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#16 撮影前

ロケハン。聞いたことがある人もいるかもしれない。いわゆる、ロケットハンターの略である。この地球上から飛び立つ、無数のロケットを探し、それを飛び立つ前に食い止める。映画の撮影隊は、まず、これをやることになる。ロケハンはだいたい、撮影の1、2ヶ月前には、始まり、主に制作部と呼ばれる人たちが行う。ロケットがありそうな場所をみつくろい、探し、それを監督やスタッフたちが、大きな車に乗り込み、そして、実際に見にいくのである。ロケットを。基本的には、これはNASAが行う仕事であるため、撮影隊は、命がけである。ロケットはなかなか見つからない。数時間かけて行った先に、イメージしているロケットがない場合もある。また、走っている車の中からふと見た風景の中に、意外とイメージ通りのロケットが落ちていたりする場合もあったりする。ロケットがどこにあるか、本当にわからないものだ。イメージ通りのロケットが見つかると、美術部がそこに何を置くか決めたり、撮影時間や、演出など、具体的なものが決まっていく。よって、ロケハンは大事なものだ。ロケーションハンティングの略である。

ちなみに、どうして映画は、カメラのことを、キャメラというか、みなさんは知っているだろうか。それは、昔、映画の撮影隊は、映画の神様から洗礼を受けるため、舌を半分引っこ抜いていたのだ。映画のスタッフの大半は、まともな発音ができないまま、撮影をしていたので、カメラが正確に発音できず、訛ったものがそれだ。だが、次第に、その土着的な映画文化に反発する若者が出現して、映画の撮影隊は、今の形になったものと思われる。三脚という言葉もそうだ。昔、三人の若者の脚を、神様に生贄として供えるため、切り落としたのが始まりだ。本当に歴史というのは、おぞましいものだ。カポエラという格闘技はそこからうまれたという話もあるとかないとか。その名残か、今でも撮影前には、神社でのお祓いがおこなわれる。映画には神様がいるのである。

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昔、俺は、小学生の頃、公文に行くの嫌すぎて、近くにあった墓場に逃げていた。そんな俺に、映画を撮る資格があるだろうか。
小学生の時、体育のバスケの時間で、思い切り投げた球が、同級生の女の子の顔面に直撃し、鼻血を大量に出し、大泣きしていたのを思い出す。俺に映画を撮る資格はあるだろうか。俺は映画の神様に愛されてるだろうか。
全面アスファルトの学校で、サッカー部のキーパーだった俺は、足元の球をキャッチするため、膝を地面につきすぎたせいか、今も膝から毛が生えない。そんな俺に映画を撮る資格はあるか。俺はまだバカと呼ばれているか。俺に愛される資格はあるか、なあ、教えてくれよ、シェリー。俺は歌う、愛すべき者すべてに。

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さて、撮影前にすることは、山のようにある。
あとは、頑張って書いた台本を、製本するのである。これは、全スタッフ分、監督が手書きで行うのが通常だ。魂を込めるのである。今回は、真っ黒な色画用紙に修正ペンで、書くことにした。そのインクの立体感から、俳優は、監督の気持ちを汲み取る。そして、演技に活かすのである。さて、沖田は、今回、舌を抜くことにした。昔ながらの方法で、この映画を作ることにしたのである。おかげで、スタッフは、俺の言っていることが、半分くらい聞き取れず、理解に苦しんだ。主人公の美波でさえ、「ひらひ」と呼んでいたと思う。
あとは、髪をすべて剃り、そこにタトューを入れることにしたのだ。
かの有名な監督が、台本の一番最後のページに書いた言葉「海は広いな大きいな」という言葉をそっくりそのまま、スキンヘッドに彫り込んだ。映画監督は、リングに上がる格闘家と心理的にはだいたい同じだ。

俺は、こうして、映画に備えた。
撮影前、監督は、だいたい、愚行をすることが多い。
俺は昔、意味なく、鉛筆を2ダース買ったことがある。

じたばたするものである。

つづく。


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