平成28年司法試験憲法解説

1 設問の確認
〔設問1〕
あなたが弁護士としてAの付添人に選任されたとして,性犯罪者継続監視法が違憲であることを訴えるためにどのような主張を行うかを述べなさい。その際,参考人Uの意見(心理的,生理的,病理的要因等により特定の性的衝動に対する抑制が適正に機能しにくい者が存在し,そのような者が再び同様の性犯罪に及ぶリスクの高さは,専門家によって判定することができるとするもの)には,科学的見地から根拠があると仮定して論じなさい。
なお,同法が憲法第31条及び第39条に違反するとの主張については,他の付添人が起案を担当しているため,論じる必要はない。
〔設問2〕
〔設問1〕で述べられたAの付添人の主張に対する検察官の反論を想定しつつ,憲法上の問題点について,あなた自身の見解を述べなさい。
 

まず、どの科目もそうだと思いますが、設問を確認します。すると以下のことが分かります。
①「性犯罪者継続監視法が違憲であることを訴えるために」
 憲法上の主張としては、法令違憲や適用違憲などがあります。設問や問題文にはどのような主張をするべきか誘導があることが最近は多いので、誘導がないか確認しましょう。本件では、法が違憲であることを訴えるという目的が設定されているので、法令違憲だと分かります。これに対し、国の処分や逮捕されたことなどの行為自体を無効にしたい、争いたいという場合には、適用違憲を(場合によっては法令違憲も)検討することになるでしょう。
②「その際,参考人Uの意見(心理的,生理的,病理的要因等により特定の性的衝動に対する抑制が適正に機能しにくい者が存在し,そのような者が再び同様の性犯罪に及ぶリスクの高さは,専門家によって判定することができるとするもの)には,科学的見地から根拠があると仮定して論じなさい。」
 あまり見かけない記載ですが、これは、参考人Uの意見の信用性を争ったりするような論述は不要だ、という採点官からのメッセージでしょう。また、わざわざ記載があるということから、必ず論文で引用すべき事情だということも推測されます。
③「なお,同法が憲法第31条及び第39条に違反するとの主張については,他の付添人が起案を担当しているため,論じる必要はない。」
 当たり前ですが、これについては論述は不要だということですね。
④「検察官の反論を想定しつつ」「あなた自身の見解を述べなさい。」
 一般的な設問の形式です。年度によって論述形式が異なることがあるのでしっかり確認しましょう。
 なお、配点割合が記載されることもあるので、見落とさないようにしましょう。
2 事案の確認
 ここでいう事案とは、事実と法令を指します。なので、事実だけではなく、添付されている法令がどのようなものかまで確認しましょう。後回しにしたりすると見落とす可能性があるので、最後のページまでしっかりと確認しましょう。
 法令違憲の場合、立法事実について検討することになります。司法事実はあまり関係ありませんが、司法事実から立法事実を認定するという方法もあり得るので一応確認しましょう。

問題文2段落目まで。
憲法では、立法のきっかけとなった事件や出来事がよく登場する。まさに立法事実であるが、多くの場合、このような事情は、目的審査で用いることになる。そのため、私ならメモとして問題文に「目的」などと記載する。
 また、専門家が処罰による特別予防効果に期待することは現実的でないと述べている点は、他の方法による目的達成が可能なのではないかという観点に関連する事実と思うので
「ADR」とか「手段」とかメモすると思う。

問題文3段落目から5段落目
 規制手段の具体的な方法が記載されている。ここから、誰のどんな自由を侵害するおそれがあるのか、どんな制約なのか、などが分かるので、いろいろな論点に影響する事情と思われる。正確には添付されている法令を読むことで分かるのだが、親切にも要約が記載されている。

問題文6段落目から8段落目まで
ブレスレット型装置という代替措置について書かれているので、LRAの検討として拾うべき事情と思われる。このようなあからさまな事情の記載があるが、しっかりとそのまま拾って検討すべきである。考えすぎに注意。
また、ブレスレット型のデメリットや埋め込み型のメリットやデメリットがないことも記載されているので、そのまま拾って論述すべきであろう。すなわち、ブレスレット型は外から見えるというデメリットが大きいが、埋め込み型はそのようなデメリットがなく、手術も安全なので、ブレスレット型は代替手段として相当でないという議論ができる。ここで、とはいっても危険なんじゃないかなどと議論を考え出すと議論がまとまらなくなってしまうリスクが大きいので素直に検討するほうがいいだろう。
国会審議での議論も同様である。どちらも事実とすれば、リスクが特に高いと客観的に判断できるので、目的として重要あるいは手段として関連性があるという結論が導けそうである。

問題文9段落目、10段落目
ここの段落は、司法事実である。なので、直接的には法令違憲で用いることはできない。

3 法令の検討
 では、法令違憲を主張するとして、どの条文を対象とするかを検討する。
 問題文と設問を読むと、検察官がAに対する継続監視を行う旨の決定をすることの申立
てを行っているのでこれを却下させたいらしい。なので、「継続監視の決定」について定める法14条を確認する。

14条にある10条と11条も確認する。また、「継続監視」の定義である2条も確認する。


 今回は、14条・2条の「継続監視」という効果が誰かの人権を侵害するので違憲だという主張をすることになる。
 そこで、14条が誰の何の人権を侵害するのか、また、正当化されるのかどうかも検討することになる。

4 誰の人権が制約対象か
 「誰の」を考えるときは、法令違憲の場合、抽象的にとらえなければならない。なので、Aのプライバシー権などのような特定個人を主体にしてはいけない。なぜなら、法令違憲は、法令が条文上対象にしている人物を念頭に置くのであって、具体的事件を念頭におくのではない。特定個人を念頭におくのは適用違憲である。
 法2条1項をみると、「監視対象者」とあるので、監視対象者が継続監視によって何らかの人権侵害にあうと理解できる。

ここから先は

4,863字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?