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隻脚転生〜松葉杖はチート武器だったらしい〜 第1話


あらすじ

 夏休み、田崎真一は高校の友人と家の近くの川で飛び込んで遊んでいた際に、意識を失ってしまう。
 そして、目を覚ますと薄暗い部屋のベッドにいた。そしてある事実に気づく。——右足がないことに。
 そこに現れた少女ナタ・オシペンコに状況を聞いた真一は、自分が異世界転生していることを知る。
 そんな中、真一にナタはある一つの質問を投げかけた。

「お前は本当に生きているのか……?」

 一度死んだ真一を、死者蘇生の禁忌を犯そうとする集団『骸の集い』の一員ではないかと疑ったナタは骸の集いの討伐に協力しないのであれば生きて返さないと宣告する。こうして真一は骸の集いの討伐作戦に参加することになるのだった。



第1話

「よっしゃ!俺の番だ!いくぞっ!」

 俺、田崎真一は高校の友人2人と家の近くにある川で飛び込んで遊んでいた。

「次はもっと高さある場所いかね?」

「よしいこうぜ」

 友人の1人の正樹が場所を変えると言い出すともうひとりの友人の太郎が賛成し、場所を変えた。そこは今までで一度も飛び降りたことが無い程高い場所だった。

「ここは流石にヤバいだろ」

「だよな、下に何があるか分からないし……」

 怖気付く2人を見て情けないなぁ……と思い、最初に飛び降りることを決意する。

「それでも男か?俺が最初に言ってやるよ!」

「やめとけよぉ!危ないぞ」

 心配する2人をよそに川へと俺は飛び込んだ。が、しかし川へ飛び込んだのはいいものの川底の岩に右足が引っかかって抜けなくなってしまった。さらに思っていたよりも深く、急流で呼吸が全くできない。もがけばもがくほど苦しくなってくる。

「今行くから待ってろ!」

 異常を察した正樹が大声が聞こえた。しかし意識が遠のいていくのがわかる。次第に手足の力も抜けていく。そして完全に意識を失った。

「うっ……ここは……!!」

 意識を取り戻すと薄暗い部屋のベッドに横たわっていることがわかった。シャンデリアや本棚、洗面台などがあるが、窓がないため外の様子は分からない。明らかに病院では無いことがわかるがそれと同時に2つの体の異変に気がつく。1つ目は水着を着ていた筈がポロシャツとジーパンを身につけていたことだが、もう1つの異変と比べれば些細なことだった。右足の感覚が全くない、いや右足自体がなくなっていたのだ。

「は、ははそんな、右足がない……」

 何度も何度も右足があるであろう場所を触れてみるが何もない。

「俺の右足いいぃぃぃ!」

 右足を失ったショックで叫ぶとどこからか足音が聞こえる。しかし、右足を失ったショックでそれが誰なのか、大丈夫なのかということを考えることはできなかった。

「おぉ!目覚めたか」

 ドアの開閉音と共に女性の声が聞こえた。起き上がり、声の聞こえた方へ振り返って見てみると紫色の髪をした落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。見た目の年齢は自分と同じくらいに見える。ここに連れてきたのはこの人なのか?この場所は何なのか?様々な質問が思い浮かんだ。

「まぁ色んな質問があるだろうが、まずは私の名前はナタ・オシペンコ。ナタでいいわ」

「俺は田崎真一です。ここはどこなんですか?俺はどうなったんですかっ!」

 俺の頭に様々な思いが込み上がってきて取り乱しそうになったが、ここで取り乱しては重要な事がきけなくなってしまうと思い、必死に冷静でいるように自分に言い聞かせた。

「ここは東の国、アサタナにある私の屋敷よ。お前がここに来る前に何があったかは知らんが私が気づいた時には私の屋敷の前に倒れておったぞ。あ、あともう気づいてはいるだろうがお前の足は切断したぞ。壊死していたのでな」

 聞いたことのない謎の国、何故こんな屋敷の前に倒れていたのか、謎が深まるばかりだ。ただ右足を失った理由が分かったので少しスッキリした。失った悲しさと悔しさにかわりはない。泣きたい気持ちはあったが彼女の前でそんな姿は見せられない!と思い留まらせた。

「とりあえずありがとうございます。倒れたままだったらどうなったことか……」

「屋敷の前で死なれては私も困るのでな、当然のことをしたまでだ。ところでだ、私からも田崎真一、お前に質問がある」

 そう言うとナタは先程よりも真剣な表情になったのが見える。するとナタは少し俺に近づいてこう言った。
「単刀直入に訊く!お前は本当に生きているのか……?」

 自分の全身に鳥肌が走った。俺は現にこうして自分で考え動き、ナタと会話している。俺が生きていないのならば何なのか!と思った。もちろん俺は彼女の質問の意味がさっぱり分からない。彼女の質問はさっきまでの疑問をより深まらせた。

