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【企画参加】ふくしま逢瀬ワイナリー etc.

 2022年7月下旬、短いメールが送られてきました。
『ワインで賞を獲ることができました』
 送信者は、福島県郡山市にある小さなワイナリー、「ふくしま逢瀬ワイナリー」の所長でした。
 2016年3月に商品を初出荷してから6年4ケ月。林檎を原料とした「シードル」や「リキュール」でコンテストに入賞したことはありましたが、ワインコンテストでは高い評価を得ることができずに、忸怩たる想いを抱いていた所長の、悲願の入賞報告でした。

 メールを読んだ私も、もちろん嬉しい、というか凄く嬉しい気持ちを抱くとともに、葡萄を育ててくれた農家さんや、醸造スタッフに感謝しました。
 けど、何よりも嬉しいと思うのは、現在は仕事上の利害関係者ではない自分に、入賞を知らせてくれた所長の思いやりでした。

 このメールと前後して、古いワイナリースタッフからは、残念なメールが届きました。
「定年退職となりました。その節は大変お世話になりました」
 個人メールのアドレスからでした。直接お会いしたことは3回しかないのですが、そんな自分にも挨拶してくれるという人柄に感激しつつ、ワイナリーが誕生する前に、「復興支援」という目標に向かい、お互いに汗や恥を掻いた日々を思い出しました。

 2015年4月。復興支援事業を企画している企業の担当者から、
「ノープランです。モノになる保証はありません。締め切りは今年度末です。このような状況ですが、皆さんのお力を貸して欲しいのです」
 とオーダーを受けました。その時の私の心境については、ある架空の物語の場面を借ります。

 この時、打ち合わせに参加していた市職員は、この話について事業化が実現 できるとも、協力したいとも考えてはいなかった。
 そんな夢みたいな話が現実になるはずがない、バカも休み休みお話しくださいと。
 しかし、バカ な大沼だけは別な思考をしてい た。
(魔法は使えないけど、タネと仕掛けさえあれば 、魔法みたいなことはできるはず)
  夢は見るものじゃない、叶えるもの。

福島 太郎. 元宮ワイナリー黎明奇譚 Kindle 版.

 さて、私の場合は、話を聞いたのが金曜日でしたので、翌々日の日曜日、上司の了承を得ないまま、企業の担当者にメールをしました。

是非、一緒に仕事をさせてください。職場としての決裁はまだですが、上司を説得します。仮に組織として是とならなくても、個人として、できる限りのことを協力させていただきます。
 地元のことなら、お役に立てる部分もあると存じます。一緒に仕事をさせてください」

 結果としては、組織として、この企業の復興支援事業に協力することになり、私は担当を外れました。
 ただ、今でも「個人」として、この復興支援事業から生まれた「ふくしま逢瀬ワイナリー」を応援しています。

 この事業に携わった時に考えたのは
「一人の市民としてこの話を逃がす訳にはいかない」
 ということでした。

 組織の人間として考えたら場合、断るのがセオリーです。動いたらマイナスです。なんの成果や評価も得られないどころか、「駄目職員」と烙印を押され、出世どころか、上司の許可を得ずに動いたことで「懲戒処分」になるかも知れないという状況でした。

『けど、動かずにチャンスを逃したら、悔やんでも悔やみきれない。出世はいらない、懲戒処分も上等。チャンスを掴みに行く。失敗しても、命を獲られる訳じゃない』
 と考え、この復興支援事業への協力に邁進しました。

 私が関与したのは短い期間で、関与できたのは、小さなことでしかありませんが、ある時、初期の企業メンバーから、
『太郎さんがいなければ、この事業は立ち上がりませんでした』
 と仰っていただき、今も関係者の方と、繋がり続けることができるのは、小さな誇りです。

 けど、まだまだです。まだ、終わる訳にはいかないです。

どこかに通じてゐる大道だいどうを僕はあるいてゐるのぢやない
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
道は僕のふみしだいて来た足あとだ
だから
道の最端にいつでも僕は立つてゐる
何といふ曲がりくねり
迷ひまよつた道だらう
自堕落じだらくに消え滅びかけたあの道
絶望に閉ぢ込められかけたあの道
幼い苦悩にもみつぶされたあの道

高村光太郎:道程

 7年前の4月25日。僕は荒野に足を踏み出すことを決めた。
 組織という群れからは離れたけれど、歩みを止めるつもりはない。
 批判もあるし、非難もある。だけど僕は挫けない。
 戻ったり、迷ったり、滑ったり転んだりしても、歩み続ける。

 7年前、周囲からは馬鹿にされ、心配されましたが、今、ワイナリーがあり、葡萄畑があり、醸されたお酒が人を喜ばせ、笑顔を生んでいます。
 ワイナリーを訪れた方々の笑顔を見ることができます。

 あの日、一歩踏み出したことで、今の景色を見ることができることは、何と贅沢なことなのか、と思うのです。
 僕は組織からは評価を得ることができませんでしたが、小さな宝物を手にすることができました。
 その一つが、この「元宮ワイナリー黎明奇譚」という物語です。

 この物語は完結していますが、これからも「ふくしま逢瀬ワイナリー」が生み出す物語を、味わい続けたいと願っています。。

(本文ここまで)
#一歩踏みだした先に 
 こちらの企画です。

そして、#何を書いても最後は宣伝


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