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【最先端技術】話題の5Gヘアトリートメントってなに?

こんにちは、化粧品技術者の たろ です。
今日は最近話題の5Gトリートメントについて話します!

最近話題の5G と言っても携帯電話の話ではなく......
ヘアトリートメントのお話です。

ヘアケア技術にも世代があった!

第1世代: 石鹸シャンプーの時代。石鹸カスを取り除くためにレモン汁リンスをしていた
第2世代: 高分子シリコーンを使用したコートが大ヒット
第3世代: ポリペプチドや CMC など髪に必要な成分を配合したトリートメント
第4世代:多剤式のシステムトリートメント
第5世代: 髪の構造の修復ができるトリートメント
      引用文献: トライボロジスト第65巻第4号(2020)

神戸大学大学院の辻野先生によると上記のように解説されており、2017年くらいから第5世代のトリートメントが登場しております。
もう体験した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この辻野先生の文献が素晴らしいので、この解説を多めに記します。

第5世代の特徴

なんといっても髪を修復する力が段違いということです。酸と熱の力を利用するので「酸熱トリートメント」と呼ばれたりもします。
ターンオーバーすることで常に新しくなっている皮膚の細胞と違い、髪は死んだ細胞の集まりです。つまりどんなに栄養を与えても今生えてる髪を美しくすることはできません。
髪は修復するしかないのです。

第4世代までのトリートメントはダメージを受けた部分を覆い包むこと、内部に補修成分を浸透させることが一般的で、根本的な修復は難しいというのが常識でした。
ところが第5世代では髪の表面や内部に新しい架橋を作ることが可能になりました。つまりボロボロになった髪のタンパク質を繋ぎ直して、健康的な状態に修復することができるとも言えます。

キーワード:生体共役反応 (バイオコンジュゲーション)

生体共役反応とは生体成分であるタンパク質やペプチドなどに合成高分子、糖、脂質などを温和な条件下で化学結合させ複合体を形成することです。

髪の場合は構成するケラチンなどのタンパク質(あるいは末端のアミノ酸)に他の物質を結合させることで、ダメージで破壊されたケラチンの構造を修復してあげようというのがポイントです。

髪の大部分はケラチンと呼ばれるタンパク質で作られていますが、ケラチンはパーマやカラー、ヘアアイロンの熱や日常的に浴びる紫外線などによって「架橋」が破壊されます。これが髪のダメージの大きな原因であると言われています。
そして、ダメージを受けて架橋が切れた部分はアミノ酸が露出しており、健康な髪とは化学的に区別できます。そこをターゲットとして新しい架橋を導入することで髪を修復することができるというシステムです。

メカニズム解説

ここからメカニズムを解説します。
<ターゲット(髪側)>
ターゲットになるのは主に第1級アミンチオールカルボキシカルボニルの4種類の官能基が知られています。
第5世代のトリートメントでは第1級アミンをターゲットとした製品が多いのでここではアミンを中心に説明します。

図3

<処理剤>
処理剤として主に用いられるのはグリオキシル酸やレブリン酸、フマル酸などです。
特にグリオキシル酸が有名です。
反応強度はグリオキシル酸>レブリン酸>フマル酸と言われています。

図4

参考:「グリオキシル酸 特許」で検索すると、花王さんと資生堂さんの特許がヒットします。いずれも縮毛矯正やクセ抑制としての効果を謳っていますが、下記の理論が正しければダメージに対しても有効であると考えられます。
https://ipforce.jp/patent-jp-B9-5919267
https://ipforce.jp/patent-jp-A-2016-17069

反応のメカニズム

図5

反応は大きく分けて3段階です。

第1段階はほぼ自動的に起きます。ケラチンの中のリジンやアルギニン塩基とグリオキシル酸の反応基が接近します。
第2段階はヘアドライヤーなどの比較的低い温度で起きるとされています。
1つの共有結合と1つのイオン結合が形成され、架橋ができます。
第3段階はヘアアイロンなどの比較的高い温度(200℃前後)が必要です。
イオン結合が共有結合に変化し、2つの共有結合で架橋が再構成されます。

髪側の第1級アミンはダメージ部分で露出しているためタンパク質の構造を変性させずに結合させることが可能です。そのため一剤二剤に分ける必要がなく、一液剤のみでトリートメントが可能なのが特徴です。
この反応は髪の内部でも表面でも起きるため内側と外側を同時に修復することができそうです。
ポイントはこの反応が酸性下で起きることと、髪内部に十分に浸透させるために約30分置いておくことです。前述の花王さんや資生堂さんの特許でも同じような条件で書かれています。

デメリットとして匂いがキツイことが挙げられていますが、亜鉛塩を配合した第二剤による施術を行う事でこれを回避できるということが特許として公開されています。
https://ipforce.jp/patent-jp-A-2018-35093

このような条件があるため、グリオキシル酸やフマル酸による補修はサロン専用の施術として普及していくものと考えられます。

<2020.7.11追記>
美容師さんの視点で書かれているnoteがありましたので参考までに。
言っていることは同じですが説明の仕方が違うので理解がより深まると思います。

一般用でも配合出来る5Gトリートメント

では、一般の家庭でできる5G商品はないのでしょうか?
私は「γ-ドコサラクトン」が非常に優秀だと感じています。上手く使えばサロンの仕上がりが家庭でも実現できるかもしれません。
構造と仕組みと実験データを公開します。

図6

ラクトン構造に長い脂肪酸基が付いています。これらはヘアドライヤー程度の熱でラクトン環が開裂し、毛髪表面の第1級アミンとアミド結合(共有結合)することで髪表面を補修します。

図7

ドライヤー程度の熱で反応が起きるため一般のヘアオイルやヘアトリートメントにも配合することができ、日常的に使うことで楽に髪表面の補修をすることができます。残念ながら髪内部には浸透しにくいので、内部補修は難しいと思います。架橋のための構造だけでなく、自分自身にコート性の高い脂肪酸基がついていることもポイントです。

注意点これらの反応を用いるタイプの補修成分は、髪についている官能基以外にも反応性が高いことが知られており、特にカラー剤に使われている染料の一部と反応し脱色してしまうことが知られています。 反応性が高いために染料の一部の構造と強烈に反応し、置き換わってしまうということが知られています。そのためカラーをしている人は使用に際して注意が必要です。ただし、ビルドアップのようにこれからするカラーが入りにくい、ということはないと思われます。

各成分の評価

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