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2位じゃダメなんでしょうか?RESASなどによるゆるキャラの効果の分析等について

「2位じゃダメなんでしょうか?」

2018年11月17日および18日に大阪府東大阪市で開催される「ゆるキャラグランプリ2018」に参加する三重県四日市市のマスコットキャラクター「こにゅうどうくん」が話題となっている。話題となっている理由は、同市の職員らが組織票を投票したことがわかったためだ。ゆるキャラグランプリでは、これまでに熊本県のくまモン(2011年)や栃木県佐野市のさのまる(2013年)などがグランプリを獲得している。それでは、ゆるキャラグランプリが過熱する理由は何だろうか。

たとえば、日本銀行熊本支店は2013年12月26日に『くまモンの経済効果』というレポートを公表している。同レポートでは、くまモンが2011年11月から2013年10月にもたらした経済波及効果を1,244億円と試算している。また、くまモンがテレビや新聞に取り上げられたことによる広告効果(以下、パブリシティ効果)は90億円以上と見積もられている。ゆるキャラグランプリが過熱する理由として、このような大きな経済波及効果が期待されることも考えられる。そのため、多くの地方自治体はゆるキャラを制作し、似たようなキャラクターが乱立し、ゆるキャラは現在レッドオーシャン市場となっている。そして、当記事で話題になっている組織票などの問題も生じている。

このような問題がある中、私はゆるキャラグランプリ2016で優勝した高知県須崎市のマスコットキャラクター「しんじょう君」などについて調べてみた。ゆるキャラグランプリ2016は2016年11月6日に結果が発表された。そして私は、Googleトレンドで「高知県須崎市」および「しんじょう君」の単語を、結果発表の前後で調べてみた。まず、2014年11月から2015年10月(①)、2015年11月から2016年10月(②)、2016年11月から2017年10月(③)として、「高知県須崎市」のそれぞれの期間における平均値は、①48.4、②50.2、③58.9となっている。さらに、「しんじょう君」のそれぞれの期間における平均値は、①8.6、②9.9、③18.6となっている。また、Googleトレンドにおけるしんじょう君の人気は2016年11月6日にピークの100となり、それ以降の期間も以前より高い平均値を維持している(下図参照)。

© tashirokouji

さらにRESASと呼ばれる地域経済分析システムを使って、高知県須崎市の滞在人口(休日14時)について、上記と同様の期間について調べてみた。すると、ゆるキャラグランプリ2016の優勝の前後で、高知県内からの滞在人口の増加はみられないが、高知県外からの滞在人口は増加の傾向がみられる。すなわち、上記同様の①から③の期間における滞在人口の平均について、①1,053人、②1,047人、③1,261人となっている(下図参照)。そして、ゆるキャラグランプリ2016優勝の翌月には、対前年比の増加率で最高値の218.5%となり、高知県外から同市に1645人が滞在している。さらに、ゴールデンウィーク期間を含む2017年5月には、高知県外から2039人が滞在している。

© tashirokouji

上記の分析を通じてわかることは、(当投稿では統計学的に5%水準で有意であるかどうか等は置いておいて、ある程度の影響はあると仮定して書く)ゆるキャラグランプリの優勝によるパブリシティ効果等により、ゆるキャラの在籍する市町村への滞在者数等はプラスの影響が考えられる。

そして、高知県須崎市における飲食店の2012年の特化係数(*1)をみると、付加価値額が1.28、労働生産性が0.72、従業員数が1.12となっている。また、同年の同市における飲食店の売上高は15億4200万円となっている。ゆるキャラグランプリの優勝による滞在人口の増加は、飲食店の増加につながる可能性も考えられる。たとえば高知県須崎市には「橋本食堂」という鍋焼きラーメンなどが有名なお店もあるようだ。滞在人口の増加により、飲食店の売上高を増加させることも大切だろう。高知県内で同規模の人口がある土佐市や香南市、香美市と比較しても、須崎市の方が飲食店の売上高が多い。2015年における15歳から65歳人口1人当たりの商工費をみると、土佐市の20.62、香南市の34.94、香美市の26.43に対して、須崎市は19.23となっている。須崎市の飲食店は高知県内の同規模の人口がある市と比較しても、効率的に売上を増やしているとみることもできるだろう。しかし、須崎市の飲食店における労働生産性の特化係数は0.72となっており、全国と比較しても高くはない。そのため、たとえば飲食店のキャッシュレス決済を促進し、高知県外からの滞在人口の増加による効果を高めることも考えられるだろう。

マーケティングにおいてはトリプルメディアと呼ばれる「ペイドメディア」(*2)、「オウンドメディア」(*3)、「アーンドメディア」(*3)がある。全国的な知名度が高くない自治体にとっては、ゆるキャラグランプリの優勝によるパブリシティ効果や経済波及効果は大きいと考えられる。また、ゆるキャラグランプリなどのペイドメディアだけでなく、自治体はマーケティングミックスによる広報戦略を立案する必要性などもあるだろう。さらに、マーケティングの効果を、企業の売上高や自治体の税収の増加などにつなげることも大切だ。そして、自治体は子どものための予算を増やしたり、教育への投資を増やすこと等も取り組むべきだ。

地方自治法第1条の2では、地方公共団体は、住民の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものと定められている。地方自治体はゆるキャラへの投資をするだけでなく、地域の特性等を分析し、地域の課題を踏まえて、自治体ごとの未来戦略のマップを描くべきだろう。それが、国土の均衡ある発展から、自主・自立した自治体のあるべき姿ではないだろうか。

(*1)特化係数とは、ある地域の特定の産業の相対的な集積度、すなわち強みを見る指標。

(*2)ペイドメディアとは、新聞、雑誌、テレビ、ラジオやWeb広告、イベントなどのスポンサーシップなどの支払いを要するメディア。

(*3)オウンドメディアとは、自社が所有しているメディア。自社のWebサイトやブログなど。

(*4)アーンドメディアとは、ソーシャルメディアなどの消費者が起点となるメディア。口コミなど。

https://www.yomiuri.co.jp/local/mie/news/20181112-OYTNT50032.html

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