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戊辰と会津とワインの話(会津ワイン黎明綺譚の背景)

 創作大賞2024に応募している「会津ワイン黎明綺譚」という物語の背景にある話です。できれば本編をお読みいただいてから読んでいただければですが、ネタバレはありませんのでこちらを先にお読みいたいてから本編でも大丈夫です。
 「会津ワイン黎明綺譚」という物語はフィクションですが、こちらのエッセイはリアルな話です。

 私の大好きな「ふくしま逢瀬ワイナリー」がある土地の字名は「郷士郷士」となっており、明治初期に土佐藩から入植(移住)された方々が開拓した土地と伝えられています。郷士というのは土佐藩独自の身分制度(一番下位の武士)であり、三菱商事創業者の岩崎弥太郎さんも郷士という身分だったそうです。

 さて「ふくしま逢瀬ワイナリー」は三菱商事が展開した「東日本大震災に対する復興支援事業」の一つとして誕生しました。
 一般的には「葡萄を確保してワイナリーを設立」するのかと思いますが、このワイナリーでは復興支援という緊急性から
「まずは地元に明るい話題を提供したい。ワイン用の葡萄を確保するよりも施設建設を先行しよう。そして葡萄をはじめとした原材料は福島県産にしたい」
という経緯があり、ワイナリーを建設するのと並行して、地元農家さんにワイン用葡萄の栽培協力を依頼するという、通常ではありえない順番になってしまったそうです。ちなみにワインの木を植えから葡萄の実が成るには最低3年が必要になりますので、ふくしま逢瀬ワイナリーがオープンした当初「ワイナリーは建設できたけど葡萄はない」という状況に陥りました。

 この危機を救ったのがメルシャンでした。メルシャンが醸造する日本ワイン用葡萄について主たる栽培地は山梨県になるのですが、実は昭和の頃から福島県会津地方でも、協力農家さんがワイン用の葡萄を栽培していました。
 メルシャンから福島県産の葡萄をお譲りいただくことで、ふくしま逢瀬ワイナリーでも初年度からワインを醸造することができました(醸造できた数量は少なく、すぐに完売してしまいましたので、私も1本しか購入できませんでした。ある意味、幻のワインです)。

 そしてメルシャンの歴史を遡ると、明治初期に活動された山梨県出身の「大藤松五郎(おおとうまつごろう)」さんが重要な役割を果たしているのですが、この方がワインの醸造を学んだのがカリフォルニアの「若松コロニー」だったそうです。
 戊辰戦争、明治初期に会津若松から移民した方々が農場開拓などに取り組んでいた土地が「若松コロニー」なのです。
 戊辰戦争における敗戦を受け、武士の身分でいることができなくなった方や住む土地を失った方々が、新天地を求めて会津の殿様から命を受け組織的に渡米した地になるのです。もしかしたら敗戦、滅亡を覚悟した殿様が会津の心を米国に残そうとしたのかもしれません。
 なお戊辰戦争で西軍を指揮し、会津藩を降伏させたのは土佐藩の板垣退助さんでした(官軍ではなく敢えて西軍と表現します)。

 戊辰戦争で敗戦した会津藩の方々が米国で開拓した土地と御縁のあるメルシャンが、会津で育てた葡萄を、明治期に土佐藩出身の方が開拓した地で東日本大震災からの復興を目指すワインとして醸したことになります。
 戊辰戦争が会津藩のカリフォルニア移民を生み、土佐藩からの入植、安積開拓を生み、時代を超えて、東日本大震災を超えて、希望のワインを誕生させました。
 壮大な物語を感じます。

 その後、郡山市を中心にワイン用の葡萄の栽培が進展し誕生したのが「Vin de Ollage」というワインになります。初期に販売されたワインのラベルには中心に「桜」をモチーフとしたデザインがあるのですが、実は開拓の象徴である「鍬」を丸く並べることで桜を表現していました。
 このラベルは「安積開拓」の開拓者たちと開拓者たちが植えた開成山公園の桜へのリスペクトとオマージュとなっていました。

 初期に醸されたワインは葡萄の木が若すぎて、ワインとしての味はまだ成長期にあると感じましたが、先人たちへの敬意と、郡山と会津そしてワインの歴史と物語、希望を感じながら味わうことができるこの「Vin de Ollage」は、市民として誇れる、地元の名品に思えるのです。

 なお、会津地方にある会津美里町(旧新鶴村)には「新鶴ワイナリー」も誕生し、日本ワインのトップブランドとして地元の産業振興や東日本大震災からの復興の一翼を担っています。
 
 戊辰から現代まで繋がる「会津とワイン」の話を知ってしまった私は
「この話を知ってしまった以上、より多くの方に、次の世代に伝えなければならない」
という重圧を感じ「空想と現実」を織り交ぜるながら「会津ワイン黎明綺譚」を書き上げました。

 同じ素材からもっと素敵な物語を書ける方がいると思います。下手な作品を世に出すことの恥ずかしさもあります。一方で
『俺が書かずに誰が書く』
という思いも沸き続けました。ふくしま逢瀬ワイナリー誕生の経緯を知り、新鶴ワインの美味しさを知り、戊辰戦争から繋がる縁を調べるような馬鹿は俺しかいない。それを無駄な労力と時間とお金をかけて書き残すような愚かな人間は自分くらいだ。
 賢い人はこんな「馬鹿で愚かで損」なことはしない。だけど、この物語を先人たちの希望の灯を消す訳にはいかない。

 損な想いを抱いたのが2021年1月のことでした。その時から3年ちょっとが過ぎて「会津ワイン 黎明綺譚」を「創作大賞2024 お仕事小説部門」という舞台に上げることができました。
 未熟な拙い作品ですから「受賞」を目指してはいません。ただ「戊辰と会津とワイン」という物語を誰かに伝えるきっかけになれたらとの希望を胸に抱いています。
(本文 ここまで)

 最後までお読みいただきありがとうございます。「会津ワイン 黎明綺譚」はこちらからお読みいただけます。

#創作大賞2024
#エッセイ部門
#会津ワイン黎明綺譚

また「ふくしま逢瀬ワイナリー」をモチーフにしたフィクションが「元宮ワイナリー黎明奇譚」になります。
#何を書いても最後は宣伝



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