平成29年司法試験刑訴法解説

第1 刑事訴訟法で重要なこと
本年の問題も,昨年までと同様に比較的長文の事例を設定し,その捜査及び公判の過程に現れた刑事手続上の問題点について,問題の所在を的確に把握し,その法的解決に重要な具体的事実を抽出・分析した上で,これに的確な法解釈を経て導かれた法準則を適用して一定の結論を導き,その過程を筋道立てて説得的に論述することを求めている。法律実務家になるための基本的学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論述能力等を試すものである。(採点実感)
分けてみると、
①法的解決に重要な具体的事実を抽出・分析・・・事実摘示と評価・意味づけ
②的確な法解釈を経て          ・・・理由付け
③導かれた法準則を適用して       ・・・規範
④一定の結論を導き           ・・・結論
⑤過程を道筋立てて説得的に論述する   ・・・論理的表現
が求められている。いずれも他の科目にも共通する視点である。

第2 設問1
1 事案
〔設問1〕下線部①ないし③の捜査の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
具体的事実を摘示することが明示されているのであるから、当然具体的事実を使ってあてはめを行わなければならない。が、意外とできていない受験生は多い。
 捜査の適法性の検討にあたっては、頭の中で想定した問題点を起点として検討をはじめることが多いと思われる。条文数も少なくなく、条文の配置もバラバラなので、条文を見て一から考えるというのは現実的ではないように思う。なので、経験によって、処理パターンをある程度蓄積することが重要になろう。 
2 下線部①
①Pから合図を受けたQらは,ベランダの柵を乗り越え,掃き出し窓のガラスを割って解錠し,甲方に入った。
⑴ 規範 
 下線部①は、ガラスを割って解錠した行為が、捜索に伴う付随的措置である「必要な処分」(刑事訴訟法第222条第1項,第111条第1項)として許容されるかが問題となる。
また、令状の呈示が入室後であることから、令状呈示(同法第222条第1項,第110条)の時期が問題となる。
ア ガラスを割って解錠した行為
「必要な処分」とは、令状執行のため必要かつ相当な範囲の処分をいう。
*書く必要はないが、以下のような考慮要素が一般的には挙げられる。
①必要性(捜査上の必要)
ⅰ被疑事実の内容
ⅱ差押対象物件の性質
ⅲ差押対象物の破棄隠匿のおそれ(最重要)
②相当性(捜査対象者などの不利益)
ⅰ当該行為による不利益の内容(処分を受ける者の協力態様) 
ⅱ当該行為による損害の程度
イ 令状の呈示
(令状の呈示を求める222条1項が準用する110条は呈示時期を定めていないため問題となる)
【原則】
執行着手前でなければならない。
∵110条が令状呈示を要求した趣旨は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮することにある。そうすると、令状の呈示は、事前に示されなければ処分を受ける者の防御の機会が与えられず、捜査機関の権限の濫用を防止することができないから、原則として執行着手前に呈示されなければならない。
【例外】
令状呈示の間に証拠隠滅行為が行われるおそれがある場合には、執行着手後の呈示も許される。もっとも、その場合であっても、執行着手後速やかに令状を呈示しなければならない。
∵捜索・差押えの実効性を確保する必要がある。
⑵ 事実 
①令状執行の実効性確保のための必要性 具体的事実 評価
A及びその他複数の者が、甲から覚せい剤を購入した旨供述している。
→ 甲のAに対する営利目的譲渡の嫌疑の程度は強く、全容解明のため甲宅を捜索差押する必要性が高い。
覚せい剤が差押対象物件である
→水に流す等して短時間に隠滅することが容易である
被疑事実が覚せい剤取締法違反(Aに対する営利目的の譲渡)
→覚せい剤が立証上重要な証拠となる
甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者
→初犯者と比較して警察捜査に関する知識を有していると考えられ隠滅が容易

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