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出張! トンでもメガネイエロー

 司令官の前で制服を着たメガネイエローが一人姿勢を正して敬礼した。
「メガネイエロー 参上しました」
司令官は軽く目礼をして厳しい表情のままで話し始めた。
「皆の奮闘で魔怪人たちの野望は潰えた」
司令官の優しい笑みから温かい空気が流れてきた。しかし次の瞬間に表情がガッと険しく変わる。
「しかし奴らの残党が地方に散り、各地域にある悪の組織と手を組み組織的犯罪を継続しているらしい。そこで君には「帳面町」に行き地元組織に潜入捜査をして欲しい。悪の芽が小さなうちに摘むのだ。頼むぞ」
イエローは返事をせず困惑の表情を浮かべていた。
「どうした、何か不満でもあるのか」
「確か帳面町は犯罪発生率約0パーセント『日本で一番幸福度の高い町』だった気がします。そんなところに行く必要あるんですか。地元警察に任せておけば良い気がします」
司令官の顔がみるみる紅潮する。
「いいからお前は命令された仕事をしろ。悪の企みを阻止すれば良いんだ。作戦を練るのは俺たち幹部の仕事だ。現状、悪の組織『イービル・フラワー』が暗躍しているとの情報がある。詳細なデータはお前のパソコンに送付してある。準備が出来次第、帳面町に飛べ!」
イエローは返事をせず困惑の表情を浮かべていた。
「どうした、まだ何か不満があるのか」
「他のメンバーは出張時にご当地グルメを楽しむじゃないですか。なのに俺だけいつも『ご当地カレー』ばかりなのは、どうにかなりませんか?」
司令官は拳を強く握りしめ、怒りを抑えた声で応えた。
「お前も知ってるとおり、約50年前の初代戦隊から「イエローはカレー」が定番鉄板なの。その伝統をファンの期待を我らの代で壊す訳にはいかないだろう。ちゃんとご当地カレーの食レポを頼む。地方ロケはご当地観光協会とのタイアップで経費を浮かすんだから、我儘言うなよ」
そう言いながらもポケットから白い封筒を取り出し、一歩前に進み封筒をイエローに渡しながら小声で呟いた。
「とは言え、お前の気持ちもわかる。昼のうちに良いカレーの画が録れたら、夜はこれで楽しんでこい」
イエローは勢いよく敬礼した。
「了解しました。直ちに帳面町に向かいます」

 単身潜入捜査に成功したイエローは『イービル・フラワー』の幹部が拠点としている、いかにも怪しげなビルの最上階に侵入していた。
(ここまで来たが、魔怪人の動きは掴めなかった。さて事務所に潜入してみるか)
「侵入者がいるぞ!」
事務所のドアがバン!と開き、中から坊主頭の屈強な男が現れた。続いてワラワラとガラの悪い男たちが続く。慌てて階段に向かったイエローだったが下から人が登ってくる動きを感じ、止むを得ず屋上へと向かう。
(普通の人間を傷つける訳にはいかない。何とか話し合いで場を納めるか。駄目なら屋上から他のビルに飛ぶしかないか)

 それほど大きくは無い事務所の中にどれだけの人間がいたのか、屋上で刃物や武器を持った大勢の人間に囲まれるイエロー。そして最後に現れたのは「魔怪人シャークデビル」だった。シャークが嬉しそうに語りかけた。
「飛んで火にいる夏の虫ならぬ、屋上から飛んで地獄に落ちるイエローだな。単身忍び込んだ度胸は買うが、お前のデカい腹で正体はバレバレよぅ」
声を失うイエロー(もう少しダイエットしておくべきだったか)。

 その時、天から声が響き白いバニースタイルの美少女がイエローとシャークの間に降りてきた。
「お悩み快ケツ キューティバニー推参。イエローのピンチを晴らしてあげる(ポーズ)。時間がもったい無いから一気に行くわね。『バニー ウメッシュ!』」
 キューティの体から甘酸っぱい香り、フェロモンが発せられる。その香りに魅了された人間たちはボタボタと武器を落とし、その場にヘナヘナと座りこんだり横になったりしてしまった。いわゆる酩酊しているような状態である。
「チャンスを月兎(ゲット) キューティバニー。イエロー、後は頼みますね」
キューティはウィンクをすると漆黒の夜に消えた。残されたシャークが忌々しそうに呟く。
「全く、役に立たない人間どもめ。しかし俺がイエローを倒せばそれでいい話。貴様一人にやられる私ではない、戦隊として揃わなければ必殺技も使えまい」
イエローににじり寄ろうとしたシャークは、一人だけピンピンしている人間がいることに気づいた。ふっくらした体型をしていた。
「ほぅ、人間にも使える奴がいたか。ヨシ、二人でイエローを始末するぞ」
「はい、私一人では厳しいと思っていましたが、二人なら行けますね」
しかし、男は何故か手に持っていた刃物を放り投げた。
「そして始末するのに、武器など不要!」
言うや否や、が男がシュッと飛び上がる。シャークが宙を見上げ
「と、トンだ!」
と言う間もなく

ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン

男の不思議な技を受け、シャークがフラフラになる。

「イエローさん、奴は板の上のカマボコです。止めを」
男の落ち着いた声を受け、イエローは頷き声を張り上げた。
「世のため人のため、魔怪人の野望を打ち砕くメガネイエロー!!
 日輪の力を借りて……今、必殺の!タンク・アタァァァック!!」
ただの体当たりをぶちかました。しかし、弱っていたシャークは動けなくなりあえなく拘束された。イエローは不思議な技を放った男に向き直り尋ねた。
「協力を感謝する、俺はメガネイエロー。君の名前を教えてくれないか」
「名乗る程の者じゃぁありません。ただ帳面町の平和を愛する男です。また御縁があればお会いしましょう」
男はイエローに背を向けて静かに歩きだした。イエローの足元でシャークが
「イエローだけなら倒せたものを不覚。既に『骨皮筋衛門』が潜入していたことに気づかぬとは、ぬかったわ」
と呟いていたが、帳面町の山海の珍味に心を躍らせるイエローの耳には届かなかった。

 遠くからパトカーのサイレンの音が近づいていた。
 こうして今日も帳面町の平和は守られた。
(本文 おわり)

 お気づきの方も多いと存じます。今回は『頑強戦隊メガネレンジャー』のスペシャル企画「メガネレンジャーVS骨皮筋衛門」、note街の愛されキャラ「はそやmさん」が生み出した『ふくよかヒーロー 骨皮筋衛門さん』をゲストにお迎えしての「コラボ小説」でした。
 戦隊モノで「あるある」の展開ですね。はそやmさんには事前に「ゲスト出演」について内諾を得ていますが「骨皮筋衛門はこーじゃない」と指摘された場合は「下書き」に戻す可能性がありますこと、あらかじめご了承ください。
 タグに「#創作大賞感想」を付けさせていただきました。自称クリエイターとして「感想」を咀嚼して一つの作品とするのも「有り」という判断です。なので
#何を書いても最後は宣伝
 今回の自称「スペシャル企画」は「はそやmさんの創作大賞 感想・応援・宣伝」という位置づけですので、次のリンクから「本家本元 骨皮筋衛門」をお読みいただき、「太郎さんのところから来ました」とコメントを残していただきますようお願いします。




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