「ズッコケ熟年三人組」の感想
長いもので、ついにズッコケ三人組も50歳になった。そして、小学生編(といういい方はしてないけど)50巻、中年編全11巻がめでたく完結した。
なかなかこの最終巻に手を伸ばすことが出来なかった。GWと重なり、特別配信など色々と他に見るものがあって時間がとれなかったこともあるが、やはり一番の理由は、「読んだら終わっちゃうから」だと思う。なんせ、去年の頭に頭から読み直すと決めてから1年と五か月、彼ら三人とともに暮らしたのである。長期連載したマンガやシーズン数がやたらある海外ドラマを追ったことのある方ならわかって頂けると思う、この感覚。
そんな私の背中を押したのは、結局「緊急事態宣言が解除されるかもしれない」という情報だった。解除されたらいよいよ読まなくなるかもしれない。解除される前に読まなきゃいけない積読本がまだ数冊ある。「ハリー・ポッターと呪いの子」はもらった本だが、もらっただけにずっと積んである。
で、堂々のシリーズ完結編である今作だが、核となる事件は、中盤で起きる豪雨による災害だ。作者あとがきによれば実際に広島で起きた災害を元に描いているとのこと。災害といえば三人組はかつて阪神淡路大震災級の大災害に見舞われたことがあるが、おそらくその話をしてしまうと色々とつじつまが合わなくなるからだろう、今回はスルーされていた。
教師のハカセ、市議会議員になったハチベエ、内装業者で働く職人のモーちゃん、それぞれの立場から災害が描かれる。教え子を災害で亡くすハカセと、軽い被害で済んだ顔なじみにぜひと言われ、ビールを断れないハチベエ。お世話になった職人の奥さんの遺体を確認しなければならないモーちゃん。小学生の頃は、なにをするにおいても三人一緒だった彼らだが、家庭も持ち、50の声を聞くようになって、一緒になにかするというよりは、それぞれの立場からひとつの事件を見る、関わる、という描写が多くなった。そのため小説そのものも、大きな事件に一丸となって立ち向かうというよりも、それぞれの生活が交錯しながら進む、という描き方に変わっていったように感じる。ハチベエの息子の結婚式とモーちゃんの母の葬式が同じ巻で(つまり同じ年齢で)描かれているのもそういうことだと思われる。
あ、そうか。と、書きながら突然分かったのだけれど、だからハチベエに市議会議員という周囲の協力を乞わざるを得ない職業につかせることで、なんとか三人組、というスタンスを保ち続けさせているのか。
過去の登場人物大集合の大団円的なラストをちょっぴり期待していたが、いつも以上にさっぱりとしている印象だ。いや、飲みの席のカラオケで突然歌う気になるハカセ、という最後はちょっとびっくりしたけれど。しかし考えて見れば、50歳で彼らの人生が終わるわけではない。まだまだこれから、なのだ。このあとのことは、読者の皆様のご想像にお任せします、ということなのかもしれない。
最後、50を迎えるにあたって三人組が、「俺たち、熟年と言うより半熟だよなあ」とこぼす。ズッコケだった彼らは、さすがにズッコケることこそ少なくなったけれど、それでもまだ完熟(=ハードボイルド)には少し足りない半熟なのだ。いいじゃん半熟、最高じゃん。完熟より作るの難しいし。俺も早く50になって、三人と由美子の店でお酒を飲みたいよ。
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