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書評と人物紹介 「Passion(パッション)〜受難を情熱に変えて」 / 前田恵理子著(東京大学放射線医学)

前田恵理子先生を一言で紹介することは難しい。まず彼女は医用画像を診断する「放射線科医」であり、小児の心臓CT被曝を低減することに貢献した人である。

また、愛する夫との間に生まれた、鉄道が大好きで、極めて優秀で、たまにランドセルの底から「学校のお知らせが蛇腹のようになって」発見されることもある男児のお母さんでもある(それは僕のときと同じだ!)。

若いときの重篤な喘息を克服した。そして、バイオリン奏者で、はたまた気象予報士に挑戦中でもある人だ。

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大学病院で多忙を極めていた彼女は、30歳代で、自分の肺に腺癌ができたことを自らCTで発見した。

すぐに手術を受け、念をいれて強い抗がん剤治療も受けいれた。

にもかかわらずその後、胸膜にがんが再発し、さらに再再発した。
その都度、不安に苛まれ、相談し、励まされ、冷静に考え、治療法を決断した。

分子標的薬 ・ 再手術 ・ 放射線治療

これらによる痛みと副作用に耐え、ピンチの時には緊急手術すらリクエストし、結果として最良の道を歩んできている。

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その過程を本書にまとめ、出版された。今回のPart 2は、最初の手術から2019年11月までの彼女の極めて濃い人生と、周囲の人々や社会との関係について描いたものである。

医療関係者や患者家族がこれを読むとき、Part 2の最初の部分は、きっと引きずり込まれることと思う。肺癌手術の後に、どんな風になってしまうのか、10ページも読めば心配になるからだ。

随所に散りばめられている分かりやすい説明により、それまでは全く知らなかった肺癌に対する医学的知識を、なぜか読者である自分も知らぬ間に獲得していることに気づくことだろう。

あれ?なんか肺癌の治療に詳しい自分がいる!

、、、そんな風に感じるはずだ。

前田恵理子さんは、光り輝く東京大学理科III類のヒトである。東大の先生が書いた本と聞くとたじろいでしまい、「別世界の人だ。読んでも仕方がない」と感じる人もいるだろう。しかし肺癌という緊急事態の発生に触れることで、読者がだんだんと彼女に同化し、「どんな風にしたらその都度乗り越えられるのだろうか、どうやって人生を歩むべきか」ということを経験していく。

その結果、調べること、考えること、見積もりをもつこと、行動することが、どんな人にとってもかけがえのない大切なことであることに読者が気づく。本書にはそんな側面がある。

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リアルの世界でいま私は、社会問題に対し意見を述べることがある。たまたま前田先生が同じような声を上げてくれ、孤立せず有難かったことを数回経験したが、こういった際に私達はプライベートなやりとりをしていない。

お互いに超オープンな性格であり、「今言わなくちゃ、行動しなくちゃ」と思ったことを各々が直接、外に向かって表明しているのである。もちろんこっそり相談して共同戦線を張ってもいいのかもしれないが、「共同戦線でなくても意見が一致した」ところに価値を感じている。

勇気と意思があれば何でもできるなぁ、と思わせてくれる、そんな人でもある。





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