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舞台芸術を鑑賞すること 往復書簡#20

画家・小河泰帆さんとの往復書簡20回目です。
前回のお話は絵画作品以外の、影響を受けたり参考にしているもののお話でした。

やはり小河さんにとっては演劇が柱なのですね。「才能というのは、夢を見続ける力のこと」、いいセリフですね。

私、第三舞台はみたことないのです。劇団☆新感線と演劇集団キャラメルボックス、大人計画、ナイロン100℃はそれぞれ1.2回だけ見たことあって、なんとなく雰囲気がわかる程度には知っています。劇団の歴史にまったく詳しくないのですが、世代がちょっと後ろにずれてる感じなのかな。

公演を見た上で脚本も読んだことがあるのって、私は大人計画だけなのですが、印象が違くて驚いた記憶があります。作品の鑑賞体験として、まったくの別物なのだなと思いました。

これは松尾スズキさんの混沌とした世界観のせいで特にそう感じたのだと思いますが、かなりエグいというか人の神経を逆なでするようなセリフが多いので、活字で読むと一つ一つの言葉にいちいちダメージ受けるのですよ。
でも舞台だと、鑑賞者の理解のスピードなんかお構いなしにどんどん展開していくし、間のとり方がユーモラスだったり、コミカルな動きを伴っていたり、言い方が可愛らしかったりすると、笑いながら見れちゃうんですよね。なんか酷いこと言ってるっぽいけど、まあスルーしとこうか、みたいな。

特に小劇場だと役者からの圧がすごいうえ客席も狭くて一体感あるから、言葉そのものより、声の大きさとか、生身の人間の存在の強さのようなものに持っていかれちゃいますね。

演劇を鑑賞するって、全身で生の情報を浴びる体験なんだなとつくづく思いました。なんというか、小説や映画と比べると刺激が強いですよね。演劇にはまる人ってタフだなと思います、中毒性もとても高そう。

タシロさんは「はまったもの」ってありますか?本でも映画でも、生活の中の何でも。これが面白かった!はまった!というものがあったら教えてください。

往復書簡#19より

「はまったもの」、いわゆる劇団とはちょっと違うかなと思って、先の例には挙げなかったのですが、パントマイムの二人組、が〜まるちょばのサイレントコメディーに大はまりした時期があります。
パントマイムなので無言劇で、舞台セットは皆無、あるのはわずかな効果音と音楽と照明と小道具のみ、それで1時間位のちゃんとストーリーのある演目をやるんですよ。
これ、演者が大変なのはもちろんなのですが、見る方もかなりの集中力と想像力を要して、ものすごく消耗するのです。でもすごく楽しくて面白くて気持ちいいんですよね。

2009年JAPAN TOURの演目は『街の灯』で、チャップリンの無声映画をベースにした作品でした。盲目のお花売りと青年の恋物語です。
例えば二人のデートシーンだと、ちょっとした目線の動き、波を追うようなリズムの動きを二人が同時にしたら、観客は海辺を脳内補完するんですよ。微笑みをうかべて手を取り合えば、愛が生まれたのはわかるけど、具体的にどんな言葉がかわされたのかはわからないから多分こんな感じだろうなと脳内補完します。膨大な余白を鑑賞者がひたすら埋めていく作業をするのです。もはや作り手側にたたされていると思いますよ。私は余白を妄想で埋めるのが好きなので、こういう作品は大好物です。

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JAPAN TOUR 2016のDVD 『街の灯』の再演でした


長くなったのでこのへんでやめよう。
本や映画の話に全然たどり着かなかったですけど、はまったもの、たくさんありますよ。

私が本好きなのはもと司書ですので想像つくと思いますが、実は映画もかなり好きで、リンチもタランティーノもタルコフスキーもみてます。「パンズ・ラビリンス」は不気味でかっこいいですよね。

小河さんの好きな映画のお話、詳しく聞きたいです。
リンチ作品の魅力など中心に、ぜひ。
私がみたのは「イレイザーヘッド」「エレファント・マン」「インランド・エンパイア」ですね。あとドキュメンタリーの「デヴィッド・リンチ:アートライフ」、リンチがアトリエでドローイング描いてるシーンがあって、そのドローイングがとても良くって見とれた覚えがあります。