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カンボジアを生きる わたしたち ~カンボジアで出逢ったステキな女たち、男たち、そしてわたし~ 70.火炎樹

 蛍の光と並んで、私の学生時代の思い出深い景色に「火炎樹」の並木がある。
 ソヴィエト通りの両脇に並ぶ火炎樹。私やサビー、レスマイなどの「自転車通学組」は、まだ車やバイクの数も少なかった当時、横に並んで自転車でその通りを往復した。

 暑い時期に咲く花。大きな街路樹に真っ赤な花を咲かせる。青い空と緑の葉と真っ赤な花のコントラストが広がる。

 クメール語ではプカー・クガォック(孔雀の花)。のんびり、のんびり、自転車をこぎながら、彼女たちといろいろな会話をしながら通学していたと思う。何を話していたかは覚えていないが、この花を見るたびに、その自転車通学のことを思い出すのだ。

 車やバイクが少なかったとはいえ、大学生の多分7割くらいはバイク通学をしていたと思う。そして、自転車で通学するのは貧乏学生とか、家が厳しく自転車しか使わせてもらえないような子たちだった。

 ある日、クラスでおしゃべりをしていた時に、泥棒に気をつけなきゃねといった話題になった。私がうんうんうなづいていると、ある「バイク通学組」の女の子が私に行った。

 「ボンユキは自転車だから、きっと泥棒もボンのことは貧乏だと思って目をつけないから安全よ。バイクに乗っていると、怖いわ~」

 なるほど、貧乏というものはそんな利点もあるのだな。私たちは苦笑いをして、何の悪気もないその天真爛漫な彼女の発言を聞き流した。

 彼女は裕福な家の子で、クラスに彼氏もいて、二人は将来結婚すると宣言していた。「でもね、今はまだ占いにはいかないの。占いに行って相性が良くないって言われちゃったら、絶対結婚を許してもらえないから」と、彼女は真剣な顔をして言っていた。今でもそうかもしれないが、婚約なんて話になる前には必ず占い師の元に行って、その相性を占ってもらうのが習わしだった。占い師が「相性が良くない」というので結婚できなかったなんて話も本当にあったのだ。

 卒業して、風の噂で彼女たちが結婚したという話を聞き、「やっぱり、占いに行ったのかなぁ。良い結果だったのね」と心の中で笑った覚えがある。

 通学手段の格差はあったけど、でも自転車通学で見たあの景色は、きっとバイク通学の子たちには別の風景に映っていただろうし、もしかしたら彼女たちはその美しさに気づかずに過ごしていたのかもしれない。そんな風に思ったりもする。

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