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【駄文】巌のごとく

 自分で言うのも何ですが、年齢の割には柔軟な考え方をしているというか、するように意識しています。ただ、一つだけ譲れないというか、拘るものがあるとすれば、
「後輩を叱らない、否定から入らない」
ということがあります。もう少し踏み込んだ表現をすれば
「後輩を信じ、活かすことを優先する」
と言えるかもしれません。

 私が、この考えに囚われるようになったのは、30年以上前のスーパーマーケットでの体験があります。

 今の方は想像できないと思いますが、昭和の時代、スーパーマーケットで販売される商品にはバーコードがなく、商品の一つ一つに「金額を印字したラベル」を添付して、レジ担当は、それを1点、1点確認しながら、レジに金額を打ち込み、合計額を請求していました。

 時折、「金額を印字したラベル」が剥がれていることもあり、レジ担当はその都度、売り場に走り金額を確認し、お客様に金額を確認してレジに打ち込むということをしていました。

 稀に、意図的にラベルを剥がして適当な金額を主張するお客様や、ラベルを張り替えてレジに持参するお客様もいました。そのような場合、丁寧に
「申し訳ありません、金額を確認させていただいてもよろしいですか」
とお断りをして、売り場に走り、金額を確認してから、レジを打ち込んでいたのです。

 ある日、悪意満載で品物を持参したと思われるお客様から
「何をモタモタしている、これは〇円だと言っているだろう。客を信用しないのか」
と、詰められ
「申し訳ありませんが、確認させてください」
を何度か繰り返した後
「お前は、最低のレジ担当だ。この店は最低の店だ。二度とこないからな」
と、啖呵を切られ、私は
「ありがとうございます。それでは、そのようにお願いします」
と回答し、深々と頭を下げました。
 2年以上、レジを担当していて、初めての大きなトラブルでしたが、
「クビになっても良い。こんな理不尽を受け止めきれない」
という気持ちでした。
 そのお客様が、サービスカウンターに駆け込み、苦情を申し立てている姿を横目に、その後も笑顔でレジを継続しました。

 閉店し、レジを締めた後に店長室に行くよう告げられました。
 言い訳をするつもりはなく、クビを受け入れるつもりでいました。
 とはいえ、店長やレジのチーフに迷惑をかけたことについて、
「申し訳ありませんでした」
と謝罪した私に、店長が言いました。

『アルバイトとは言え、人間修養の場だから……。
 今日のことは切り替えて、また、明日からレジを頼めるかな』

 何のお咎めも、お叱りもありませんでした。ただ、言外に
「君のことを信用している」
と仰っていただいたように感じ、
「はい、明日からも頑張ります」
と応えることしかできませんでした。

 30年以上前の出来事ですが、今でも大切な宝物です。

 あの店長を目指し、後輩を信じて、理解しようとすることを続けています。時に裏目に出ることもありますが、追い続けたいと考えています。

 人生に大事なことを教えてくれたスーパーマーケットが、今でも大好きです。
 もう、店長もレジのチーフも退職しているはずですが、私がアルバイトをしていた店は、今もあり続けています。

 今も、様々な年齢や立場の方が「人間修養」を続けているのでしょう。

 何かできる立場ではありませんが、客として応援し続けたいと考えています。
 そして、自分の職場はもちろん、どんなお店に行ったとしても、他者を尊重し続けたいです。
 人生に大切なことを教えてくれた、スーパーマーケットに、一生をかけて恩返ししていくことを、巌のごとく心に誓っています。

(本文ここまで)
本稿はメディアパルさんの企画に参加です。

#好きなスーパー
ということですが、ちょっと変化球の投稿となりました。

 このことも含め、人生に大切なことをたくさん学ばせていただいたスーパーマーケットでした。
#何を書いても最後は宣伝
 特に関連性はありませんが、私の著書へのリンクを埋めておきます。お読みいただけたら嬉しいです。


 

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