「生きていないなら何なんですかっ!訳が分からない!生きてないなら今あなたと話しているのは誰になる!死体と話ができるとでも言うのかよっ!」

 俺は声を荒らげて叫んだ。今までの不安、悲しみ、恐怖。全ての積もり積もった負の感情が爆発する。
 そうか!夢なのか!と顔を思い切り殴ってみるが残ったのはリアルな頰のどうしようもない痛さのみ。今にも気が狂ってしまいそうだ。
 すると真一の様子を見たナタが真一に駆け寄り、手をかざした。するとあたりは眩しい光で包まれ、次第に頭の中のぐちゃぐちゃとした気持ちが落ち着いてきた。

「やれやれ。本当に今の自分の状況が分からないみたいね」

「ごめんなさい、取り乱してしまって。それで生きていないとはどういうことなんですか?」

 気持ちが落ち着き、我にかえると不思議な力についても気になったがまず改めて自分の置かれている状況について質問した。

「簡単に言うと生体エネルギーが全く感じられないの。しかも正反対の恐ろしいほどの死のエネルギーがお前から感じられる」

 俺はまた訳の分からないエネルギーの話を出されて混乱したが何となく自分を包み込んだ光はそのエネルギーなのだろうと納得した。しかしそんな現実離れした話に本当に頭がおかしくなったのか?ドッキリか何かじゃねーのか?とも同時に思った。しかし彼女の真剣な表情は自分を騙しているようには思えない。
 そして俺は一つ、確信とまではいかないがある考えが思い浮かぶ。そして心の中で叫んだ『ま、まさかこれは異世界転生ってやつなのかあぁぁあっ!』と。

「私たち人間は生体エネルギーを魔法として変換し、あらゆるものに応用してきた。ただ、長い歴史の中で生体エネルギーによる死者蘇生魔法は幾度となく社会を混乱に陥れてきた。だから今では禁忌となっているの。でも最近各地で暗躍して勢力を伸ばしている反乱分子の骸の集い、奴らは死者に生体エネルギーを分け与えることで禁忌である死者の蘇生をしてこの世の終焉へと導いている。だからなんとしても食い止めないといけないの!」

「つまり俺が蘇った骸の集いの一員だと思われているのか……」

「簡単に言うとそうね。それじゃあ再度問うわ。あなたは生きているの?」

 ナタがそう言うと、またもやナタの不思議な力でどこからか鎖が具現化し、俺の身体を拘束した。

「生きているに決まっているだろ! こんな拘束するなんて間違っている!」

「お前の精神を安定させた時に拘束魔法もかけておいたから今慌てて逃げようとしても無駄よ」

「ははっ、そうか。まぁ話を続けてくれ、まだ話はあるんだろう」

「あら? いきなりタメ口? 本性を現したのかしら」

「突然人を拘束する人に敬語使えってのも無理があるんじゃないか?」

「まぁそれは置いておいて話に戻ろうかしら。いつでも貴方を殺せる事は理解しなさい」

「わかった。だけど一つ質問いいか? 俺が疑われてるのは分かった。だが一つ腑に落ちないんだが」

 俺は骸の集いの話を聞いた時から一つの疑問を抱いていた。

「ナタの話を信じるとして今の自分には全く生体エネルギーが感じられないはず。だけど蘇るためには生体エネルギーが必要不可欠! これって明らかにおかしいだろ!」

「それはね、最近討伐部隊の間で噂になってる事があるの。生体エネルギーを持たず、強大な死のエネルギーを持った人間が骸の集いにいるというね」

「つまりその人間が俺、だと?」

「そういうことになるわね」

「でも俺が身に覚えがないって言っても信じてくれるとは思えないんだが」

「そうね、そこで提案があるの。実は私の屋敷は対骸の集いの拠点になってるの。お前の死のエネルギーは絶大、そこで近々計画されている骸の集い討伐にその力を貸して貰おうと思うの」

 俺は今までに無い程冷静だった。感情の制御がさっきの光によってできているからだろうか。そのため現実味のない話ではあるが情報を整理し、今自分の置かれている状況が理解する事ができた。

「断ったら殺される……だろう?」

「計画の事は極秘なの。お前が奴らと関係があろうとなかろうと生かして帰らせるつもりはないわ」

 彼女の声色が変わった。本気なのが肌で感じられる。

「仕方ない。ここは人肌脱いでやるぜ!」

「巫山戯ているの? 自分の状況が理解できる?」

 張り詰めた緊張をほぐすために格好をつけてみたが逆効果だったようだ。鎖の拘束が強くなる。

「分かった。今度は本当に真面目に分かった!」

「ようやく理解したようね。よろしくね、タザキシンイチ……君!」

 怒らせてしまった以上普通に受け入れる他なかった。彼女は不敵な笑みを見せながら鎖の拘束を解いた。


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#創作大賞2024 #漫画原作部門


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