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【創作 題名のない物語 第6話】中央大橋

 いつもどおり「激辛ラーメン」を注文したものの、何だか味気ない。替玉を1個食したところで、会計をお願いする。店員が心配そうな、何か言いたそうな顔をする。
「すいません、美味しかったのですが、お昼に食べ過ぎたみたいです」
聞かれてもいないのに説明する。確かに、普段は替玉を2個、多い時は3個注文する男に、1個で帰ると言われたら、店としては心配になるのかもしれない。お客さんの体調のこととか、味のこととか、接客のこととか。
 体調は問題ないけれど「恋の病」とか言うものに罹患しつつあるのかもしれない。そんなことを考えながら、墨田川まで歩く。
 羽海野チカ先生の漫画「3月のライオン」の主人公と同じような構図で、中央大橋を見上げる。自分が物語の主人公になったような気持ちで、この橋を見上げることになる日が来るとは考えてもいなかった。
 潮を含んだ風を鼻腔に感じながら、そのまま海に向かって歩く。この物語にタイトルをつけるとすれば、どうしようか。良い考えが浮かばない。そもそも物語になるのかもわからない。
 船が走る音が聞こえ、足を止める。川向うのタワーマンションの灯りを見ながら、少し考える。遅くならないタイミングで、lineをしなければならない。
「縁を大事にしたい」
 咄嗟に出た言葉としては、上出来だったのではないか。好意を寄せられているかも、という期待値は0では無かったけれど、そんなことはあり得ないと打ち消しながら美術館に向かった。良くも悪くも、少ない確率の方が正解だったらしい。そして、それを受け止めたいと感じる自分がいた。けれど抵抗感を抱く自分もいる。学生時代から、人間関係を深めることを避けてきたので、どうしてよいかわからない。
「まずは、正直に話をしよう」
 この先、彼女の気持ちを受け止められるのか、自分がどうしたいのか、今は考えがまとまらないけれど、彼女に対する気持ちが恋なのかわからないけれど、ハッキリしていることが一つだけある。
「西野さんと付き合う気持ちはない」
 そのことをちゃんと伝えよう。この高鳴りが消えるのは残念だけど、自分が自分でいるためには、曲げられないものがある。誤魔化したり隠したりしないで、正面から向き合おう。
 寒さから耳に痛みを感じたところで、川上に向かい歩き始める。付き合うつもりは無いけれど、彼女の歌をもう一度聞きたいというのはわがままだろうか。それは、考えても無駄なこと。答えは彼女しか知らないのだから。自分は誠実であることを考えよう。
冷たいけれど、優しい風が吹き抜けていった。

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