【再掲】ふくしま逢瀬ワイナリーのCIDER
「東日本大震災と原子力事故からの福島県の復興支援事業」という位置づけで事業化された「ふくしま逢瀬ワイナリー」で、最初に醸造されたのが「林檎」を材料としたシードルと「ぶどう」を材料としたロゼワインでした。
当初は「風評被害で売れない果物を活用できないか」という考えもあったようです。
しかし、林檎の生産農家の方と語り合う中で、宿題を出されます。
「うちのリンゴは日本一美味しいんだよ。これで日本一美味しい、シードルというお酒を造って欲しい」
確かに風評被害はありました。しかし、その農家さんが望むのは、販路の拡大とか在庫処理とかではなく「美味しいお酒を造って欲しい」ということだったのです。取引するための値段とか数量のことよりも、林檎に新しい命を吹き込むためにどうすれば良いか、お酒の材料としてどんな林檎が必要なのか、そのような話に多くの時間を費やしたそうです。
ある日、打ち合わせをしていたスタッフが農家さんに宣言しました。
「日本一は目指しません、世界一美味しいシードルを目指します」
まだ、ワイナリーの敷地には何もなく、雑木林を伐採しただけの、荒野のような風景が広がっていた時期の話になります。
それから5年が経過し、ワイナリーは順調に歩みを進めていますが、まだ約束は果たされていません。英国で開催されているインターナショナルシードルチャレンジコンテストという世界的な大会で、2回のブロンズメダルを取得しましたが、世界の壁は、シードルの歴史は、相当に部厚く、相当に高いようです。
「金メダルじゃなかったのか」
コンテストの入賞報告をした時、農家さんの第一声は祝意ではなく口惜しさでした。そして間髪を入れず、もっと美味しいシードルを醸すためにどうするか、意見を交わし始めたのです。
東北の片田舎、福島県郡山市逢瀬町にある従業員が数人しかいない「小さなワイナリー」が、世界一を目指している。シードルの本場に乗り込み「fukushima」、「ouse」の名を広げている。世界に広がる「fukushima」の風評被害に、小さなレジスタンスを行っている。
そんなことを考えながら、ワイナリーに流れる、この土地特有の緑に色づくような、山の精気を含むような、独特の色合いとの香りを含む風と、景色をつまみに、黄金色に輝くCIDERを口にする。
自分には世界一美味しいお酒を愉しむ大切な時間となっている。
なお、本稿は「2020年9月19日 」に投稿したものを、企画用にリライトしたものになりますが、2020年10月に発表された「第四回フジ・シードル・チャレンジ2020」において、ふくしま逢瀬ワイナリーのシードルが「最優秀賞 ・日本一」を獲得したことを追記しておきます。
農家さんからの宿題をワイナリースタッフは成し遂げました。きっと福島県の復興も、世界一のシードルも成し遂げてくれるでしょう。
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