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キンタマにメスを入れたけど精子がありませんでした【無精子症・Micro-TESE体験記】

キンタマにメスを入れてきました。精子ありませんでした。シン・種無しです。

色々書いたほうがいいこと、考えなきゃいけないこと、まとまってないことなど満載なんですが、この物語を始めた者の責務としてわかる範囲のことを書き残しておこうと思います。

これまでの流れはマガジンにまとまっています


「Micro-TESE」の手術当日の流れ

朝、普通に起きる。手術当日の夜はシャワーも浴びれないのでお風呂ためて禊のタマ洗いをしました。サウナや長風呂は精子に悪いというのでここしばらく控えており、久々の湯船が気持ちよかったです。

「手術3時間前までに食事を済ませる」以外は特に事前の準備はなし。妻と一緒に野菜とかいっぱい使ったオーガニック系のランチに行きました。手術前メシとして最適解な感じがした。

こういうので普通に米が食えるようになったの「老いたな」と思った

手術1時間前にクリニックに到着。ベッドと椅子のある個室に案内されて手術着に着替え。重症急性膵炎での入院以来、1年振りにこういう病院着を身につけたら一気に「患者」のマインドがよみがえってきた。キンタマも武者震いして縮みあがります。

点滴をして数十分待機。手術時の感染防止のための抗生剤も点滴で入れる。4カ月以上寝たきりの病人やったことがあるのでこんなん慣れっこですわ、と思ってたんだけど普通に「注射やぁよ、点滴やぁよ」になってしまったので、人は誰かになれないんだなと思いました。

時間になり、歩いて手術室へ。妻が付き添えるのはここまで。重症急性膵炎のときはまともに顔も見れずに手術になってしまったけど、今回は「行ってくるね」と声をかけられた。俺は自らの意思で、キンタマを切る(というか切られる)。

キンタマを切るのは「痛い」より「怖い」

(以下はキンタマ切られてフーフー言ってる人間の曖昧な記憶による記述です。正確性に欠ける部分も含まれると思いますのでご了承ください)

手術台に自分で乗っかり、両手は左右に広げて固定する形で寝る。手術着を半分たくし上げてキンタマを出す。室内には執刀する先生、看護師数名、胚培養士さん2名ほどといった感じ。

最初にキンタマ周辺をビシャビシャになるまで消毒します。続いて局部麻酔でキンタマに2本くらい注射を打たれる。ここが一番痛いというか怖い部分でした。男性のみなさんになら伝わるかもしれない形で表現すると、「キンタマを爪でギューッと潰される感じ」というのが近いと思います。キンタマ全体にボールが当たってバーン、いででーって痛さじゃなくてキンタマの一部分だけギューッとなって「ウグッ……」と声が漏れる感じ。伝われ……。

痛みにもいろいろあるけど「キンタマの痛み」って「キンタマの痛み」以外に例えられない、オンリーワンの痛さなんだな、ということがはっきりわかりました。メス入れるときも何度も先生が「痛くないですか?」って聞いてくれましたが、痛いというよりは「怖い」というほうが強くて、僕はずっとフーフー息をしていました。これ書いててもあらためて怖い。

精子がないのをこの目で見た

「Micro-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)」はその名のとおり、キンタマにメスを入れて顕微鏡で精子のありそうな場所を探して切り取ってくる手術です。無精子症の人でも、キンタマの中の白くて太い精細管(白子みたいなやつ)には射精されない未出荷の精子がいくらか作られている場合がある。よさげな精細管を探すのが先生の仕事、取ってきた精細管を顕微鏡で調べて精子を探すのが胚培養士の仕事です。

手術中は顔の前に目隠しの布みたいなのを垂らされますが、右側にモニターがあって胚培養士さんが顕微鏡で精子探してる様子は自分でも見ることができます。ちなみにその隣にキンタマ内部を映しているモニターもあるんだけどそれは目隠しのせいでちょこっとしか見えない。怖いので見えないほうがいいけど。どんな様子か写真で見たい人は適当にググると出てきます。

