見出し画像

【HSK3.0】カレタン(単語帳)7~9級レベルをリリースするまでの話

こんにちは、中国語学習コーチの伊地知(@taroijichi)です。プロフィールについてはこちらをご覧ください。

今回は新しく作成した単語帳について、単語帳が出来上がるまで本当に色々と紆余曲折があって、すっごく大変で面白かったので、その過程を紹介したいと思います。

単語帳のページはこちら

単語帳プロジェクトのきっかけ

まずこの単語帳を作ろうとなったきっかけについてですが、2022年からHSKが今の制度から変更となる旨HSK運営から発表がありました。

具体的に言うと、現行のHSKは1~6級まであり、6級が一番難しいという試験ですが、より難易度の高い7~9級が新設されるというものです。

HSKは過去にも改変を行っていて、今回は2回目の改変なので、中国語学習者の中では、現行のHSKを“HSK2.0”、2022年に変わると言われている新しいHSKを“HSK3.0”と呼んでいるようです。(実際には少なくとも日本では2022年中に変わることは無さそう…)

そして、このHSK3.0について、7~9級が増設されるだけかと思いきや、2021年3月に公開された『国际中文教育中文水平等级标准』(国際中国語教育中国語レベル等級基準)の中に1~9級までの単語リストが載っていて、それが現行のHSK2.0とかなり違うということがわかりました。単純に現行のHSKに7~9級が増設ではなく、将来的には1~6級も変わるという感じです。

ここまでわかっていたら、出版社から新しい単語帳も出るかなと思ったんですが、この『国际中文教育中文水平等级标准』はHSKの“考试大纲”という試験ガイドラインとは異なるので、この“标准”の単語リストが今後どれくらい活用されるものかがまだ不明というのが現状ということもあり、まだ出版されるという感じではありませんでした。(問い合わせさせていただいたところもありますが、現段階では発売の予定はないという回答でした)

もちろん私たちthe courageも頭を抱えてしまったのですが、まずは現行のHSK(HSK2.0)の“大纲”と今回の“标准”がどれくらい違うかを確認したところ、“标准”の単語はHSK2.0の単語量よりも倍増していて、内容もかなり重複しているので、簡単に言うと、“标准”をちゃんとやれば今のHSK2.0は十分カバーできるし、多分3.0にもちゃんと対応できそうという見込みが立ちました。

そして、

じゃあやっぱり“标准”の単語帳あると良いじゃん!

となり、やってみようとなったというわけです。

ここまで書いていて、全然特殊なことが起こっていませんが、簡単に言うと、まだどれくらい使われるかどうか確定していない“标准”を基に、コストも労力もかけて作るので、だいぶドキドキするけど、かなりワクワクするので、まあいいやと先走ったということです。

どんな単語帳にするかを考えた

単語帳を作ることは決めたので、そこからはどんな単語帳を作るかを考えました。

the courageでは最も効率的・効果的な学習法を受講生に伝えるということを大切にしているので、苦手をピックアップして、そこを集中的に学ぶために、単語暗記はアプリでの学習を推奨しています。なので、今回もできればアプリにしたいと思いました。

また、例文がHSKの問題からの抜粋などだと、ちょっと長すぎて単語暗記の助けになりにくいので、極力シンプルな例文を付けたい。そして音声も欲しい、

つまり

❶“国际中文教育中文水平等级标准”の指定単語をカバーしている
❷全ての単語に比較的シンプルな例文がついている
❸全ての単語と例文についてネイティブ音声がついている
❹アプリで学べる

というのを大切な条件としました。

あと、the courageでは一貫して学習を“やり抜く”というサポートをしているので、この5000語を超える単語帳を提供するだけではなくて、どうしても何か“継続”のための1工夫が欲しいと思いました。

膨大な収録語数だからこそ、「たぶん最後までできないかな…」と思って提供するのがどうしても嫌で、かと言ってできることに限りがある、ということで、今自分たちにできる最善策として、

❺単語帳購入者専用のチャットグループを作る

というのも加えました。LINEのオープンチャットで、単調になりがちな単語暗記に少しでも刺激をもたらせたらというものです。

こうして動き始めたのが2021年6月の終わりくらいですかね。

信頼できるメンバー集め

さあ、方向性も決まったし、メンバー集めだ!

