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第16回「演出編⑤ 登場人物たち その3」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで


こんにちは!TARRYTOWN翻訳・訳詞・演出の中原和樹です。

今回の創作ノートも演出編の続き、登場人物たちにスポットを当てていきます。

テーマは「楽曲を登場人物との関係で考える」です。

これまで登場人物の分析のために台本に書いてある行動や情報を拾っていくという方法を書いてきましたが、今回は楽曲・音楽の観点でそれを行っていきます。


「TARRYTOWN」ではアンサンブルは登場せず登場人物3人のみなので、まずはどのキャラクターがどの曲を歌っているのかに分けていきます。すでに台本や楽譜に一覧が載っていたりもしますが、ここでの観点は、

A 同じ空間に誰もいない状態で、完全に一人で歌う曲なのか
B 同じ空間に相手役または他の人物がいるが、(ほぼ)一人で歌う曲なのか
C 同じ空間に相手役または他の人物がいて、会話的に歌う曲なのか

ということを考えます。

ここで言う同じ空間というのは、登場人物にとっての同じ空間です。
舞台という芸術の特性として、例えば登場人物二人は物理的には別々の場所にいるのに(例:イカボッドは自分の音楽教室にいて、カトリーナは校長室の事務机にいるなど)、舞台上に同時に存在する、ということもありますが、この場合はAとして扱います。

Aの場合、感情の吐露や葛藤の表出など、その人物の内面が分かる曲が多いです。

Bの場合、複数の人物が同じ空間にいながら、歌う人物は歌うし歌わない人物は歌わない、ということになるので、歌う人物と歌わない人物の違い=歌う人物の歌う根源は何なのか、ということが重要になります。
この場合、歌う人物は聞いている人物の前で自身の考えや感情などを発するということになるので、歌う人物と聞いている人物の関係が見えてきやすく思います。

Cの場合、複数の人物が同じ音楽空間の中に入っていくという構造になるので、その中で人物同士の関係性がどう始まり、どう終わるか(=どう変化するか)が重要になってきます。物語を動かすドラマ・出来事が生まれやすい状況ですね。

「TARRYTOWN」では、例えば以下のようになります。

A 同じ空間に誰もいない状態で、完全に一人で歌う曲】
■イカボッド
・TARRYTOWN(タリータウンへの期待や、緊張の内面の吐露)
・GOES AWAY(NYにいた頃の体験の追体験、苦しみや思考の変化)
■カトリーナ
・MY NEW GAY BEST FRIEND(イカボッドがNY出身であることを知り、NYから来た友達が出来たことを嬉しく思う)
・DOWN THE STAIRS(ブロムと一緒に住んでいる家を出ようと決意する)
■ブロム
・HISTORY(歴史は事実の積み重ねである、ということを歌う)

【B 同じ空間に相手役または他の人物がいるが、(ほぼ)一人で歌う曲
■イカボッド
・WHEN YOU'RE NEAR(ブロムに対して、自分の想いを伝える)
・BACK HOME(NYにいた頃の思い出をブロムとカトリーナに言う)
■カトリーナ
・KATRINA'S WELCOME SONG(高校に赴任してきたイカボッドを歓迎する)
・WHAT DO YOU DO part1(こういうとき、あなたならどうするかとイカボッドに問う)
■ブロム
・THE APPLE PICKING SONG(カトリーナに、たまにはリンゴ狩にでも出かけようと誘う)
・THE LEGEND OF SLEEPY HOLLOW(スリーピーホロウ伝説の内容をイカボッドとカトリーナに伝える)

C 同じ空間に相手役または他の人物がいて、会話的に歌う曲
■イカボッド、カトリーナ、ブロム
・DINNER FOR THREE(イカボッド、ブロム、カトリーナで夕飯を食べる曲)
■イカボッド、ブロム
・FOUR DOWN TO THE TEN-YARD LINE(アメフトのルールをブロムがイカボッドに教える)
■イカボッド、カトリーナ
・THE PHONE CALL(カトリーナからイカボッドに相談の電話がある)

一例です。

その上で、前回までと同じように、他の人物や楽曲と比べてどんな特徴が見えるかを書き出していきます。その特徴がどういった意味を持つかはのちほど考えるとして、まずはピックアップしていきます。
これも前回までと同じ要領です。解釈を決め切る前に、なるべく多くの判断材料を集めるというイメージです。

【イカボッドの場合】
・リアルに考えると同じ空間に人がいても、本人の思考の中に入り込んでいき、独りきりであるように歌う曲が多い
・Aには自分に言い聞かせる形の曲が多い
・カトリーナへ自分の深い内面を打ち明ける曲は無いが、ブロムに対してはある
・物理的に同じ空間にいて歌う場合、歌う量が他の人物に比べて少ない

【カトリーナの場合】
・Aでは自分の考えや感情を吐露して爆発していき、行動への推進力にする曲が多い
・Aの曲が他の人物に比べて多い
・Bでブロムに対する曲が無い(対してブロムはカトリーナに対する曲がある)
・Cの際にイカボッドに対してとブロムに対しての言葉遣い、対応が違う
・カトリーナとブロムが二人でがっつり歌う曲がほぼ無い

【ブロムの場合】
Aの曲が少ない (内面の吐露が少ない)
・Aの曲でも、自分の想いや感情・考えを表す言葉が少ない(=事実、情報を述べる言葉が多い)
・B、Cの曲が多い(他人に対しての働きかけの曲が多い)
・カトリーナとブロムが二人でがっつり歌う曲がほぼ無い

これらはあくまで例なのですが、上記したように特徴を挙げていくと、今までの演出編に書いてきた特徴たちと重なるような部分が見受けられます。
特に「TARRYTOWN」は登場人物三人の関係性の変化が物語の肝ですので、その関係性の設定や変化が、こうした楽曲の特徴にも現れています。

ここからさらに、特にAの楽曲をよくよく分析・解釈をしていくと、その人物の悩みや葛藤が見えてくる場合が多いです。
登場人物の人物造形に悩んだ場合や、何か創りづらさなどを感じた場合、改めてAの曲に戻り考えてみると、新しい道筋が見えてきたりします。

それだけ、ミュージカルにおいて楽曲が内包する情報が多いということでもあるのだと思います。


今回もお読みいただきありがとうございました。
次回はいったん、演出編のまとめをしてみようと思います。
またお読みいただけたら嬉しいです。

中原和樹

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