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【駄文】ネタ供養 没にした第5話

 ネタ供養というのは「あおはる」さんが以前企画した『メモをとったけど結局記事にならなかったもの、謎の走り書き、noteに結局UPしなかったものなど、そういったネタを供養すべく記事にしてみる企画』になります。
 「題名のない物語」で私が考えた「第5話」、登場人物二人から「チガウソウジャナイ」と否定され、毎日投稿に挑戦中で時間が無いのに没にさせられました。「没にして良かった」とは思うものの、供養のために投稿させていただきます。当初(案)では美術館の後に、カラオケに行くはずでした。

 木元は音痴である。それもリズムが取れないとか、音程、音域などのレベルではなく、破壊者レベルの音痴ということになる。「お前の歌は酒が不味くなる」という話は、ある意味、適切な評価ということになる。
 聞いている人間が笑ったり、ヤジを飛ばしたりできなくなり、同情してくるレベルである。
 木元も壊滅的な音痴であることを自覚しているので、滅多に人前で歌うことはない。仕事の付き合いで歌う場合は、笑いのネタとして使えそうな選曲で、1~2曲をお付き合いする程度である。

 それがどうして、西野と二人でカラオケボックスにいるのか、何とも不思議な心境ではあったが、渡されたリモコンから曲を入力する。恰好つけることもなく、気を使うこともなく、好きな曲を歌うことにした。
 自分の歌で、西野の笑顔を曇らせることは残念な気もしますが、聞かせてあげましょう。中学時代、音楽の先生に
「木元、お前は歌わず、みんなの歌を聞くだけにしろ」
と言わしめた、破壊力のある歌唱力を。
(後悔するなよ)
覚悟を決めた木元は、心の中で呟くとマイクを持ち立ち上がった。
 タイトルが画面に表示され、イントロが流れ、歌う。逃避するように歌に没頭する。
 急に歌が上手くなることもなく、歌い終える。

 西野は、頷くだけで、コメントをすることもなく、自分の曲に備える。木元は手早く次の曲を入れる。選曲に気を取られることなく、西野の歌を楽しみたかった。
 交互に数曲を歌い終えたところで、休憩がてら西野に話かける。
「びっくりしたでしょう。あまりの下手さに」
「そうですね、ちょっと驚きました。木元さんにも苦手なことがあるのですね。けど、楽しそうに歌っていて、職場では見られない表情を見ることができて良かったです」
 確かに、楽しかった。歌うことに没頭できたのは初めてかも知れないと思った。
(そうか、自分はずっとしがらみ無く、歌いたいと思っていたのか)
そのことに気づいた時、泣きたくなるような気持ちがこみあげてきたが、笑顔で会話を続ける。
「ありがとうございます。楽しく歌うことができて、嬉しいです」
(西野さんと一緒にだから、楽しく歌えたのかもしれません)
「歌は楽しいものです。合唱歴20年の私が言うのだから間違いありません」
先生が生徒に教えるように、西野が応える。
狭い空間だというのに、澄んだ青空を感じさせるような西野の笑顔だった。
 計ったかのように、退室時間を告げるベルがなる。
「延長は、無しでよいですか」
「だいぶ歌いましたから、良いでしょう」
言いながら、身の回りのものを整えている。
店を出ると、イルミネーションが輝いていた。冬の夜は暗くなるのが早い。
食事をとるには少し早い。歩くには寒すぎると迷う木元を見透かしたように
「今日は、ここまでとしますか。駅まで送らなくて大丈夫です」
「わかりました。今日はありがとうございました」
軽く頭を下げた後、この前と同じように、右手を軽く上げる。
「じゃぁ、またlineしますね」
西野も軽く頭を下げると、クルリと背中を向け雑踏へと進む。
消えゆく後姿を見ながら、軽くため息をつく。
ご縁を大事にしたい。という気持ちに嘘は無いけれど、整理すべき課題を考えると、少し気が重い。
まぁ、まずは軽く空いたお腹を満たすとしよう。気を取り直して、いつものラーメン屋に向かう。



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