と思ったのですが、どんなメンバーで作成するかはかなり重要で、誰でも良いから一緒にやろうぜというわけにはいかず、すごく慎重に進めました。

単語の例文はネイティブに作ってもらいたいけど、ただネイティブであれば良いということではなくて、適切な例文を作成するには中国語教育のプロでないと困るので、中国で外国人向けに中国語を教えている中国語教育のプロのメンバーを集めました。

また、そうした先生方は日本語ができるわけではないので、日本サイドのメンバーとして、翻訳のプロにもお願いをする必要があり、翻訳家の方の助けも借りました。

さらに、外国人向けではなく、日本で日本人向けに中国語教育を行っているネイティブと、日本人(←これは私)、さらには教育現場ではなく、日常的に実務として中国語を使っている実務家のメンバーの目も入れたいということで、色々な方に紹介してもらいながら、各分野で活躍しているメンバーでチームを組みました。

そして、結局、

・対外国人向けに中国語教えているネイティブの先生チーム
・日本人向けに中国語を教えているネイティブの先生
・日本人向けに中国語を教えている日本人
・翻訳家として実績のある方
・中国語を日常的に仕事で使っている実務家の方
・プロジェクト管理までできる日本人コーチ


というメンバーが集まり、ようやくスタートできました。

チームメンバーは結構面白いので、ぜひ単語帳のページのメンバー紹介をご覧ください。

画像2
画像3


いざ動いてみると…

メンバーの目途も立ったので単語帳作成に取り掛かろうと思ったものの、実際に動きはじめてはじめてわかった「考えないといけないこと」がたくさん出て来て、今までテキストとか単語帳にいろいろ文句言ってごめんなさい、もう口が裂けても文句言いません、ごめんなさいごめんなさい💦という気持ちになりました。

多分出版社の方とかはこうしたノウハウを持ってらっしゃるので、予め考えてからスタートするんだと思いますが、今まで単語帳作成をしたことが無かったので(そのくせ文句はたくさん言ってました、ごめんなさいごめんなさい💦)、都度都度方針を決めていくことになりました。

ただ、方針は教育現場目線、つまり、学習者が学びやすいかどうかを極力優先させたので、その軸があったことで決めやすかったというのは良かったことだと思います。

ここからはどんなことを考えて、どんなことを決めたのかを、せっかくなので紹介しておきます。

変な例文があるぞ!

まず例文作成については中国にいる対外国人の中国語教育のプロが担当してくれているのですが、それでも1万以上の膨大な例文なので、中には「おや?」と思うものがありました。

やたらネガティブだったり、使われてる内容が中国独特の考え方で、そういうのを知るのも大切だけど、単語を覚えるという目的にてらすとちょっと違うよねというものなどです。

なので、それらについては「なぜそれが例文としてNGなのか」を伝え、再考してもらうというプロセスが必要になりました。

「日本に◯◯っていう概念が無いから、学習者が◯◯を調べたり、その理解に時間を使い過ぎて、肝心の単語を覚えること以外に対して労力を使いすぎちゃうから、別の例文でいきたいんだけど…」という感じで制作リーダーがすごく丁寧に対応をしてくれました。

とは言え、七夕で告白するという例文なんかは、補足で「中国の七夕は日本のバレンタインデーのように、告白をする習慣がある」と付け加えることで、ちょっとした「へぇ~」という印象を残していただけるようにしたりもしました。

品詞は記載する?

中国語は英語などと違って、単語の形を変えることなく複数の品詞として使うことができます。

例えば、英語であれば“beauty“は「美」という名詞、“beautiful”は「美しい」という形容詞というようにそれぞれ形を変えて、違う単語になりますが、中国語はこうした語形変化がないんです。

なので、品詞を全部書くのは不可能だし、あまり意味がないとも言えます。

でも、書きました。

なぜかというと、学習者目線で言うと「品詞の特定が難しいのはわかるんだけど、でも目安としてでも良いからやっぱり欲しい」という気持ちが強いからです。

本当は対象として上級者を想定している7~9級であればやっぱり不要な気もするのですが、1つ示しておいて、それ以上については自分で調べるという方が学びやすいと考え、結局記載することにしました。

ただ、やっぱり品詞の特定むずいんです😢

『国际中文教育中文水平等级标准』の別冊には語彙と一緒に品詞も記載されてるんですが、そこも空欄になっていたりするので、もうこれはみんなでああだこうだと議論しながら進めました。

分かりやすい動詞や名詞もありますが、「これはどっちともとれるよなあ」というのもたくさんあって、そうしたものは、「こういうケースは〇〇詞として扱う」という方針を決めながらという感じですね。

あと、『国际中文教育中文水平等级标准』に品詞の記載があるものは、なるべくその品詞で例文を作ってるんですが、よく使うと考えられる例文を作ることを優先したので、『国际中文教育中文水平等级标准』の品詞そのままではなく、あくまでも例文をベースにして、例文で使われている品詞を記載することにしました。

日本語訳はどの視点で?

