見出し画像

【創作】金魚と蛙 #シロクマ文芸部

こちらの企画に参加です。

「金魚鉢の法則って、知っているか」
高校の昼休み、弁当を食べ終えた郷田と高橋はベランダに座りながら駄弁っていたが、高橋がふと思い出したように尋ねた。
「何だそれ、初めて聞いた。生物で出た話か」
「いや授業じゃなく、何かの本で読んだんだけど、金魚を飼う時に大きい金魚鉢だと大きく育つけど、小さい金魚鉢だと小さいままらしい」
郷田は興味なさそうな表情を浮かべた。
「環境が人を成長させるって意味だとしたらわからなくも無いけど、トンでも理論じゃないのか」
「環境だけじゃなくて、夢とか意志も含めて『大きい夢を持つ人間は大きく成長する』という例え話みたいだ」
高橋の顔はどこか寂し気に見えた。
強い風が砂を運んできて2人は顔をしかめた。

「この町しかしらない、高校を卒業してもこの町で生きていく俺は、小さな人間にしかなれないんだろうな。東京の大学に行ける郷田が羨ましいよ」
郷田は早稲田大学商学部への進学を希望しており、今の成績なら実現することは確実だった。2人とも成績は学年でトップクラスだったが、高橋は家庭の事情で大学進学ができず地元での就職を予定していた。ぼんやりとグラウンドを眺めながら話していた2人だったが、郷田が高橋の方に顔を向けた
「井の中の蛙、って知っているよな」
「知らないわけがない『井の中の蛙大海を知らず』だろう。俺の将来そのままだな」
高橋が自嘲的な笑みを浮かべる。
「続きは知っているか」
高橋はきょとんとしたが、郷田は真剣な表情で続けた。
「『井の中の蛙大海を知らず されど天の深さを知る』だ。お前なら、井の中だろうが金魚鉢だろうが、天を向き天を志し、いずれみんなが驚くような凄い仕事をする。と俺は本気で思っている」
高橋は天を見上げた。
澄み切った紺碧の空が銀山町を包み込んでいた。

郷田は慈しむような声で続けた。
「町とか村とか都会とかじゃなくてさ、この大きな空の下で俺たちは生きていくんだぜ」
「そうだな、同じ空の下でみんな生きていくんだな。金魚でも蛙でもなく俺は俺として、郷田は郷田として」
郷田は頷きながら、高橋の肩に優しく腕を回した。優しい風が二人を包み離れていく。

空は青く澄み渡り、天は2人に微笑むような柔らかな光を降り注いでいた。

(おしまい)

 知ってる人は知っている、知らない人には覚えてください「銀山町 妖精綺譚」に登場する2人の高校時代の話になります。「創作大賞2024」に応募しているこちらの物語です。

 30代になったこの2人が主要登場人物として話を展開していきます(主人公は別にいます)
 お読みいただきますようお願いします。
#シロクマ文芸部
#何を書いても最後は宣伝
 こちらとこちらも、創作大賞2024に応募しています。

余談ですが、本作品を投稿した翌日に「そい先生」がこのような呟きを投稿されました。

 凄いシンクロに驚きました。

サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。