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これはmade in japan? 化粧品の原産国表示についてのルール

こんにちは、化粧品技術者の たろ です。

私がtwitterで行っている #毎日コスメクイズ という企画の中で、下記のような問題を出したところ、様々な反響をいただきましたので簡単にまとめてみたいと思います。

新型コロナの影響でインバウンドもすっかり落ち着いてしまいましたが、インバウンド全盛期の頃、中国人旅行者の間でmade in japanの化粧品が大人気だったことは皆さん記憶に新しいかと思います。

このmade in japanつまり原産国表示はどこの時点で決まっているか、皆さんご存知でしょうか。

結論

結論から言うと中身(バルクといいます)が本質的に作られた国です。
バルクを製造する場所が複数にまたがっている場合、最後にバルクに手を加えた国というのが一般的です。化粧品で最も大切なのは何と言っても中身です。これを製造国として記載することは理にかなったことだと思います。

化粧品の表示に関する公正競争規約運用基準によると
「原産国」の判定は、製品がその構成部分を含め一国のみで製造された場合はその国を原産国とし、製品の製造に二国以上が関与している場合は、「製品に本質的な性質を与えるために実質的な製造又は加工を行った国」を原産国とする。
http://www.cftc.jp/kiyaku/kiyaku04.html

なんだそんなの普通じゃん!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが化粧品は作るだけで終わりではありません。お客様の元に届けるためには充填や箱詰めという作業が必要です。
つまり中身さえ日本で作ってしまえば充填や箱詰めは海外で行っても made in japan という表記をすることができます。
折角なのでここからは充填技術も含めて解説していきます。

海外で行う理由

1つは工賃の安さです。化粧品のバルクは大きなミキサーを使って大量に作ることができます。例えば何百kg、多ければ10tほどのバルクを1回で製造することができます。すると何百何千何万本に相当するバルクを一度に作ることができます。
しかし充填や箱詰めは非常に手間がかかることが多く、機械で大量に充填や箱詰めを行う場合はそう多くありません。充填や箱詰め、シール貼りなどが手作業で行われていることが化粧品業界ではそこそこ多く残っています。

こうなってしまう理由の一つに小ロット多品種生産とにあると思われます。
長年仕様が変わらないロングセラー商品が多い企業はいいですが、そうでない多くの企業では、決まった商品を年中生産し続ける「専用ライン」があることは稀です。
期間限定品や増量品、お得なキットなど、生産数がそう多くはないもの(小ロット製品)が沢山ある(多品種)ので小ロット多品種生産と呼ばれます。企業の規模によりますが、企画された数量が数万個以下の場合、手作業でやってしまった方が早いという感覚があります。

化粧品・食品・医薬品は3品産業と呼ばれ、工場自動化・ロボット化しにくいため、生産の大部分を手作業に頼っております。そのため経済産業省は、今後来る人口減少の波により将来的には大きな痛手を受けるのではないかと警告しております。

例えば...

メイクパレットを見てみましょう。
これだけの色数アイテム、小道具、説明書、箱入れ、そしてフィルム包装、ダンボール詰めなどなどの作業を自動化するのは容易ではないことが想像できます。

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多色充填された皿が複数個+チップ+フィルムを正確に乗せる作業は、機械でやるには設定が難しすぎるため、人がやった方が早く正確。例えばこれが色違いで4種類あると、機械で管理するのは非常に大変です。数千個くらいなら人がやれば1日で終わりますが、機械でやるとセッティングだけで半日かかり、実作業に半日かかり、大がかりな設備が必要な割に生産効率があがりません。

このように非常に複雑なパレットなどを作る場合、作業工賃が原価に占める割合が比較的高くなります。そのためこのコストを抑えるために仕上げ作業を海外に委託するということは自然な流れだと思われます。

次に使用する機械が珍しい場合です。
これはパウダーや口紅の例ですが、表面にこのように美しい彫刻を施したり立体的に充填・成形したりする技術があります。しかしこのような機器は非常に高価です数億円レベルです。

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これを一過性の流行りのために購入するのは非常に経営リスクが高く、機械を持っているメーカーに充填を依頼するということがありますこれは日本国内のメーカーに頼むこともありますし、日本国内にない機会であれば海外のメーカーに頼むことになります。
この時に中身は日本で製造し、充填は海外に依頼することが発生します。これを専門的に言うとノックダウン生産と呼びます。

またクッションファンデーションが登場した頃ほとんどが韓国製だったと思います。容器や充填技術の特許について韓国企業が先行しており、日本企業はほとんど太刀打ちできなかったためです。現在はこれらの問題を回避したmade in japanのクッションファンデーションも登場しておりこれらの問題を解決したのだと思います 。

デメリットは?

もちろんデメリットがあります。一つは輸送です。
海外から輸送する場合、大きく分けて飛行機と船がありますが、飛行機は非常に割高です。緊急性が高い場合や、費用を上乗せしてもペイできるような高価格の製品でしか使えません。一方、船は期間がかかるだけでなく輸送中に高温にさらされたりしてバルクにとっても容器にとってもあまり良い条件とは言えません。また海外と取引するため為替のリスクを負うこともあります。
これらを総合的に計算してもノックダウン生産をするメリットがある場合、made in japanでありつつも海外で充填された製品が生まれることになります。

化粧品は多くの国の仕事で成り立っている

元のツイートに対してコスメ辞書通信 @cosmejisho さんから素敵なアンサーがありましたので紹介させていただきます。
こちらのように製造・充填・パッケージング以外にも箱や小道具を含めると非常に多くの国のお仕事が関わっていることがあります。このような調達や調整に関わる仕事も化粧品の会社では大切なお仕事の一つです。そのどれを欠いても化粧品として成り立たない、そんな大切なお仕事の集合で化粧品が成り立っていることを知っていただければ嬉しいです。

まとめ

原産国表示は中身を本質的に製造した国
充填は海外で行ってもmade in japanになることがある


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