ようやく例文が一通りできたら、今度は日本語訳を付けていったのですが、この訳も、あまりキレイに意訳しすぎると、学習者は「ん?この単語はどの日本語と対応してるんだ?」と気になってしまい、単語暗記の邪魔になってしまいます。

なので、基本的には直訳をベースにしました。つまり翻訳という目線よりも、やはり学習目線を優先しているというものです。この辺は訳を担当してくださった2名の協力がすごく大きかったです。

また、なるべく直訳ベースで、最低限キレイな日本語で訳をつけたものの、それでも訳に対して解説が必要なものもありました。

例えばですが、“西域”を「ウイグル」と訳したけど、これはそのままだとわけがわからなくなるので、なぜそう訳したのかなど、解説が必要なものは一部解説もつけることで対応しました。

例文のピンインはどうする?

例文のピンインについては声調の変化を反映させるべきかどうかを考える必要があり、学習者のことを考えて、音声とのズレが無い方が良いだろうということで、例文の方は反映させることで統一しました。

でも、反映させるのは一と不の変化だけで、3声連続は一般的なテキストでも反映されてないので、ここでも反映させてません。

全単語収録させる?

収録する単語についても悩みました…
悩んでばっかりですが、何を悩んだのかというと、例えば“把構文”といわれる構文にでてくる“把”などは、単体では訳すことも難しく、無理矢理掲載するために、動詞と捉えて「握る」などとしてしまうのも1つのやり方ですが、それでは掲載することが目的になってしまうので、こうしたものも含め、単体での使用が考えにくい語は掲載を見送りました。

そのため、『国际中文教育中文水平等级标准』の7~9級の指定単語は6536語ですが、カレタンでは31語少ない5605語収録にしています。

音声録音も

音声だけは、今回は標準語の資格を持った先生に録音をお願いしています。そして、7~9級の例文音声は、あまりに教科書的にゆっくりハッキリ発音してしまうと違和感が出るので、実際のネイティブスピードではないけれど、極端に遅くハッキリは発音しないで欲しいという、なんとも曖昧な依頼をしたのですが、しっかり意図を汲んで対応していただけました。音質はまだまだ改善の余地があるので、これは今後より良くできたらなと考えています。

単語の並べ順は?何個区切りにする?
アプリに掲載する場合、単語の並べ順も考える必要がありました。

・ピンインのアルファベット順
・品詞別
・ジャンル別

などが考えられるのですが、どれをとっても「これは並べ順から推測して、たしかアレだったよな」というような、並べ順に頼ってしまい、“その順番だから覚えられる”ということが発生し得るので、今回はランダムで並べることを選択しました。

また、アプリ上で何単語をセットとしてまとめるかについても決める必要がありました。

みなさん単語以外の勉強もあるので、単語に使える時間を1日約30分程度と想定して、1週間毎日30分程度の時間を確保した場合、どうにか頑張って覚えられる量という基準で200単語を1セットとしました。

たぶん1週間で200を覚えようと思うとちょっと多いと感じると思うので、ここはご自身の学習スタイルや現状の単語インプット量に合わせて、2週間で200やろう、3週間で200やろうなどとペースを決めて取り組んでいただくのが良いと思ってます。

最後に

ということで、何か文章にしてしまうとずいぶんとサラッとしてしまいましたが、こんなに大変だと知っていたら多分作らなかったと思うくらいに大変でした。

ただ、きっと今後の学習者の方にとって有意義だろうという確信があったので、こうした大変さも、メンバーみんなで楽しみながら進めさせていただけました。

また、the courageは本気の学習者を本気のコーチがサポートするというスクールなので、どうしても関われる学習者の方の数には限りがあります。なので、こうした単語帳を使ってくださることで、いつもとは違う形で少しでも多くの学習者のサポートになれば本当に嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

note記事内の画像


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?