれていることになります。

この数字、どう捉えるかは人それぞれですが、思ったよりも多いな!!というのが個人的感想です。また、先の記事でも「"人材確保の難しさ"の回答割合(57.6%)が、年々増加傾向にある。」と語られていたように、需要が高い割にそこまで供給がないのかも?という仮説が立てられます。

では、次に供給側について考えてみます。

外資系企業の日本法人経営者の供給 = なりたい&なれる人の数

外資系企業の日本法人経営者になりたい!!と強く思っていて、かつ英語力や事業運営経験などを有している人の生息地はどんなところだろう?と考えると、総合商社、コンサルティングファーム、外資ITサービスあたりかなあと思います。

総合商社の従業員数は、以下記事よりざっくり30,000名。

コンサルティングファームは以下記事 + 戦略ファームでざっくり35,000名ぐらいでしょうか。しかしアクセンチュアは本当に巨大ですね。。

外資ITサービスでも複数社見てみます。Googleは約1,300名、Amazonは約7,000名、Microsoftは約3,000名、Salesforceは1,500名で、合わせて約13,000名ぐらいですね。Netflixも入れようかと思ったのですが、従業員数120名とめちゃくちゃ小さかったのであえていれませんでした。

総合商社30,000名 + コンサルティングファーム35,000名 + 外資ITサービス13,000名 ≒ 80,000名が総在籍者になりそうです。

この中で、外資系企業の日本法人が求めそうな年齢レンジである35-50歳が何人ぐらいいるか。均等分布しているという雑な仮定を置いて考えると、80,000名 x 15(50歳-35歳) / 40(65歳-25歳) = 30,000名です。

商社の勤続年数が約20年、コンサルティングファーム/外資ITが3.5年と仮定すると、このカテゴリの平均勤続年数は、加重平均を取って、
(20年 x 30,000 / 80,000) + (3.5年 x 50,000 / 80,000) = 約10年となります。

そうすると、このカテゴリからの毎年の退職者は30,000名 / 10年 = 3,000名となります。

この中で、「外資系企業の日本法人経営者になりたい!」と思っており、かつ英語力や過去にPL責任や事業部長的なポジションなどの要件を充足する、という人がどのぐらいいるでしょうか。

商社やコンサル、外資ITを35-50歳ぐらいで辞める人の場合、「外資系企業の日本法人経営者になれるチャンス」は魅力的に映りそうです。30%ぐらいはいそう?

その中で英語力&事業責任を負ったことがある人がさらに30%ぐらいとすると、掛け合わせて大体10%ぐらいでしょうか。

そうすると、供給は3,000名 x 10% = 300名となります。

以上考え合わせると、毎年660名の需要があるにもかかわらず、実際の供給は300名と、供給不足である、と言えます。つまり、専門分野として突き詰めていく価値がある領域である、と思っています。(計算がおかしい、前提が全然違う、などあればぜひご指摘ください…!!!)

外資系企業日本法人の経営に必要なもの

次に考えておきたいのは、実際にそのポジションに就いたときに、社会に資する事業とするためにどのような要素が必要なのか?というポイントです。ぼく自身、本体の経営陣に「なぜ自分を採用してくれたのか?」と訊いたことがありますが、答えは「Structured thinking & Hands-on skill」とのことでした。

もともとぼくは「ロジカルに考える」「構造的に考える」というスキルがかなり弱いほうで、コンサルタントになりたてのころはそれはそれは苦労しました。とはいえ、約8年ほどコンサルタントとして仕事をしていれば後天的にはそれらのスキルをある程度つけることはできます。それがStrucutured thinking(構造的思考)がある、という評価につながったのかもしれません。