で、先生がよさげな精細管をつまんでは「ディッシュ」という顕微鏡用の皿に入れて、その中身がモニターに映されるんですが、まあ確かに精子がありません。丸い細胞みたいなのは見えるんだけど、動いてるオタマジャクシみたいなのがない。素人目に見ても「なんも動いてるもんがいないな」というのが一目瞭然なので、確かにこれは「ちゃんと探したんですか!?」みたいなこと言えなくなるなと思いました。

先生もキンタマ見ながら「うーん、これは……」みたいなぼやきをしてるのでなんとなく芳しくないのはわかる。可能性は低いですが「反対側のタマも開けてみましょう」ということになり、早ければ30分で終わる手術が1時間以上になりました。

おそらくよくならない「後天性の無精子症」

術中に詳しい説明もしてくれました。ここ特に正確性に欠けるし後日あらためて詳しい話聞きに行くので間違ってる部分多いかもしれませんが、僕がよくわかんないなりに認識したことを書きます。

それによると、「先天性の無精子症の人とは違う状態なので後天性の可能性が高い」「白いはずの精細管が薄く透明に近くなっている(以前は作っていたけど今は作っていないケース?)」「普通はすぐ剥がれる精細管がかなり癒着している」「重症急性膵炎による炎症、もしくはその治療に伴う薬品などの影響の可能性はある」「精子になる細胞自体がないので時間が経てばよくなるという可能性も低い」という感じでした。

繰り返しになりますが、僕もキンタマ切られながら話してるので細かいことまで理解できてません。また、無精子症自体がほとんど原因不明のもので、正確なところはわからないなりに先生の経験などに基づいて話してくれた感じです。「曖昧なことは言えません」的なお医者さんも多いと思うんですが、何事も理由欲しい派の自分としてはいろいろお話してくれるお医者さんでありがたかったです。

それでもまあわかりやすい話にまとめれば、「酒飲みすぎて膵臓爆発した結果、生き延びたけど一生精子作れない体になった」という形になります。今のところ。

さすがに妻も泣いていました。ごめんね。

そんな感じで取れる限りの素材は取ったのでいったん縫合して終了となりましたが、術後も培養士さんは引き続き精子を探す作業を続けてくれると言っていました。細胞の状態などより詳細な分析もしてくれるそうで、来週抜糸と合わせてもう一度話を聞きに行きます。場合によっては今後も何かできる治療があるかもしれない、みたいなことは言っていました。最後まで寄り添ってくれるのありがたい。とはいえ精子の素になる細胞がないって時点でまず厳しいと考えていいのかなとは思ってます。

今後のこと

手術後、1時間ほど休んで電車とタクシーで帰宅。ちょっと恐る恐るではありますが自力で歩けました。帰ってからちょっと仕事もした。

麻酔切れてからもキンタマぶつけたときのズキズキした痛みがちょっとあるくらい。痛み止めも処方されたロキソニン飲んでるだけで、座薬のほうは使ってません。妻は「痛くないの?その弾丸(座薬)入れないの?入口に……」と謎に食いついていましたが。

ただ傷口にガーゼ貼ってあるんですが、夜にトイレ行ったらパンツに結構血がついてました。少量の出血はわりとあるらしいので、ガーゼ足しただけで今んところは大丈夫です。めっちゃ腫れたりとかしたらヤバイけどそれはなく、一晩明けたら痛みもより落ち着きました。上手にキンタマを切ってくれたことに感謝です。

たくさんの方に励ましの言葉をいただきました。ありがとうございます。「なんて言っていいかわからない…」という人も含め、お気持ちありがたく受け取りました。実際僕もなんて言っていいかわからんままこの無精子noteを書いてきました。

子どもを持つのは結婚、というか付き合う前からの妻の悲願です。妻はまだ子どもを産める可能性が高く、精子提供などの道も以前から検討していました。

精子なくとも人生は続く。どんな夫婦、家庭にしていきたいのか。自分には何ができるのか。これからあらためて2人で考えてみたいと思っています。

手術後、妻がくれた「玉痛見舞い」(手紙とがんばったご褒美のいいお財布など)
著者近影(38歳・種無し膵無し)

以下、マシュマロ返信です。無精子関連でいただいたもので、妻(いみちん)からも一部長めのコメントをいただきました。
(おまけの文章量としてはだいぶボリュームあるので200円にしてありますが、マガジン購入者やメンバーシップの方には特に影響ありません)

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