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隻脚転生〜松葉杖はチート武器だったらしい〜 第2話


第2話

「真一でいいよ。それでだ——俺足ないんだがどうすりゃいいんだ?」

「シンイチ、お前にはこれを使って貰おうと思う」

 そう言うとナタは両手を手のひらを上にして前に出し、目を瞑った——すると鎖が出てきた時のようにどこからともなく長い棒状の物が現れ、ナタの両手に乗った。

 俺は唾をゴクリと飲み込む——そして彼女の顔をまじまじと見つめた。

「これは……松葉杖!」

 少し変わった形をしていたためすぐにはわからなかったがよく見ると松葉杖であることがわかった。

「そうよ私特製! 硬度はダイヤモンド以上でエネルギーを注ぎ込むことで仕込み銃にもなるように作ったから殴るもよし、撃つもよしだから使い方によっては神をも殺せるわ!」

 神を殺せるなんて大袈裟な——そんな事を思いながらも今までの張り詰めた雰囲気の時は見れなかった彼女の笑顔が見れてすこし嬉しかった。

「わかったけどなんで松葉杖なんだ? 義足でもいいのに」

「ああ、義足の場合は身体との整合性を考えて耐久性をある程度下げないといけないから壊れやすくなってしまうの。でも松葉杖なら耐久性を落とす必要はないし、最悪戦闘で壊れても周りにある棒か何かを杖代わりにして帰って来れるでしょう。普段から杖に慣れておくのと義足慣れしていざ義足がなくなって杖を使わなければならないとなった場合じゃ生きて帰れる確率が天と地ほど変わるわ」

 俺は納得し、二、三回頷いた。

——ナタは俺が思っている以上に俺の事を考えてくれているのかもな。俺は彼女に対する考えを改めないといけないのかもしれない。

「じゃあ早速その松葉杖使って歩く練習してもいいか?」

「そうしてほしいんだけど今日はもう遅いわ。明日改めてにしましょう。おやすみなさい」

「お、おやすみ」

 そう言うとナタは松葉杖をベッドの隅に置き、シャンデリアの灯を消すとドアから外へ出た。

 俺はナタが部屋から出て一段落つくと安心感からか睡魔が襲ってきた。何かを考える間も無く気がつけば床についていた。

——…………よ…………ださい…。

 遠くから微かな声が聞こえる。聞き覚えがない女性の声だ。——まだ夢の中にいるのだろうか。

——朝……すよ起き……ださい!

 前より大きくなった声。誰かが俺を起こしているように聞こえる——まだ寝たりねぇよおぉ
 心地よい眠りから覚めたくないため無視することにした。

「ナタ様に殺されますよ……!」

 それはまずいと反射的に起き上がる。するとそこには金髪でショートカットの小柄な少女が立っていた。

「お、おおはようございますっ! そしてお初におめにかかります! シンディー・テルフォードと申しますっ! オシペンコ家にてメイドとして支えさせていただいておりますっ! 朝ご飯の支度ができたこっ、ことをお知らせに参りました」

「まぁまぁ落ち着いて。よろしくな」

「はい。ありがとうございます!」

——本物のメイドはじめて見た! 異世界やっぱりすごいなぁ⁉︎

 はじめてみる本物のメイドに感動しながらも緊張している様子のシンディーに落ち着くように促す。

「それでは私はこの辺で失礼しますね。部屋をでると中庭を囲む廊下になっているのでそこを右に曲がり、突き当たりにあるホールへ身の回りの整理が出来次第きてくださいね。それでは! ギャッアッ!」

 シンディーは部屋から出ようと歩き出した途端にドコッと大きな音を出して大きくつまづいて転んだ。

「大丈夫?」

「イテテテ……あっ! 大丈夫です! 問題ありません! 日常茶飯事ですから!」

 俺はシンディーがかなり大きく転んだように見えたため怪我はないか心配したが予想以上に元気だったため安心したが——日常茶飯事って逆に大丈夫かよ……と心配に思う。

 シンディーが部屋を出て、特にやることもないので洗面台で顔を洗ってから食事をするホールへ向かおうとしたがとある重要なことに気づく。

——あっ……俺、右足ないんだった。

 幸い松葉杖はベッドの隅に置いてあったが産まれてから右足を失い、今に至るまでの間足に大きな怪我などをすることがなかったため松葉杖を使うのは初めてである。
 慣れない手つきで洗面台まで行き、顔を洗うとホールへと歩き出した。思っていたよりもバランスを取ることが難しく、思うように進まない。

——こんなんじゃいくらこの松葉杖の性能がよかったとしてもとてもじゃないけど敵と戦うなんて無理だろ……先が思いやられるな。

 苦労しながらも部屋を出ると赤いカーペットの敷かれた長い廊下へと出た。窓からは中庭が見え、眩しい朝日が中央部にそびえ立つ大きな木を照らしており、その周りには芝生が生い茂っている。しばらくその風景に見入ってしまっていたがあまり待たせてしまっては自分の身が危ういとシンディーに言われた通り右に前へ前へと進み、やっとの思いでホールへとたどり着いた。