また、ぼくはアドバイスをするだけではなく、実際に事業をゴリゴリ伸ばしていく、顕在化している問題を自ら解決する、ということに喜びを覚えるタイプです。特にフロストに入ってからは、プロジェクトワークもそうですが、フロストジャパン社内の改善や仕組みづくりもやらせていただく機会に恵まれ、ハンズオンの楽しさと難しさを学ぶことができました。コンサルティングファームを去ってOYOに行ってからは、それこそハンズオンでの仕事の機会がいたるところにありました。オペレーション改善、営業企画および大型案件のプロマネ、システム導入やマーケティングを通じた各種KPIの改善などなど…。これらがHands-on skillにつながっていたのだと思います。

これらに加えて、まだまだ必要なものはたくさんありそうです。

まず、「外資系企業の日本法人経営」という文脈で語ると、やはりローカリゼーションおよび営業は避けて通れません。

スタートアップのゼロイチ立ち上げとは違い、海外である程度プロダクトやサービスは作り込まれてはいます。ただ、それが完璧に日本の規制や法律、商慣習にフィットしているわけではないですし、すべてのドキュメントやシステム、マニュアルも英語です。これらを日本の市場に合わせてうまくローカライズしていく、ローカライズのスキルは確実に必要です。

また、日本は経済規模が大きく、かなりの売上を期待されているケースが多いです。そのため、強い営業組織を作り、チームをモチベートし、きちんとKPI管理をし、毎月毎週毎日改善できる、セールスリーダーとしての素養も必要になります。もちろん別途セールス責任者を雇うこともよくあると思いますが、最終的には自身で道を切り拓いていく覚悟が必要になる気がします。

別の観点で必須のスキルとして「英語での説明力」があります。

日本法人内ではそこまで英語でのコミュニケーションは発生しませんが、海外本社のキーパーソンとのコミュニケーションはもちろんすべて英語になります。その際に、「単に英語が喋れる」ではなく、「現状を見える化し、問題意識を共有し、打ち手を提示し、気持ちよく合意してもらう」という一連のマネジメントコミュニケーションができないと、早晩かなりキツい立場に追い込まれると思います。

数字がいつでも右肩上がりに上がっていれば、ある程度説明が雑だったりふわっとしていても許されるケースはあるかもしれません。しかし、現実はどこかで赤字を掘って長期的な成長に賭ける必要があったり、なかなか成長サイクルが動かず数字が上がらない、というケースがあります。その際に、「現状は定量/定性でどう示せるのか?」「なぜそうなっているのか?」「どのように解決するのか?」を明瞭に語ることができなければ、経営者として不適格と見做される可能性が高まってしまいます。

コンサルタントとして働いた経験はもちろん活きますし、おそらくMBAは実はこのスキルを伸ばすのにいいのでは?と思っています。多種多様な人たちとケースをもとに議論し、合意を取っていくプロセスがMBAの授業の大半を占めるとしたら、スキルの方向性としては似てそうです。(ぼくはMBAに行っていないのでホントのところは分かりませんが・・・)

他にもファイナンスやアカウンティング、リーガル周り、チームマネジメント、マーケティングやPRなどなど、必要なスキルはたくさんありそうです。これらを経営者ひとりで突き詰めるのはほぼ不可能ではあるのですが、その道の専門家とキッチリ議論し、良しあしを判断できるぐらいにはならないと足をすくわれそうだなと思います。個別の必要スキルについては、またどこかでまとめてみたいなと思っています。

専門分野がないなー、と困っていたときのことを思い返しつつ、「この道で行こう」と決めた、というだけの話で8,000字に届こうかという長さになってしまいましたが、同じような悩みをお持ちの方の助けに少しでもなれていたら幸いです。

「外資系企業の日本法人経営者」は今まではあまり一般的ではないキャリアだったと思いますが、非常にエキサイティングでやりがいがあることは間違いありません。需要はあるのに供給は少ないという状況でもありますし、この道を選ばれる方が増えるといいなと思っています。同じ状況にいる人と「そういうことあるよね!!!」とごはんでも食べながらおしゃべりしたいです。笑

また、このようなキャリアを考えている方のご相談には乗れるかと思いますので、お気軽にLinkedIn等でご連絡いただければと思います!!

LinkedInはこちら→https://www.linkedin.com/in/tasuku-ito-a518a990/

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