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悲喜劇と白黒映画、見せない面 往復書簡#22

画家・小河泰帆さんとの往復書簡22回目です。
前回は好きな映画のお話で、デビット・リンチへの愛が溢れる記事をありがとうございました。

私、デビット・リンチが絵を描いてるのを知ったの、つい10年位前なんですよ。渋谷ヒカリエがオープンしたての頃、8/でリトグラフを見ました。それまで彼のことを映画監督だと思っていたので、作品がとてもよくて驚いたのですが、同時に納得したのを覚えています。
デビット・リンチの映画って、数本観ただけの自分の感想ですが、不気味で猟奇的で意味は全然わからないのに絵面が強いからついつい引き込まれちゃうんですよね。そうか画家でもあったのか、だから絵面だけでもあの強度なのかと合点がいった感じでした。

私が好きな映画、たくさんあります。特に悲喜劇が好きですね。
コーエン兄弟の「ファーゴ」、ウディ・アレンの「ハンナとその姉妹」はかなり好きです。どちらもすごく突き放した目線で描かれていて、辛いんだか可笑しいんだか悲しいんだか馬鹿馬鹿しいんだかわかんない複雑な感情がわいてくる、登場人物の誰にも共感はしないまま終わる作品だと思うのですけど、面白いです。
あとチャーリー・カウフマンの脚本も好きで、監督も兼ねた「脳内ニューヨーク」は更に哲学的な風情が加わった作品なのですが、見返すたびに印象がかわる不思議な1本です。初見のときは恋愛映画の気がしたのに、2度目みたら全然そうではなく、なんだこの映画は?とびっくりしました。こういう、いかようにも解釈できる曖昧さや、複雑な感情を好む傾向は、自分の描く絵画作品にもそのまま反映されているなと感じます。

あと白黒映画も好きなんですけど、職場の図書館に、淀川長治セレクト名作映画ベスト100の類の視聴覚資料が揃っていたので、片っ端から借りて見たんですよ。喜劇王はチャップリンよりもキートンの方がアナーキーで好みです。グレタ・ガルボとマレーネ・ディートリッヒなら、ガルボの方が造形的に美しいと思うのですが、粋なのはディートリッヒですかね。

伝説のハリウッド女優、ガルボ(左)、ディートリッヒ(右)

白黒映画の女優さんって、美しさに迫力があります。特にこの二人の全盛期の映画はカメラワークも不自然なほどに顔面アップが多くて、映画の成功はそこにかかっているかのような感じ。「上海特急」という映画に、ディートリッヒが上海リリーという役で出てるのですが、ものすごく綺麗で神々しいカットが多々あって、美の規範が自分の脳に刻まれたような気がしました。とてもかっこいいです。
日本映画も負けてなくて、「東京物語」の原節子とかすごいですよね。終盤に「ほんと嫌なことばっかり」と言いながら原節子扮する紀子が美しく微笑むシーンがあるのですけど、怖いくらいですよ。ひれ伏しちゃう。いま思い返すと大量にみた白黒映画は本当に、かっこよさの勉強になったなと感じます。

さてさて、ご質問はこちらでした。

タシロさんはもし絵画でなかったら、何を表現手段にしていたと思いますか?それと、タシロさんは平面絵画だけではなく、立体の表現欲求もあるのでは?と思うのですが、今後そういう展開もアリそう??なんて見てて思うのですが、いかがでしょうか?

往復書簡#21より

触覚に興味があるので、立体作品への表現欲求はありますね。金属、木材、布、石膏粘土など異素材を組み合わせて、その感触を手にひらに感じながら変なものを生み出すの、とても楽しそうです。ただ、作品としてちゃんと成立させるために、自分と世界の関わりというテーマをふまえると、いまのところは正面性って結構大事な要素なので、レリーフみたいな感じに落ち着きそうな気がします。

壁面にかけて展示する作品は、正面と側面は見えるけど、背面はみえないですよね。作品をひとつの存在として意識した時に、他者に対して整えられた正面があり、正面を支えるための試行錯誤が側面にあり、他者には見せない背面があるっていう構造が面白いと思ってるのですよ。大きくて重い立体作品の場合は台座に固定してあるから、接地面は見えないですけど、でも正面と側面の違いに関しては厳密ではなさそうです。小さくて軽い立体作品の場合は、手にとってどの方向からでも見れるので、あきらかに構造が違いますね。自分のいまの感覚だと、他者に対して開かれすぎてるというか、全部みせちゃって大丈夫?って落ち着かなくなりますよ。
まあ、数年後にはまた違うこと言ってるかもしれないですけどね〜。

以前、中古のキャビネットを支持体に絵を描いたことがありますが、引き出しという通常は隠れている面があったからしっくりきた感じです。

《だれかの記憶#01》アクリル、樹脂、鉛筆、砂、キャビネット/36×38×47cm/2020年

ところで小河さんは、染色はやられたことあるのですか。
以前、作品制作動画を拝見したときに、水をしゃばしゃばにして垂らし込んだり何層にも薄く色を重ねて画面をつくっていたので、塗るっていうより染め上げている感じがしたんですよね。お裁縫も得意そうなので、そういう経験があるのかなと思いました。

あと、先日カラーフィールド展に行かれたってツイートされてたので、これ含め最近いった展覧会の感想を簡単でいいので、ぜひ聞かせてくださいませ。