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【創作SS】快ケツ キューティーバニー   夜散歩

 男は胸を抑えて、驚愕した。
『財布が無い』
 一気に記憶を辿る、
(会社を出て、電車に乗り、コンビニに寄り、今。コンビニでの支払いは現金。そこまではあった。ならば、その後に落としたということか)
 自宅を目前にして、踵を返しヨタヨタ走り出す。
(そういえばコンビニで会計した後、上着を脱いだかもしれない)
記憶を辿りながら、足元を探しつつコンビニまで戻る。途中に財布は落ちていなかった。
(金はともかく、免許証やカード類を悪用されたら面倒くさい。まったく、とんでもないことが起きたもんだ)
 コンビニまで戻り、店員に財布の落とし物について確認したが、答えは期待外れだった。
 
 コンビニを出たところで、男が来た方向とは反対側に駆けていく、小さな人影を見た。小走りに走り去る手には、遠目ではあるが長財布のような影を確認することができた。
 男は若き日のような血潮でダッシュし、男の子の小さな襟首に手を伸ばした。
「この、泥棒がー」
叫ぶとともに、小さな影を引きずり倒した。その手に握られていたのは、間違いなく男の財布だった。
「子どものくせに夜遊びしたあげく、財布をパクろうとは、とんでもない小僧だな」
男は子どもに吐き捨てるように言った。子どもは何が起きたのか解らない様子ではあったが、
「僕、盗ってないよ。コンビニの前に落ちてたから、急いで交番に届けようとしただけだよ」
自分の状況を説明しようとした。
「何だと、財布を盗んだだけじゃなく、嘘まで言うとは、とんでもない子どもだ。おじさんが罰を与えてやる、世の中の厳しさを思い知れ」
男が手を振り上げた瞬間、男は背後に気配を感じ振り向いた。
「トラブル快ケツ キューティバニー推参。二人の闇を照らしてあげる」(ポーズ)
そこには白いバニースーツの女の子が立っていた。

「ま、まさか本当に存在していたのかキューティバニー。呼んでもいないのに何しにきた。とっとと月に帰りやがれ」
 男はキューティに近づき、突き飛ばそうとしたが、キューティは後ずさりした。
「お触り禁止、だけど返事は即ケツ、疑問は明瞭解答。ちょっとおじさん、混乱しすぎよ」
 キューティは男にウィンクすると、男の子の側に寄り体から埃を落とし、痛めたところを撫でた。
「痛いの痛いの月まで飛んでいけぇ」
「お姉さん、ありがとう。痛くなくなったよ」
子どもは笑顔を見せた。
「痛みを月逃(ゲット) キューティバニー。
おじさん、あなたのためにも申し上げますけど、まって、まって、まって、ちょっと待ってなんだもん。
 欠けても戻る月の光は、再生の力 
 ムーン ルネサンス パワー」
キューティの尻尾から銀色の光が放たれ、コンビニから出た、男の子の姿が映し出された。手には小さな袋があった。落ちている財布に気づき
「急いで警察に届けなきゃ」
 そう呟いた男の子が、財布を拾い小走りになったところで、画像は消えた。

「この子は、お母さんから買ってくるよう頼まれたアイスが溶けてしまい、お母さんに叱られることを覚悟して、交番に行こうとしたのよ」
キューティの言葉に、男は地面に投げ出されたコンビニ袋に目を向け、その場にヘナヘナとへたりこんだ。
「小さな、優しい心を踏みじる振る舞い
 お天道様が見逃しても、お月様は見逃さないわよ!」
キューティはポーズを極めた。

「自分の不注意なのに、君を傷つけるようなことをして、大変申し訳ない」
男の子に深々と頭を下げた。男の子は
「大丈夫です、お財布が戻って良かったです」
屈託のない太陽のような笑顔を見せた。
「拾得物としての謝礼はもちろん、それとは別に溶けたアイスの再購入と、できれば君を、家まで送りとどけさせて欲しい」
男は提案し、男の子は素直に承諾した。
 立ち去る二人にキューティは満月のような笑みで微笑んだ。

 この男の子が成長して就職試験を受けた際、人事担当の男が絶対的な信頼を寄せて採用を進言し、二人が会社を大きく成長させた未来があることを付け加えておく。

 子どもの家に向かう二人が夜空を見上げたとき、月は銀色に輝いていた。
(本文ここまで)

 キューティバニーを登場させたく、サムネ画像の「星ウサちゃん」を使いたく、本稿を投稿しました。お読みいただきありがとうございます。

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