 ホールの中に入ると中央には長い長方形のテーブルとイスがあり、正面奥にはナタ、自分から見て左側にシンディーが座っている。テーブルには彩り豊かな食べ物が並んでいて、見るだけで腹が膨れる。天井には自分の寝ていた部屋よりずっと大きなシャンデリアが並んでおり、正面奥、ナタがいる側には暖炉があった。

「おはよう。ご機嫌いかがかしら」

「まぁまぁかな。初めての松葉杖大変だったけど」

「慣れてないから仕方ないですよ! 頑張ってください!」

「とりあえず椅子に座りなさい。せっかくの温かい料理が冷めてしまうわ」

 そう言われると椅子に座るとテーブルに並べられた料理を改めて見直した。すると他2人にはない肉料理が並べられている事に気づく。

「あれ? 俺だけ料理が多くないか?」

「これから大変になるのだからたくさん食べて力を付けないといけないでしょう?」

「この地域の超高級品、アサタナオオイノシシの味噌漬けです。私が屋敷の裏山で捕獲、調理致しました! ぜひ召し上がってください!」

「私の屋敷の裏山でも滅多に捕まえられないの。味わって食べなさい」

「わかった! じゃあいただきます!」

「何よ? いただきますって」

 俺が裏山なんてあるんだなと思いながらも手を合わせていただきますと言うのを見てナタが不思議そうに尋ねる。どうやらこの国には食事をする際に挨拶をする習慣はないらしい。

「料理に対する感謝を表す挨拶だよ。料理が作られるまでに関わる人達や大地の恵みに感謝して始まる時にはいただきます、食べ終わったらご馳走さまでしたっていうんだ」

「なるほどね。ちゃんとした意味があるわけか。いい心がけね」

 ナタが納得したため気を取り直し、食べはじめようとお皿に大量に盛り付けられた味噌漬けをみた。朝からこの量は重すぎるだろと思いながらも、異世界で食べる初めての料理を緊張しながら、恐る恐る口の中へと運ぶ。

——うまいっっっ! すげぇ、イノシシ独特の臭みがない! 口がとろけそうだっ! 濃すぎずほどよいまろやかさで止まらねえぜ!

 はじめて食べるそれは真一にとって衝撃的なものだった。流石は超高級品のイノシシだけあるなとは思ったがシンディーの仕事も負けていない。イノシシ独特の臭みがないのは血抜きや脂取りがしっかりと行われているからだろう。それに味噌の加減がくどすぎず絶妙な味わいとなっている。

「おいしいよ! こんなものが食べられるなんて夢にも思わなかった!」

「喜んでいただけて嬉しいです!」

 そういうとシンディーは安堵の笑みを見せた。

「さあ! 私たちも食べましょう! いただきます!」

「はい! いただきます!」

 俺の真似をして手を合わせ、いただきますと挨拶をする2人を横目に他の料理も食べ進める。どれもこれも味わったことのないようなものばかりだ。こんなに食事に感動したのはいつぶりだろうか。

 大量にあった料理もいつの間にか食べ終わり、空になった皿とお腹の満足感のみが残った。味噌漬けの量が多かったためか他2人もほぼ同時に食べ終わる。

「貴方相当食べるのはやいのね」

「いやぁ〜こんなうまいもの久しぶりだからな。自然と食が進むよ。で、この後どうするんだ?」

「まずは屋敷とこの周辺の案内。それに松葉杖を使った射撃訓練をシンディーにお願いするわ」

「私ですか⁉︎ お言葉ですが私は討伐戦に参加しませんし、ナタ様が案内した方がよいのでは?」

「逃げ出したりしないか見張るためにも私はが案内したいのは山々なんだけど私は骸の集い討伐のための書類まとめたりしないといけないのよ。今は他に屋敷にいないし……」

「今はってことはいつもは屋敷に他にいるのか?」

 俺はふといつもこの広い屋敷に2人で住んでいるのか尋ねた。

「いるわよ。食べ物とか村に買いに行ったり、骸の集い討伐のための準備とかで今はいないけどね。それじゃあ話は戻るけどシンディー、頼んだわよ」

「は、はい! 頑張ります!」

 シンディーはガッツポーズをしていたがまだ戸惑っているようにも見えた。

「それに討伐戦に参加しないといっても射撃の腕は一流なんだから裏山で射撃を教えてくるといいわ」

——そういやシンディーがイノシシを捕まえたって言ってたな。見かけによらずやるなぁ。

「じゃあ挨拶するわよ。ご馳走さまでした!」

「ご馳走さまでした!」

 ナタがそういうとナタを含めた3人は手を合わせ、ナタの掛け声に合わせ、2人も声を合わせ、挨拶した。

「さてと、私は早速作業に取り掛かるから後のことはよろしくね」

「はい! わかりました!」

「シンイチもシンディーの射撃の技術をちゃんと見ておきなさい。彼女の射撃の腕前はこの国でも5本の指に入ると言っても過言じゃないわ」

 そういうとナタは颯爽と立ち上がり、ホールを後にした。
5本の指に入るというシンディーの腕前。射撃の訓練が少し楽しみになった。

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#創作大賞2024 #漫画原作部門

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