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短編246.『レトロゲーム/他・エッセイとショートショートの抱き合わせ商法』

 かつての子供たちを悩ませた、人気ゲームとクソゲーの抱き合わせ販売。昭和という時代が許したその大らかさに倣って、今回はエッセイ二本とショートショート一本の抱き合わせセットをどうぞ!

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一本目のカセット『レトロゲームと呼ばれるようになってしまったかつての新作』

「ゲーム」という単語を聞いて思い出すソフトが誰の胸にもあるだろう。

 ドラクエⅤも風来のシレンもマリオUSAも魂斗羅もストⅡも(ストⅡはアーケードの方が思い出深い)スパロボもダビスタもドカポン321も…。うん、挙げ出せばキリがない。

 そんな心に厳しく仮に五つ挙げるとすれば、私にとっては以下のソフトがそれだ。

・ファイナルファンタジーⅥ(SFC)
・聖剣伝説2(SFC)
・フロントミッション(SFC)
・クロノトリガー(SFC)
・アークザラッド(PS)

 今これらのゲームをやったら泣く可能性がある。懐かしさと去来する形容し難き想い諸々によって。

 スーファミが全盛の時代にゲームキッズだったあの頃(それはまだスクエアとエニックスがライバル会社だった太古の話だ)。同じ町内にDORAMA(古本/中古CD/新品・中古ゲームを販売する今じゃ絶滅危惧種的店)が存在するという立地だった為、買えもしないのにパッケージを眺め裏の説明書きとゲーム内のプレイ写真で妄想を拡げる為だけに学校帰りの放課後よく通った。

 店は午前二時までオープンしており、新作ゲームは発売日当日の深夜零時に売り出すシステム。フロントミッションもクロノトリガーも発売日当日零時にゲットした。(夜中過ぎて子どもには外出不可能だった為、おじいちゃんに頼み込んで買ってきて貰った。R.I.P. おじいちゃん)

 聖剣伝説2でセーブデータが吹き飛ぶ危険を犯して、マナの剣を創り出したり。(有名なバグ利用法)

 FFⅥは私の誕生日の次の日が発売日(それは1994年4月2日だ!)。今は無き新宿サクラヤで買ってもらった。

「FFⅦがプレステで出る!」との噂が世間を騒がせたのに一向に出なかったあの時分、私はアークザラッド欲しさにプレステを買ってFFⅦに備えていた。

 今じゃレトロゲームなどと一括りにされて、郷愁とともに振り返られる名作揃いのゲーム達。全てのものがそうであるように、それらにも「新作」と呼ばれた時代があった。

 『ファミ通』や『Vジャンプ』で特集が組まれる度、待ち切れない想いで全身がはち切れそうになっていた。16メガから24メガへの進化に目を見張ったり、「24メガが大容量の限界」だと聞いていたところに登場したまさかの32メガに驚いたり。

 売り場に並ぶそれらは玩具屋や大型電気店で新品として9800円、11400円などの値札シールが誇り高く貼られていた。箱はまだ固く、シワや潰れひとつなく。

 お年玉の使い道やクリスマスに誕生日。決まってゲームソフトをねだった。子どもにとって、数あるスーファミソフトの中から「これぞ!」という一本を選ぶことは本当に命賭けの所業だったんだ。

 友達の家にカセットを持ち寄り、クリアしても尚、何度も何度でも遊び続けた。

 だからこそ、全てのゲームには子どもだったあの頃の記憶が拭い去り難き刻印のように染み付いている。

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二本目のカセット『情弱』

 一日、新聞テレビに触れないだけで今がコロナ禍であることを忘却してしまう。人間、もとい自分は単純な生物なのだなとつくづく感じる。

「テレビを消せばコロナも消える」と嘯く一派の主張もある面では真実なのかもしれない。ただそれにしたところで、ウイルス自体が消える訳ではなく、自分の中から概念が消えただけで、情弱にまた一歩近づいただけなのだろうけど。

 無人島に住んでいるのならテレビを消せば良いだけなのかもしれないが、大都会東京に暮らす身としては些か頼りない理論だ。乗って共に沈むにはあまりにも脆弱で命の賭け甲斐もない。

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三本目のカセット『今宵、酔っ払いの夜に』

 その日は赤羽の赤提灯で酔っ払っていた。目の前の焼き鳥串には満遍なくタレがかけられ、黒光りしていた。健康的に日焼けした女子高生の肌のような黒ではなく、肝臓と腎臓を同時に病んだ奴の顔色みたいな黒。

 カウンターは混み合っていた。年末のアメ横みたいに。隣り合った男が話しかけてきた。私の髪の毛が長かったせいかもしれない。

「ほら。アレ、いるだろ」焼酎がなみなみと注がれたグラスに唇を寄せていく。「狼のお面?被ったバンド」嫌がるキャバ嬢に無理矢理キスをしようとするみたいに。
「聴いたことはないけど、なんとなく絵は浮かびます」
「オレ、あのうちの一人なんだよ」
「なんてバンドでしたっけ?」
「それはちょっと分からないけど」
「いや、わからねぇのかよ」

 口の端から落ちた煙草はTシャツを焦がしていた。赤羽の夜はまぁそんな感じだ。



#レトロゲーム #抱き合わせ #ファミ通 #Vジャンプ #DORAMA #情弱 #酒 #赤羽

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