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#18の裏 地獄撮影日記

7月21日
今日からクランクイン。地獄はわりと涼しい。よかった地獄で。天国って、逆にちょっと寒そうだもんな。撮影にちょうどいい。まあ骸骨だから、そんなわかんないけど。よし、いっちょやってやりますか

7月22日
今日も朝から、撮影。

7月24日
今日は、撮影現場で意見が合わず、原さんと殴り合いの喧嘩。タイマンはる。美術のケンさんが、助けてくれる、喧嘩慣れしてるみたいだ。でも、みんな骸骨だから、喧嘩にならない。すけすけだ。結局、血の海で、みんなで笑う。

7月26日
アイフォンが壊れて、今日は撮影終了。かと思ったら、オズさんが、ドローンを用意してくれて、血の池で泳ぐ原さんを、かなり俯瞰目で撮影に成功。やっぱりオズさんは頼りになるなあ。

7月27
右手の骨のでっぱりが気になって、撮影に身が入らず。結局、撮影中止。

7月28日
骨のでっぱりのことで、スタッフから説教される。泣く。夜はカルビ丼。

8月1日
クロサワさんが、フレームの邪魔だから、あの地獄の山を切ってしまおうと、言い出している。何考えてるんだろう。原作のジョニーを、本物の馬で撮りたいと、息巻いている。もう一緒にはやってられない。

8月2日
地獄の丘で、大きなさんかくのおにぎりをほおばり、麦わら帽子にランニングを着た骸骨がなにやら、ipadに白いタッチペンで絵を描いている。ためしに話しかけてみると、なんでも生前は旅をしながら油絵を描いていたけど、最近はもっぱらこっちだそうで、イラストレーターなどのアプリを覚えてからは、仕事が早いらしい。「この、しろいペンは、なくしたら大変なんだなあ、なくすと、数万円するから、気をつけないといけないんだなあ」。やましたと名乗るその男は、映画のことを話すと、力になってくれるという。CGとして雇うことに。

8月4日
今日は私の誕生日。昼飯を食べていると、急に電気が消える。原さんと仁子役の骸骨ちゃんと、スタッフたちから、祝ってもらう。こんな誕生日、久しくなかったな。ああ、早く現世に帰りたいな。

8月5日
また原さんと殴りあう。やられる。さすが大女優。スイカ食べる。仲直り。

8月6日
撮休。今日は針地獄へ観光。名物の針クレープ食べて、タピオカ血フレーバーを飲んで、明日からの撮影に備える。よーしやるぞ。夜は、カラスの鍋。

8月8日
脚本のふじきさんが、地獄のロケ見学に。現世では、N氏が俺のふりをして、映画本編を撮影しているらしい。くそ、あいつもこっちに来たらいいのに。脚本の国では、今、ハラスメントの問題が取り上げられ、労働の改善が、課題となっているらしい。進んでるなあ。脚本の国。

8月10日
今日は、血の池、水泳大会のシーン。たくさんのエキストラが集まる。骸骨ばっか。熱中症になる骸骨もちらほら。原さんが一生懸命泳いでいる。骸骨が泳いでいるので、なんとなく笑ってしまう。なにを笑っているんだ!と、周りのスタッフから怒られる。オズさんが今日はクレーンで撮影している。よほど現世で低い位置から撮りすぎたんだろう、とても楽しそう。

8月11日
やましたさんのCG技術には目を見はるものがある。すべての骸骨に肉をつけ、人にしてしまった。もうこれなら、人間で映画を作らなくてもいいな。みんな骸骨がやればいい。そのほうがあとで自由度が高いな。よし、現世にやましたさんは連れて帰ろう。

8月15日
今日は、いよいよクランクアップ。ポケットの中で、地獄の塩分チャージがドロドロに溶けている。この数週間、地獄での撮影楽しかったな。地獄来てよかったな。あの閻魔さまにも観てもらいたいな。最後のカット、夢中で原さんたちを撮っているとき、ふと、地獄学校の屋上から、光がさす。真っ黒い地獄の雲から、一筋の光がさす。そして、天から声がした。
「沖田よ、現世で映画が撮りたいか?」
「え」
「現世に戻らせてやるぞ」
「うそ、まじすか?」
「戻りたければ、その場で強く願うがいい」
「・・・」
「・・どうした?」
「・・・俺、ここにいます」
「なぜだ!」
「俺、仲間を見つけたんだ」
ふと、周りを見まわせば、クロサワにオズ、ミゾグチや原さんや、ケンさんもやましたさんも。みんないる。
「・・・そうか、ならば、何もいうまい」
そして、光の筋は、再び、黒い雲に覆われ、消えていった。
「いいのか」
俺の肩を、クロサワが叩いた。
「ああ、まだ一つ、撮ってないカットがあるから」
皆が、こくりとうなづいた。
さあ、ラストカットだ。私は叫ぶ。
「本番です!」
地獄に私の声がこだました。

8月16日
今まで撮影した9割を、改めて撮り直すことを提案。
何やら撮影をしていると噂を聞きつけ、地獄に遊びにきたキューブリックさんから、「俺、シャイニング撮った時に、そうしたけどな」って自慢気にいうもんだから、またいつもの悪い癖が「よーし、負けてらんない!」俺は、もう、全部撮りなおすぞ!と豪語したが、結局、みんなに断られる。
撮影終了。おつかれさまでした。


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