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不思議な猫のお話

不思議な出会い

2018年各地で豪雨災害が起きる直前、長雨が1週間ほど続いている7月6日の夕方、一匹の灰色の猫がやってきました。
1週間ほど前から気配は感じていたものの、接点といえば試しに置いておいた牛乳がなくなっているくらいで、気になっていました。そんな猫がその日は、まるで腹を括ったかのように、葛藤を滲ませるような低い姿勢で私の足元へやってきました。
寒かったろう。ずぶ濡れだ。
そんな声をかけて、無言で見上げるその猫からそっと離れ、レンジで温めたミルクを少しあげることに。
耳を倒して急いで飲んでいるその隙に、ペーパータオルを取って戻り、そっと拭いてあげると、初めて声をあげて返事をしてくれました。
これがパネテリエのニャーとの出会いでした。
その夜、近隣では未曾有の災害が起きるも、ニャーがやってきたお店のデッキ部分は無傷でニャーを守ってくれました。
その日からお店の前に置いてやった椅子で眠り、豪雨災害の避難所へ届けるパンを仕込んいる間、夜中から朝出発するまで、ずっと窓の外から見守ってくれていました。

パネテリエのパン作りでは生産の工程で発酵を待つという時間があるのですが、真夜中に30分ほど休憩がありその間に電波の良い庭に出て、SNSなどで被災地の窮状を訴えたり、寄付をいただいた方々へパンの配達予定の報告などをしていました。その間ずっと横に座って私を見上げてくれていたのがこのニャーです。疲れ切った中で彼の存在はとても大きく、この大きな災害で折れそうな私の心の支えになってくれました。

突然の別れ

約半年間、朝から晩まで見守ってくれていたニャーがある日お店を去ります。
いつの間にか、ではなく、ニャー ニャーと何度も立ち止まって私を振り返りながら山の上の方へ。何を言っているのか、一緒に来て欲しいのか。
気になりながらも見失ってしまい、それを最後に全くお店へ現れなくなってしまいました。

避難所へパンの配達から帰るお昼前、必ずお庭で出迎えてくれました。

3年が経ち

豪雨災害を一匹の猫と一緒に乗り越えて翌年春に再オープンを迎え、アヒルが産まれたり、など色々な事が起こって2021年の5月、突然薪棚の下に現れたのが、少し丸い顔の灰色の猫でした。

すっかり傷だらけで、失踪以来、2回だけ近所で見かけたことはあっても、こちらに気づいて慌てて草むらへ逃げていたニャーが、再び心に決めた様子で私の元へ帰ってきました。
またいついなくなるのかわからないのですが、2018年に半年過ごしてその後突然居なくなり、3年ぶりに戻ってきたニャー。きっと恋に敗れて戻ってきたのだと思います。
今度はちゃんと病院へも行き、去勢してもらって今ではすっかりお店でダラダラと過ごす看板猫になりました。

新しい友達

山の落ち葉もすっかり落ちた2021年の冬の始まりのある日、山の上からカサカサと枯葉を踏む音に偶然気付き山に目を凝らすと、黒く細い生き物がこっちへヨロヨロと見え隠れしながら進んで来るのが見えました。
よく見ると真っ黒の艶やかな毛皮の下に肋骨も背骨も透けて見えるほど痩せた黒い猫でした。
どうせこちらに気づいて逃げ出すだろうと思いながら、ニャーの食べ残しの餌をお店の前に置いてみると、なんのためらいもない様子で私の目の前で大急ぎで餌を食べてくれました。

よく見ると耳に切れ込みが。調べてみると怪我ではなくて、去勢済みの印だそうです。

これからずっと居ていいよ。

それっきり、お店からいなくなることもなく、ニャーに比べるとずいぶん若い様子で、すっかり体型も健康そうになり、最初声も出なかったのも回復し、かすれ声で良く鳴く美しい雄猫になりました。まだまだ子供のようでトカゲを追いかけたり、草で遊んだりしています。
今では(2022年5月)去勢のおかげか二人とも毛を舐め合って一緒に眠って、仲良く暮らしています。

猫は必ず去勢をしてあげましょう。穏やかな性格で行方知れずも防ぐ事ができます。心優しいどなたかのおかげでクロちゃんは穏やかな毎日を過ごしています。とはいえ、近隣で猫を捨てないでください。大きなカラスに襲われ子猫のようなものが連れ去られ飛んでいるのを良く目にします。とても残酷な光景です。

豪雨災害の辛い日々を支えてもらった後、一旦は我々もお店の存続を考えることもありましたが、この猫たちが再び訪れてからというもの、パネテリエは模索の日々を抜け出し、コロナにも負けずお客様に恵まれているという不思議なお話でした。

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